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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 ジニス教官は、毎年二回生の実技指導の長を務めている。

 指導教官は何人かいて、持ち回りで長をこなしている。
 ジニス教官はその中でもう五年以上続けているのだとか。

 趣味は、竜に乗って走り回ること。そのまんまだ。

 僕たち一回生は、数日間にわたって二回生の訓練内容を見学することになった。

 はじめはおっかなびっくりだったが、すぐに竜が近くにいても萎縮することもなくなり、最後には竜の真横でふざけ合うくらいには平常心を保てるようになった。
 慣れとは怖いものである。でもふざけるのは危険だからやめよう。

 ちなみに小型竜が身じろぎした際にぶつけられれば、人は簡単に骨折するし、足を踏まれれば、骨が粉々になってしまう。

 つまり竜の怖さを十分知った上で慣れろとジニス教官は教えてくれた。


「ようやく見るのにも慣れてきたな、ヒヨッコども」
「はい、大丈夫になりました」

 ジニス教官の問いかけに、同級生のひとりが答えた。
 実際、全員がすぐ近くに竜がいても怖がなくなった。

 はじめは遠くから竜が走ってきただけで尻込みしていたのだから、すごい進歩である。

「竜に慣れるようになって俺は嬉しいよ」

「「ありがとうございますっ!」」

 僕を除いた全員が唱和した。
 この流れはおかしい。

「もう竜は怖くないか?」

「「怖くありません!!」」

 だから気付こうよ!
 この流れは変だって。

「じゃあ、次の段階に進んで平気だな。おい、ヒヨッコども。乗ってみろ」
 この授業見学は、僕たちを竜に慣れさせるためだけでなく、二回生の訓練も兼ねていた。

 つまり、二回生が竜に僕たちを乗せて移動するのである。
 もちろん、竜を操る二回生はいまだ人を乗せたことがない。

  どういうことかと言うと……。

「人身御供か」
 ようはいずれだれかを乗せなければならないので、おまえたちが実験体になれということである。

「………………」

 急に怖気づく同級生たち。

「なあに、落ちても死なない確率が高い。安心しろ」
「………………」

「あの、教官」
「なんだ? レオンか。質問があるなら、言ってみろ」

「もし竜の背から落ちた場合、怪我をする確率はどのくらいでしょう」
「怪我せずに落ちられるのか?」

 不思議そうな顔で問い返された。怪我確定かよ。

 小型竜でも、詰めれば六、七人は乗ることができる。
 その状態で速度を出せば危ないし、乗っている人間はたえず緊張を強いられる。

 そのため、安全を考慮して竜操者ひとりにつき、同乗するのはひとりに決められた。

 少しくらい重量が増えたところで、竜の負担としてはさほどでもないらしい。
 つまり、一旦走りだせば、相当な速度が出ることになる。

「同室の者とペアを組み、一対一で乗せてもらえ」
「「……は、はい」」

 同級生たちが尻込みし始めた。気持ちは分かる。
 僕はマーティ先輩の走竜に乗せてもらうことになった。

「一応揺れないように走るけど、振り落とされないようにね」
「分かりました」

 二回生にしても、自分以外を乗せて走るのは初めてのようで、顔も声も緊張が隠せていない。
 つい数ヶ月前まではおっかなびっくり乗っていたのだから、当たり前かもしれない。

「思ったより実践的な訓練が多いんですね」
「学院の生活期間は残り少ないしね。短期間で僕らを一人前にするのは大変だと思うよ」

 竜に選ばれたとはいえ、もとはただの町民である。
 幼少時から特殊な訓練を受けているわけではない。

 そもそも竜紋が現れてから訓練をはじめたのだ。いまだ覚悟が足りない者もいる。

 そんな者たちをたった一年でものになるように育てるのだから、甘いことばかり言っていられないのだろう。

「まず真っ直ぐに進むところからいこう。そのうち旋回、旧停止、急発進とやることを増やしていくからね」

「えっと、先輩。それって、やることが決まっているんですか?」

「ああ、課題なんだ。すべて合格できないと補習でね。落下や怪我があると減点。死亡させてしまった場合はペナルティが付くんだ。なるべくペナルティが付かないようにがんばるよ」

「なるべくではなく、絶対でお願いします」
「ははっ、そうだね。じゃ、いくよ」

 この二人乗りの騎乗訓練は、最終的に十五日間も続いた。
 最後の方は、僕らを乗せたまま障害物リレーが行われ、順位を決めるレースになるほどだった。

 ちなみに、やはりというか、何人かは振り落とされていた。
 怪我人は出たものの、重篤じゅうとくな者や死者は出なかった。

 毎年こんなことをやっているのだろうか。
 不思議に思ってマーティ先輩に尋ねてみると、「去年もあったなぁ。でも、こんなレースはやらなかったけど」とのんびり言われた。

 どうやらレースは今年だけの行事らしい。なぜだ?


 僕は三月に王都へやってきて、四月に入学式を終えた。

 そこから座学を中心に勉強をしつつ身体を鍛えて、いまは五月の終わり。
 今月の授業はほとんど二回生と合同で、竜に慣れることに費やされた。

 慌ただしくも充実した毎日だったことで、僕はとあることをすっかり忘れてしまっていた。

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