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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 ソールの町から陰月の路までの道のりは長い。
 その間、ゆっくりと飛行する。

『なぜ急がんのだ』
 不審がる声が聞こえてきた。不満なのだろう。

「この辺はしばらく飛んでなかったからね。いろいろと確認したいんだよ」
 王都にいるときに聞いた話。
 回天のときに月魔獣があちこちに出現して、竜操者の対応が遅れたらしい。

 最近リンダが言っていた話。
 町への被害対応に手一杯で、月魔獣が降下したことに気づかず、村が襲われたところもあったようだ。

 日々睡眠を削って竜操者たちは巡回を続けていた。
 それでも竜国全土を網羅するには、竜操者の数は足らなかった。

 できる範囲でしか対応できないのだ。
 被害をゼロには出来なかった。それは僕にも分かる。

 ならばせめて、その被害がどんなものだったのか、この目で確認しておきたかった。
 実際、街道に沿って飛んでみるとよくわかる。

 町や村のいくつかは、明らかに月魔獣によると思われる襲撃跡が残っていた。
 王都で僕が英雄ともてはやされるのも分かる気がする。

 いつ襲われるかもしれないと日々怯えて暮らす中で、シャラザード一体いるだけでどんな月魔獣でも倒せると分かれば、それは崇めたくもなる。

「いくら英雄と言われたって、僕ができることは少ないのにな」

 だからこそ、象徴としての存在が必要だったのだろう。

 破壊された村をまたひとつ見つけた。
 防衛にはどうしても偏りができてしまう。
 とくに人口が少ない一帯は竜操者の巡回が減り、気づくのが遅れる。

『あれはひどいな』
 シャラザードも気になったようだ。
「半壊しているね。村は……放棄したのかな」
 人の姿は見えなかった。

 月魔獣は、人がいるところへ向かう習性がある。
 村人の姿はない。早々に放棄したのだろう。

 こういった場所が竜国内にいくつもあると考えると、気が重くなる。

「シャラザード、僕らはクロウセルトの町を拠点とするから、このまま真っ直ぐ北に向かうよ。ただし、陰月の路を横断するから、途中で戦闘があると思う」
『心得た!』

 陰月の路が北にずれたことで、竜操者の大規模な配置換えが行われた。
 いまは、ウルスの町とヒューラーの町、そしてクロウセルトの町に竜操者を集中させ、しばらく運用していくことになっている。

『……腹が減ったの』
「喰ったばかりだろ!」
 何を言っているんだ。

 怪我を治すためにずっと大量の餌が与えられたことで、シャラザードは「喰いたいときに喰いたいだけ喰う」という環境に慣れてしまったようだ。

 シャラザードに乗り込もうとしたら、首の辺りに肉が余計についているのを発見した。

 あれはどう考えても余分な肉だ。前はもう少し、首回りはシャープだったのに、いまはタプザードになってしまっている。

『しかし我が力を出すには、喰わねばならんのではないか?』
 なんだその弱気な発言は。

「おまえ、食い過ぎたら身体が重くなって動けなくなるだろ? そうなったら月魔獣狩りが出来なくなるぞ」

『む。それは困る』
「だったら規定の日数まで我慢するんだ。いまはただでさえ怪我を治すのに運動不足なんだから、追加はなし!」
『ううむ……』

 納得いかないようだが、そこは守ってもらうしかない。
 ちなみに、僕を含めて軍属でない数多くの竜が、月魔獣狩りに参加している。

 竜たちが食べる分の餌代、いわゆるシャナ牛の費用はパトロンが負担する。
 だが、戦闘によって怪我をした場合や、過剰に動いて余計に餌がかかった場合は、国が実費で負担することになっている。

 シャラザードの場合、普段から長距離移動や戦闘もそれなりにするので、月に十頭のシャナ牛を食べる。

 今日からの狩り三昧したとして、今月十三頭のシャナ牛を食べた場合、追加の三頭分は国が負担することになる。
 細かいが、この辺は重要なことだと思う。

 そして戦いのローテーション。
 僕はクロウセルトの町を中心として活動するが、そこを範囲としたいくつかの場所に配置されることになる。
 しばらく戦って、次の場所へ移動するらしい。

 これは他の町でも一緒で、特別任務を得ている竜操者以外は、みな同じ扱いになる。
 いま、竜操者による被害調査が行われていて、天蓋てんがい山脈や魔国、北嶺地帯にまで、調査の竜が派遣されているらしい。

 それと僕には関係ない話だが、軍属の竜操者たちは、大転移時の働き如何によって、すぐに出世できるようになるらしい。

 やる気を引き出すつもりらしいが、どうやって成果を蓄積させるのだろうか。
 というか他の竜操者より目を見張るような活躍をする状況って、死ぬ一歩手前ではなかろうか。

 運良く死ななかったから出世した、そんな風になるのではないかと危惧していたりする。

「……そろそろかな」
 街道が姿を消して、植林による天然の防壁が見えてきた。

 植林地帯は、竜国がわざと作った場所だ。
 月魔獣の足をとめ、居住地域に向かわせないために、竜国が何十年、何百年もかけてそのような措置をとってきた。

「あれが見えたということは、陰月の路が近いってことだな」

『よし、腕が鳴るわ』
「今日は戦わないぞ。近くの宿泊施設に行くだけだから」

 ゆっくり飛んだので、もう暗い。今日はここまでだ。
 僕は竜操者用の宿泊施設を見つけてそこへ下りた。

「御苦労さまです」
 降り立ったとたん、労われた。

 竜務員にシャラザードを任せ、僕は到着時の記録を書いて提出する。

 その間に巡回に出ていた人たちが続々と戻ってきていた。
 いい機会なので情報を集めておくことにする。

「ここはウルスの町の管轄なんですか」

「はい。本来ならばこのあたりも重点的に見回る予定だったのですけど、最近魔国国境からあ流れてくる月魔獣が多く、そちらへ戦力のほとんどを割いている状態です」
 この辺は手薄になっているようだ。

「国境の向こうはどうなっているんですか?」

「さすがに被害が大きいので、国境を越えて調査に出向いています。かなり奥まで入った者によると、以前ならば居住地があった場所も、いまは人の姿がないようですね」

 村などがもぬけの殻になっているらしい。
 月魔獣に襲われたのならば、外から見てすぐに分かるが、それがないことから月魔獣の襲撃前、自主的に村を捨てたのではないかと考えられているとか。

「住んでいた村を自主的に捨てた……ですか。ちょっとおかしいですね」
「はい。上司は魔国の動きが読めずに困っているようです」

「情報ありがとうございます。僕は北方に向かうので、今の話も気にしておきます」

 僕が向かう北方の町も魔国と接している。
 ウルスの町と同じようならば、いろいろ考えなければならない。

 ちなみにヒューラーの町は、南東部に竜国の穀倉地帯がある。
 陰月の路が北上するにしたがって、ヒューラーの町の北部が使えるようになるのではと期待がもたれているため、ここにもそれなりの数の竜操者が派遣されている。

 逆にクロウセルトの町は、このままあと一、二年で陰月の路に飲み込まれてしまうため、防衛の重要度が低い。

「……その分、日を追うごとに戦いは苛烈になるだろうな」

 町のすぐ近くに月魔獣が降下してくることになるだろう。
 シャラザードにとってそれは願ったり叶ったりだろうが、町を放棄するまで、絶え間ない戦いが行われそうだ。


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