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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 リンダと一緒に、馬車に揺られて商工会議所に向かう。

「なんで僕が行く必要があるの?」
 リンダの商売に必要だからかと思ったら、それだけではないらしい。

「あなたが顔を出した方がいいのよ。理由としては、他の商会に対する牽制かしら。あなたに対する接触を肩代わりしてもらうつもりなのよ」
「?」

「意味が分からないって顔ね。わたしがあなたのパトロンになったでしょ。ルッケナ商会は竜国の王都から北方にかけて存在する大きな商会のひとつだと自負しているわ。けど、このレベルならば国中にあるのよ。もちろん魔国や商国だってそう。同程度以上の商会の場合、商会を通して正式に招待されたら、つきあいの関係上、断れないのよね」

「招待? だれを……って僕?」
「そう。どこぞの町の領主が会を開いたとか、商会が主催した大規模なパーティがありますとか、名目はなんでもいいけど、わたしとあなたが招待されることは十分考えられるわ」

「そういうのはありそうだね」
 リンダが断りづらい誘いはたしかにありそうだ。

「直接わたしのところに来るとさすがに『毎回出席できません』じゃ、相手に対して失礼でしょ。お互い交流があるわけだし」
「そうだね」

「だからソールの町の商工会議所に間に入ってもらうの。さすがに七大都市の商工会議所に無理強いはできないからね。規模が違うし」
「あー、上の権力を使うわけか」

「そう。この前もある商会の設立五十周年記念パーティがあったの。あなたの卒業式と重なっていたから大丈夫だったけど、こういうお誘いってひっきりなしにくるのよね。なので対応窓口を移したいわね。今日のことは気にしなくていいわよ。適当に話を聞いてあとはお願いしますって感じで友好的に接すればいいから。顔合わせをしてお互い知り合いになると向こうにもメリットがあるからね。組合長から『悪いようにはしませんよ』と確約をもらって、今日はお終い。あとはわたしが後日交渉するわ。そこで他の商会からみの面倒を押しつけちゃうから」

「それでいいの? 向こうだけが損をするような」
 面倒事の処理をしてもらうわけだし。

「その辺はお互い様になるわよ。わたしを通して、あなたが少しだけ向こうの言うことを聞く感じかしらね。パーティに出たりとかそういう仕事が入ってくると思う。けど、あなたが英雄なんてなるから、ひっきりなしに『会わせろ』と押しかけてくる今の状況をなんとかしたいわけ。突っぱねるのも簡単だけど、商売人どうしの恨みは怖いでしょ。ソールの町の商工会議所に寄親になってもらって、そのへんの煩わしさを早めに無くしておきたいのよ」

「なるほど、分かったよ」

 英雄と呼ばれて……もちろん僕は作られた英雄だけど、そのせいでリンダの方に面倒事が殺到しているわけか。
 考えてみれば、そうかもしれない。



 馬車は石造りの立派な建物の前で止まった。

「ここがそうよ。他国の商人たちがこの町で商売をするときに、まずここを訪れるのね。だからここは活気があるわよ。人の出入りが多いし、いろんな商人が集まっているわ。それにね……」
 リンダが説明するので、「へえー」とか「ほー」とか相づちを打つ。

 僕は〈影〉としてこの建物には潜入したことがある。
 深夜に入るのとは違い、リンダの言うとおりたしかに活気がある。

 広いエントランスに、いまも二十人以上の人がたむろしている。
 技国風の服を着た商人もいれば、魔国から来たと思われる人もいる。

「こっちよ」
 リンダはどんどんと中へ歩いて行く。

 階段をのぼり、上階へ行くに従って人の気配はなくなっていった。
 重要人物が使用する一角だろう。

 リンダが木製の重そうな扉をノックして、応えを待ってから中へ入った。

「ルッケナ商会のリンダです。こちらはわたしがパトロンとして支えておりますレオン操者です」
「はじめまして、レオン・フェナードです」

 室内には四人の男女が待ち構えていた。みな笑顔を僕に向けている。
 中でも一番年嵩の人が、僕の前にやってきた。

「はじめましてだね。ソール商工組合の組合長をしているネイズンだ。こちらが副組合長のオータンとクリミナ。そして交易商人のカイスリンだ」

 ここからは商人タイムらしく、みな順番を守って僕に挨拶をしてくる。
 僕もそれにひとりずつ応える。

 互いに紹介が終わり、席につく。
 ここからは雑談タイムだ。商談をするわけでもなく、情報交換でもない。
 今日はいわば顔見せ。

 リンダが率先して話すので、僕が聞かれたときだけ答えれば良い。
 そのせいか、顔合わせは和やかに進んだ。

 組合長のネイズンは六十代後半の老人で、にこにこした顔を崩さない。
 経験の浅い僕ではその裏の顔はうかがい知れないが、〈影〉時代からこの人の悪い噂は聞いたことがない。
 もう二十年くらい組合の役員を続けているはずだ。

 好々爺で、懐の深い老人という印象を僕は持っている。
 ソールの町は土地柄か、外からやってくる商人が多く、王都の商人にくらべて清濁を合わせて飲み込むことができる。

 副組合長のオータンは過去に一度調べたことがある。裏はなかったが、やり手すぎて誤解されることがある人物でもある。
 ネイズン組合長が退任したら、この人がトップになるのだろう。
 年齢は五十代くらいに見える。

 もう一人の副組合長であるクリミナという人は知らない。
 僕が王都に行っている間に役に就いたのかもしれない。年齢は四十代後半くらいか。
 女性なので、年齢よりも若く見せている可能性もある。

 一番若いのが交易商人カイスリンだが、それでも三十代後半くらい。
 雑談のついでにきいたら、商国と魔国にも拠点を持つ大きな商会の一員らしい。
 竜国の拠点責任者だとか。


「ではそういうことでよろしいですかな」
「ええ、構いません。よろしくご指導くださいませ」
 にこやかにリンダが応対して、顔合わせは終わった。

 どうやらリンダは、正式にルッケナ商会の支部をこの町に作ったらしい。
 名前こそルッケナ商会だが、支部は独立採算制を採用している。
 つまり原資はリンダの資産のみ。儲けが出ても本部、つまりヨシュアさんの元へは還元しない。

 利益を自分で運用して、商会を大きくする感じになる。
 リンダってまだ学生だよな。新しい商会を立ち上げたようなものだが大丈夫なのか?
 見ている限り、危なっかしいところもないから、平気だろうか。

「有意義な時間をありがとうございました」
「なになに、お役に立てて光栄じゃ。ともに発展してゆきましょう」
「はい。何とぞよろしくお願いします」

 こうして僕らは馬車に揺られて店に戻った。



 その日の夜。
 リンダはすでに拠点に戻っている。

 僕は明日の準備を父さんとしている。その合間に今日の話をしてみた。
「カイスリンねえ……聞かねえ名前だな」

 今日会った人の話を父さんにしたところ、そんな答えが返ってきた。
「交易商人だし、まだここへ来て浅いのかな」

「組合長と同席できるレベルの商人だろ。昨日今日じゃ、信頼を得られない。少なくとも何年かは経ってないとおかしいな」

 僕が現役の〈影〉だったときはどうだろう。
 やっぱり、カイスリンという名前は聞いたことがない。

「話した感じだと、大人しそうな印象だったかな」

 長い髪を後ろで束ねて、医者か書家のような印象を受けた。
 争い事には向かなそうな華奢な身体をしていたけど、よく日に焼けていて、交易商人と言われば納得する。

「初めての名前だし、少し調べておくか」
 父さんが調べると言えば、きっと隅々まで調べるだろう。

「でも最近のソールの町は、だいぶ大人しいんでしょ?」
「回天が終わってからは、また賑やかになったな」

「じゃ、いろんな思惑を持った人とかがやってきている感じ?」
「そこまではまだ。ただ注意が必要だ」

 回天によって、どこに月魔獣が降下するか分からなくなった。
 街道を行き交う人の姿は、かなり少なくなっていた。

 北方がいま大変なことになっていて、南方の町に人が集まりつつあるらしい。

「分かった。じゃ父さん、お願いね」
「この町を守るのが仕事だしな」

 この件は父さんに任せることにした。

 その後は何事もなく、日中はパン屋を手伝い、夜は父さんの特訓を受けた。
 お店のお客さんと交流したり、近所の人と久しぶりの再会を果たしたりして日は過ぎていく。

 僕がソールの町に着いてから六日目。
 竜専門の医師によって、注意深くシャラザードの怪我が見守られていたが、ようやく完治したと僕のところに報告がきた。

 完治するまで休暇を強制的に取らされていたので、シャラザードの機嫌が悪い悪い。
 だがこれでようやく飛び立てる。

「やっぱり義兄さんは間に合わなかったか」
 今頃は王都で引き継ぎ中だろうか。しょうがない。今度会うのはいつになるだろうか。

 父さんや母さん、町の人、リンダとしばしの別れを告げて、僕は陰月の路へ向かった。


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