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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 翌朝、久しぶりに家の手伝いをした。
 自分の家とはいえ、二年間も『ふわふわブロワール』でパンを作っていたため、微妙に勝手が違う。

「……あなた、随分と上手くなったのね」
 とは母さんの弁。

「そう? なんか戸惑ったりするんだけど」
 実家もこの二年間で、いろいろ変わった。
 細かい道具類が増えたり、置き場所が移動したりしている。

 そのせいで、手が止まることもある。
 それなのに上手くなったとはどういうことだろうか。

「前よりも手際が良くなったわよ。前は流れ作業で同じペース? だったのよね。いまはメリハリがついた感じかしら。明らかによくなったわ」
 母さんに言われて、少しだけ思い当たるフシがある。

 王都のパン屋では数を作らないといけないので、手早くすることが求められる。
 このへんは人口の違いというよりも、店の大きさの違いだと思う。

 我が家は三人で回せるけど、あそこは倍の人数が必要だった。
 とくに朝の開店前は、戦場のように慌ただしい。

 僕は王都時間と呼んでいるけど、家々が密集しているからが、これから働きに出ようとする人の数が圧倒的に多い。

 王都全体で人が一斉に道に溢れるのだ。それが王都時間。
 その時間帯に合わせて、『ふわふわブロワール』ではパンを焼き上げる。

 ゆっくりできるはずもない。かといって、丁寧にしなければならない作業もある。
 必然的に手早く済ませるものと、そうでないものを見極めて作業する。

「向こうで鍛えられたのかな」
「そうなのかしらね。竜操者の学校に行って、なんでパン焼きが上手くなって帰ってくるのか疑問だけど。ちゃんと勉強したのかしら」

 母さんがジト目で見てくる。
 たしかに二年目はあまり授業に出ていない。
 ただし、本業を疎かにしたわけじゃないってことで、許してください。

「そういえばレオンがアルバイトに入ってからは、朝でも手間のかかるパンを出せるようになったと言ってたな」
「父さん? 僕、それ聞いてないけど」

「一年目の終わりに竜迎えの儀があっただろ。あの前日に店に顔を出しらそう言っていた。人手が足りなかったから、朝は簡単にできあがるものしか焼いてなかったんだと」
「マジか……」

 卒業して実家に戻ってから知る事実。
 最初に店へ顔を出したときにはバラエティのあるパンが並んでいたし、朝もそういうものだと思っていたけど、まさか僕が来てから種類を増やしていたなんて。

「もともと親父さんが生きていたときはそうやってたんだよ。ただ、息子が家を継いでからは、手が足らなくて、出せなくなっていたんだな」

 なるほど。考えてみれば、ロブさん一人であれを回すのは無理だ。
 ここでは二十個作ればいいものでも、あっちでは三十個、もしくは四十個は必要だ。

 何種類ものパンを焼いていくとして、仕込みの量が増えれば、それだけ手間が掛かる。
「そういえば、仕込みがかなり楽になったってしょっちゅう言っていたっけ」

 今更だけど……本当に今更。

「そのおかげでこうして力がついたんだし、良かったじゃない。これで立派な跡継ぎ……って、そういえばあなたは、ここを継がないのよね」
 母さんが息を吐きながら言う。

「竜操者だからね。さすがに……。でもこの店は最初から父さんと母さんがずっとやっていくものだと思っていたから、僕は別の場所で自分の店を持つつもりだったよ」

 辺境でのんびりパン屋をやるのが夢だった。
 もちろん両親が働けなくなったら、実家に戻ってもいいとは考えていたけど。

「そんなことを言っていたわね。けど父さんも最近は遊び歩いてばっかりで……」
「そうなの?」

「出かけると数日戻って来ないのよね。仕事上のつきあいだって言っているけど……はぁ」
 あからさまに息を吐き出す。

「知り合いがどうしても手助けして欲しいって言うんでな。余力があるうちに手伝えるなら、手伝っておきたいんだよ」

 父さんと母さんの会話はあれだよな。
 父さんが〈影〉に復帰したのと、魔国が蠢動を始めたことや、商国が陰謀を巡らせたり、回天で月魔獣がやたらと降下したりと、出て行くことが多かったからだろう。

 本来女王陛下からの指令は年に数回あれば良い方で、それ以外は独自に調査したり、怪しい者を調べたりするくらいだから、それほど本業の負担にはならない。
 今が特別なのだ。

「僕も竜操者であちこち行くけど、国家間でもめ事が起こったり、月魔獣が出たりで困る人が結構出ていたんだ」
「そうねえ」

「そんな人が父さんに助けをもとめたり、一時的にでも手伝ってもらいたがるのも分かる気がする。おなじ竜国の民だし、助け合える部分は助け合って行かなきゃだしね」
「分かっているわよ。ローザライトさんのところもそんな感じらしいし」

 クリスタン義兄さんの実家、雑貨屋だ。
 義兄さんは〈右足〉だし、移動がメインだから店は大変だろうな。

「そういえば、義兄さんも引き継ぎが終わったら帰ってくるって言っていたよ」

 卒業式の数日後に一回生の授業が終了する。
 その翌日から学院は休みに入るので、義兄さんはそこでようやくお役御免になる。

 戻ってくるのは、あと十日くらいしてからだろうか。
 帰ったら帰ったで、義兄さんも姉さんからいろいろ言われるんだろうなとか考えていたら、リンダがやってきた。



「おはようございます」
「あらリンダちゃん。よく来たわね」

「ごぶさたしてます、おばさま。お変わりないですか?」
「ええ、こっちはみんな元気よ。リンダちゃんは?」
 リンダと母さんが和気藹々と話している。

 リンダが商売の拠点を南方に持つことを決めてから、しょっちゅうここには寄っているらしい。

「おはようリンダ。早いね」
 まだ開店前だ。どうしたんだろ。

「昨日荷ほどきしていたら、商工会議所の人がいろいろやってきてね」
「うん?」

「ぜひとも会いたいって懇願されちゃったのよ」
「だれに?」

「あたなに決まっているでしょ。直接家に行くのははばかられるし、でも顔通しはしておきたいってことで、わたしのところに来たみたい」

「なんで?」
「ソールの町出身の竜操者で、英雄だからじゃないかしら。竜紋が現れてからずっと接触できなかったじゃない」

 学院を卒業するまで竜操者への接触は禁止されている。
 贈り物をもって「はじめまして、○○商会の者です」なんて会いにいった日には、その日のうちに領主のところまで話がいく。

 そうなったら、町で商売はできなくなるし、へたをすると国外へ退去せざるを得なくなる。
 十代半ばから後半くらいの者にしか竜紋が現れないため、町ぐるみで目を光らせ、守ってくれている。

「会いたいって……僕が卒業したからか」
「そういうことね。というわけで、一度挨拶しておいてもいいんじゃない?」

「そうだね。分かった、会うよ」

 僕はソールの町で育ったわけだし、町に対して恩義もある。
 もちろん〈影〉として町を守っているので貸しもあるが、そういうことではなく、町の人とは仲良くしていきたい。

「じゃ、午後に馬車を寄越す感じでいいかしら」
「いいけど、歩いて行くよ?」

「馬車を出すのは商工会議所の人たちよ。そこは甘えておきなさいって、英雄様」
「うん、でもその英雄様は止めようね」

 英雄様……たたられるなあ。いつまで言われ続けるんだろう。
 僕が苦い顔をしていると母さんが不思議そうな顔をした。

「そういえば、よくあなたのことを英雄、英雄って言ってくるお客さんがいるけど、いまはそういう設定なの?」
「なんだよ、設定って!」

「ほら、あなたは昔からそういうのが好きで、よくノートに……」
「それはもう忘れてくれ!」

 なんで帰って早々、黒歴史を暴露されなければならないんだ?


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