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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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「それにしても父さん。よく月魔獣の大型種なんて倒したね」
 月魔獣くらい倒すだろうとは思ったけど、大型種までとは思わなかった。
 あれ、結構固いはずなんだけど。

「俺しかいなかったからな」

 町の近く、それも二カ所で月魔獣が出現し、竜操者が足りない状況となっていた。
 そこにまったく別の方角から、大型種が一体現れたらしい。

 たまたま町に戻る途中だった父さんが見つけて対処したという。

「さっきの盾を使ったんでしょ? よく倒せたよね」
「身体の各所を押さえて、注意をそこに向けさせた。少しずつ首を削ったが、もう二度とやりたくねえ」

 首の直系は十メートルほど。
 それをチマチマと五時間以上かけて削ったらしい。

 一撃でももらえば死ぬっていうのに、五時間か。
 僕なら途中で投げている。

 やっぱり父さんの体術と魔道は違う。
 魔道に頼らなくても多彩な技を持っているからすごい。

 そう考えたら、ちょっと腹が立ってきた。
「ねえ父さん。さっきのやつ、武芸者の技だっけ? なんで僕に教えてくれなかったの?」

 習熟難易度は高いけど、もったいぶらなくてもいいと思う。

「教えたらお前、使うだろ?」
「そりゃ……使うでしょ」
 そのために覚えるんだし。

「俺は強敵と真正面からやり合わずに逃げろと教えたよな。それなのに戦うのか?」
「だって戦わなきゃいけない場合だってあるでしょ」

「真正面から戦うのと、その場から逃げるのでは、後者を選べ。お前の場合、逃げは一流だが、戦いは二流だ。敵地で戦えば敵に後れを取る可能性が高い」

「それを覆すのがさっきの技だと思ったけど」

「限度があるだろうが。一度や二度成功したって、三度目に失敗すれば死ぬんだ。そうすれば情報を持ち帰れないばかりか、敵に情報を与えることになる。なんでそんな危険を冒しそうなやつに技を教えなければならないんだ」

 父さんが口を酸っぱくして逃げろ逃げろと言ったのには、そういう訳があるらしい。
 たしかにあの技を使えていたら、戦うことを選択する。

「でもさ、強敵すぎて逃げられない場合だってあるじゃない」
『血煙』さんとか、『血飛沫』さんとか。

「お前の腕を持ってしても逃げられないか?」
「うん」

「だったら尚更戦うな。絶対に死ぬ」
「あう」
 父さんに頭を叩かれた。

 一流の逃げ足を持っていて逃げられない相手と戦っても、僕では勝てないらしい。
 それはそうかも。

 つまり、逃げられる相手なら戦わずに逃げた方がいいし、逃げられない相手ならば、そもそも戦う選択肢が無謀らしい。

 うん、言い返せなかった。
 それでも今回教えてくれたのは、僕も少しは成長したからだと思っておこう。

「それでバシリスクと対峙したときだけど、命からがら逃げたんだ。あれはどうすればいいの?」
 あのときの僕では、勝てるビジョンがまるで浮かばなかった。

「そうだな。まず俺がアレと戦った場合、まず負ける」
「えっ? 父さんでも勝てないの?」

「俺の魔道と相性が悪い」

 透明な盾では、視線で石化させるバシリスクの魔道は防げない。
 だけど、父さんならば魔道だけに頼らないで、なんとかできるんじゃなかろうか。

「でも気づかれず近づいて後ろからとか……」
「何か勘違いしているようだが、アレの体術は俺より上だぞ。危険察知能力もあって、こっそり近づくのは不可能だ」

「だったら、遠くから父さんの魔道で視界を塞ぐとか」

「アレが魔国最強の魔道使いと呼ばれるようになって数十年だ。いまだ最強と呼ばれている意味が分かるか? 自分の魔道を脅かそうとするあらゆるものに対策をしているんだぞ」

 およそ思いつく魔眼対策に、すべて対応策が取られているらしい。
 たとえば、部屋を真っ暗闇にしても、自力で瞬時にあかりを灯す方策を数通り持っているという。

 相手の予想を超える技が必要だが、相手はそれを数十年単位で考え続けている。
 それを凌駕しなければならないという。
 一朝一夕で思いつくようなものでは、絶対に無理だと父さんは言った。

「それじゃ、戦う方法がないじゃない」
 無敵だ。
「だからこそ、今でも魔国最強……世界最強と呼ばれているんだよ」

 世界最強かぁ。バシリスクを攻略するのはかなり厳しそうだ。

「じゃあ、どうやって倒せばいい? というか、倒せる人はいるの?」
 世界最強の魔道使い相手にどう戦えばいいんだ。

「寿命を待つか、感知できないくらい離れたところから必中の魔道で一撃とかだな」
「うん、無理」

「他には、大火力で一気にという方法もある。お前の竜の属性技なら可能だろ?」

「できると思うけど、周辺一帯すべて巻き込むよ」
 やったら悪名が轟きそうだ。

「確実な手としたらそんなものだぞ」
「うーん、竜で近づいてとか無理かな」

「無理だな。射程の限界も分からん。それにあの能力が俺と同じならば、どこにいても意味が無いことになるしな」
「ん? どういうこと?」

「俺の魔道はアレを元にした。石化魔道使いになろうとしたら、なぜか盾が出現してしまった。つまり亜種って感じだな」

 魔道はその人が強く思ったことに沿って、事象が発露する。
「アレって言っているけど、僕の祖父じいさんなんだよね」

「そうだ。俺にとっちゃ、最低最悪の親父だ。殺そうと思っても太刀打ちできねえ」
 父さんはこのことを話すのを心底嫌がるので、僕はあまり触れないようにしてきた。

 代々魔道使いを輩出する昔からの家らしく、親子に魔道使いが遺伝する確率が高い。
 父さんの兄弟は六人いて、魔道が発露したのは四人。

 発露しなかった二人はいつのまにか家からいなくなったという。
 そして残った四人も、地獄のような特訓――僕が父さんから受けたものより数倍厳しいものが課せられたようだ。

 その特訓でものになったのは一名。
 父さんは、ものにならなかった三名の方らしく、暗殺組織に売られたらしい。

 十六歳のときに暗殺組織を壊滅させている父さんだけど、それでもものにならなかったって、一体……。

「それで父さんの魔道が亜種だっていうけど、それだとどうなるの」
「俺は空中に無色の盾を作り出す。固定もできるし、移動させることもできる」
「うん」

「アレも石化を固定できるなら、足場なんか作り放題だ。どこにいてもすぐさま近寄ってくる」

 薄紙一枚放り投げて石化させればそれでいいのだから、簡単なものだと父さんが言った。
 では本当にそんなことができるのか。

 それは本人以外分からない。というのも……。

 魔道使いが生き延びる肝は、自分の魔道をひた隠すこと。
 敵の予想を上回る魔道を所持し、ここぞという時に使う。

 使った場合は、目撃者含めて処理すること。
 父さんは、そうやって教え込まれてきたらしい。

 つまり、そう教えてきたバシリスクが、自分の魔道の限界を隠してないはずがないという。

「最悪を予測しても、その上がある。俺はそう思っている」
「それ、勝てないじゃん」

 そんな相手に、どうやって勝てばいいんだか。

「だがもし可能性があるならば、お前の魔道だな」
「僕?」
 ただの影渡りなのに?

「ああ。石化の魔道は何度も見たが、今まで一度たりとも影が石化したことがない」
「ふむ……」

 影には実体がない。同じく僕の魔道も実体がない。

 影は存在しているように見えるだけだ。
 光に実体がないのと同じく影にも実体がない。

 バシリスクは、光も影も石化できないということだろうか。

「俺の魔道については知られている。どれだけ進化させても本質は変わらない。相性が悪い上に、対策は取られているから勝てねえな。だが、お前の場合は逆だ。石化の魔眼に対しては相性がいい。お前の魔道の進化先に、アレをなんとかする光明が存在しているんじゃないかと俺は考えている」

 ただし、すぐではなく、真面目にあと何年か修行すればだろうと、父さんは言った。
 つまり今の時点だと勝てないようだ。ただし希望はある。

「出会ったら逃げろ」
 その言葉は、無情にも聞こえたが、真理だった。


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