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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 強敵と真正面から戦う場合、こちらを弱者と思わせつつ戦う方法を教えてもらった。
 端から見ると、かなり後ろ向きな方法だ。だが、命がかかった戦いならばそれもまた良し。

 父さんの教えは分かったが、実戦するのは難しい。
 自分の強さを「誤認」させるところがこの技の肝だが、感覚を狂わすというのがどうにも分かりにくい。

「以前、尾行のやり方を教えたよな。それを思い出してみろ」

「えっと、まず気配を消したり、周囲に自分を溶け込ませたりして目立たなくさせるんだよね。対象が動いたら、気取られないように跡を追うんだと思ったけど」

「そのときの歩調は?」
「ああ、外部から見張られていることもあるから、歩調と呼吸をずらすんだよね」

 気配を消して尾行する場合に気をつけるのは、本人に気づかれないようにすること。
 また、尾行がついてないか仲間が見ている場合があるので、その対策も必要になってくる。

 具体的には、「尾行はいないな、よし」と監視者に思わせることだ。
 これが意外と難しく、対象者をじっと見つめていたりすると、すぐにバレてしまう。

 また、あまりに注視し過ぎると、対象と「同じ歩調」で歩いてしまうのだ。しかも無意識に。

 外から見ると、対象者と尾行者が軍隊の行進のように綺麗に歩調が揃っているなんてことになる。
 これでは、どんなにそっけない振りをしてもバレバレである。

 そうならないため、対象者と呼吸や歩調をわざとずらす必要がでてくる。

 そのとき歩幅を変えないと、遠ざかるか追い抜いてしまうので、対象者が二十歩歩いたときに、尾行者が二十一歩で同じ距離になるような感じにする。

「歩調や呼吸は自然と合ってしまうからな。気取られないようにずらすやり方を教えたはずだ。それを意識してみろ」
「うん。なんとなく分かったよ」



 剣での戦いで十合、二十合と打ち合ってくると、リズムができてくることがある
 そのリズムが合うと、効率よく防御できたりする。

 よほど多彩な技を持っていない限り、攻撃のタイミングはそれまでの経験から予想できてくる。
 受けるときに、自然と相手に合わせているのだ。これも無意識の作業となる。

「次は攻撃だな。真正面の相手を倒すにはいくつか技があるが、これに一番合うのは……説明するよりも実戦した方がいい。少し打ち合うぞ」
「分かった」

 父さんと模擬戦を再開する。
 打ち合った感触だと、やはり僕と同等の実力か少し弱い感じがする。このまま押し込めば勝てるんじゃないか? そう思ってしまうのだ。

 もちろんそれは誤認されたもの。ここで必殺技でも出せばアッサリ決まりそうな気がするから不思議だ。
 なんて思っていると、父さんに一瞬、隙ができた。すかさず打ち込む。

 うまい具合に父さんの頭に僕の木刀が当たった……。

「……あれ?」
 と思ったら、なぜか喉元に小刀を突きつけられていた。
 どういうことだ?

「どうだった?」
「訳が分からない」
 さすがに今のは分からない。当たった……と思った。けど負けていた。

「九割九分勝ちを確信しただろ」
「うん」
「だけど負けただろ」
「うん。どうして?」

「これも武芸者の技のひとつだな。『かすみ』なんて名が付いているが、ようは暗器と先ほどの誤認させたあれの合わせ技だ。最初に教えたのと相性がいいから、攻撃用としてこれを教えておく」

「とりあえずどうやって負けたのか、分からないんだけど」
「説明は難しいんで、最後のをゆっくり再現してみるぞ」

 父さんが斬りかかりぼくが受ける。
 そのとき父さんの木刀が横に滑ったので、僕がその隙を逃さず斬りかかった感じだ。
 父さんの木刀が横に滑ったのは、攻める時に勢いを付けすぎたからだと思う。

 当然、木刀の戻りが遅れて、父さんが木刀を頭上に掲げる前に、僕の木刀が届く……ここで勝利を確信したのだけど。

「袖口から?」

 僕が父さんの頭に振り下ろす。
 父さんの木刀は間に合わない。まだ胸までしか戻っていない。

 そのとき左の袖口から小刀を抜き出し、一動作で僕の喉を突いた。
 そんな感じだ。

「今までの経験から、木刀での受けは間に合わないと感じただろ」
「うん」

「実際に間に合わないんだが、胸までは戻せる。そしてここから相手の喉まで一番近い。さらに相手の目線は頭上に集中している。胸元で何をやっているかなんか、気にしていない」

「たしかに見ていなかったけど」
 僕の木刀が先に届くか注目していたし、先に届くと分かったときに勝利を確信した。

「九割九分勝利を確信した者の考えなんて、だいたいそんなもんだ。そこを突くのが『霞』だ。武芸者の苦肉の策だな。慣れると半歩踏み出して手首の返しだけで喉を突ける」
「はー」

 後の先なんて技があるが、それを極めたような技だ。

「多くを教えても中途半端になるだろうし、このふたつを完全にマスターしてみろ」
「分かった。ありがとう、とうさん」

「よし、繰り返すか」
「うん」

 その後、十戦以上したが、父さんの『霞』は視認するのがやっとだった。
 これをマスターするのはなかなか骨が折れそうだ。



 休憩中に、最近の様子を父さんに聞いてみた。
「手紙だと、何度か月魔獣が町に来たみたいだね」

 寮に届いた手紙にはそう書いてあった。
 ソールの町には常駐している竜操者も多いので、町中に入られることはなかったとあったけど、実際どうだったのだろうか。

「回天が終わったときだな。あれは数が多かったから、適度に減らしておいた。町に入られることはなかったし、俺が知る限りだと知り合いに死者は出ていない」

「減らしたんだ」
 やっぱり父さん単独で月魔獣を倒せるんだ。

「月魔獣戦は初めてだったが、今後のことも考えて新しい魔道を開発しておいた。それを実際に使ってみた感じだな」
「どんなの?」

 父さんは『死神』と呼ばれる凄腕の〈影〉だけど、魔国にいた頃は『無色の盾』と呼ばれていた。文字通り、透明な盾を出す。

 模擬戦をすると分かるけど、父さんの魔道はやっかいだ。
 気がついたら盾に押さえつけられているし、戦っているときに足下や腹部のあたりに出されると、相当困る。

 十分成熟した魔道だと思っていたのだけど、まだ新しい魔道を開発したんだ。
 もう十分じゃないかな。

「片手で持てる盾を造ったんだが、木の葉のような形にしてみた。そのエッジを尖らせてある」
 そう言って父さんは実演してくれたけど、もちろん透明なので見えない。

 両手に持っているので二刀流ならぬ二盾流だ。
 手を振ると近くの岩が切れた。エッジはそうとう鋭いらしい。

 というか、盾で岩を切るの?

「もしかしてこれで月魔獣を斬った?」
「足止めをして転がったところをバサリだな」

 ひゅんひゅんと両手を一度ずつ振る。すると近くの木が二本倒れた。
 切り口は鋭利な刃物で切られたように滑らかだ。

「大型種は首を落とすのに時間がかかって駄目だな。あれは戦わない方がいい」
「そう言うってことは、倒したの?」

「一体だけな。あれは人が倒すにはデカすぎる」
「でも倒したんだ……」

 もしかしたら父さんなら大型種を倒すかもしれないと考えたことがあったが、本当に倒したんだ……。
 ある意味、いまの話が一番衝撃的かもしれない。

「よし、休憩は終わりとして、魔道使い対策といくか」

 いよいよバシリスク対策だ。


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