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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 ソールの町に着いた僕は、そのまま実家に向かった。
 あらかじめ家に手紙を出しておいたので、両親とも僕が帰ってくるのを待ち構えていた。

「今日帰ってくると限らなかったでしょう?」
 豪華な夕食をということで、沢山の食材を買い込んだ母さんに言ってみる。

「あなたのことだから、すぐに帰ってくるに決まっているでしょ」
 行動を読まれていたようだ。

 リンダはすでにソールの町に拠点を持っている。
 荷物の整理をしてからウチに来るようだ。
 いまは夕方なので、来るのは明日以降になるだろう。

 父さんと母さんにお土産を渡し、ついでに近所の人にも配るようにと、いくつかを置いた。

「じゃ、今日は腕によりをかけて作りましょうね」
 母さんが腕まくりをして台所に向かった。

 母さんがいないうちに、僕は父さんと特訓の段取りについて話し合うことにした。
 シャラザードの休養期間はそれほど長くない。

 怪我が完治するまで七日前後と見ている。
 早ければ五日、遅くとも十日でここを発つことになる。

 それからしばらく陰月の路で、月魔獣と戦うことになる。

「どういった特訓をしたいんだ?」
 父さんの意見はこうだ。

 魔道は使い続ければ上達する。それは実戦で磨けと。
 気配を消して忍び寄り、一撃で相手を倒す術はもう、かなりの技量に達している。
 その上で何を望むのかと。

 だから僕は、バシリスクをはじめとした、世界最強と目されている者たちと真正面から渡り合える力を持ちたいと告げた。

「それはお前に教えてきたことの真逆だな」
「それでも教えて欲しいんだ」

 父さんはしばし無言だった。
 やがて意を決したように語り出した。

「俺たちは気づかれずに仕事を成すのが最上としている。敵に気づかれたら戦うより逃げる方が良い。そうすればこちらの情報を与えることはないし、途中まで得た情報も持ち帰られる。つまり、敵地で戦うのは愚者のすることだ」

「でも父さんだって、戦うことはあるでしょ」

「そうだな。それでも戦い方は一緒だ。相手が何がなんだか分からないうちに終わらせる。そのやり方は教えたな」
「うん」

 死角から一撃は変わらない。
 僕はそのために『闇刀』を覚えた。

 戦わねばならないときは一撃必殺。
 できれば目撃者も消すのが望ましい。

 能力が知られれば対処されるし、その効果範囲や力の大きさなど、絶対に隠すべき情報だ。
 僕はそんな父さんの意見を参考にして、魔道を習得していった。

 だけどいま、僕が父さんにお願いしたのは、真正面から戦って勝つ方法。
 僕がこれまでやってきたことの真逆と言われても、反論できない。

「その戦い方が一番合っているのは、かつて存在した武国ぶこくの武人とか、武芸者たちだな。名乗りを上げて一対一で戦ったそうだ」

「その流れを汲むのが、技国の氏族だよね」
 武国が滅び、武芸者の一部は技国で安住の地を得た。

 強い血を欲した氏族たちは武芸者を身内に迎え入れ、いまのような形になっている。
 剣や槍、格闘術を極めた者が技国に多いのは、そういった理由がある。

 ちなみに『血煙』、『血飛沫』の兄妹などはその最たるものだろう。
 ああいった血筋にも優れ、幼少時から剣を握る環境にあり、本人たちもよく努力した人たちと、真正面から戦って勝てないか考えている。

「反対にお前がこれまで目指してきたのは、呪国のやり方に近い」
「それは分かるけど、僕はどうしてもやらなきゃならないんだ」

 呪国人は体術に優れ、それだけでなく呪印を身体に描くことで、魔道に近い技も使う。
 ひとつの身体の中で、体術と魔道の融合がなされている。

 それゆえ環境さえ整えば呪国人は万能に近い力を発揮するが、真正面からの攻撃に弱い。
 僕の場合も同じ。
 闇の中ならば遅れをとることはないし、相手に気づかれなければ、どんなことだってできる。

 ただし、この二年間で苦戦したことは何度となくある。
 そのどれもが、真正面から相対したときだ。

 今回の特訓は、得意を伸ばすのではなく、苦手をなくしたい。

「短い時間とは聞いているが、できるだけのことはしよう」
「ありがとう、父さん」



 その日の夜。
 みなが寝静まったあとで、僕と父さんは町を出て、近くの森に入った。

「小さい頃、ここで特訓をさせられたっけ」
 僕にとっては懐かしいよりも、思い出したくない場所である。

「強敵を真正面から戦って撃破する技は、一朝一夕に身につくものでもない。だが、その手助けはしてやる。武芸者を想定したやり方を教えるから、自分で昇華させてみろ」

「分かった。模擬戦だね」

 父さんと、互いに魔道を使わない条件で戦った。
 得物は木刀のみだが、周囲にあるものならば何でも使ってよい。
 体術を織り交ぜて、相手を圧倒したら勝ち。そんなルールだ。

 剣術にしろ体術にしろ僕は父さんに敵わない。
 ゆえに本気で掛かった。二年間、数多くの実戦を経験したせいか、なんとか形になっている。

 僕が〈影〉を父さんから継いだ十三、四歳の頃と比べて、格段に実力がついていた。
 ほぼ互角に戦えるほどに……。

「あれ?」
「どうした?」

「も、もう一回」
「何度でもやるぞ」

 だが勝てない。
 あと少しのところなのだが、その少しが埋まらない。

 父さんに負けさせられている感が強くなり、首をひねっているうちに、僕の敗戦記録は十を越えた。

「ちょっと待って父さん。なにかおかしい」
 そうおかしいのだ。

 互角に戦えている。それは間違いない。
 勝てそうな感触もある。だけど、結果は負け続き。

 予想では二、三勝してもおかしくなかったのにだ。

「三本に一本くらいは取れる自信があっただろ?」
「うん」
 まったくその通り。

「そして勝てそうなのに勝てない。戦っている最中に違和感を持った感じだな」
「そう」
 僕の心を読まれているんじゃなかろうか。

「ここで一旦種明かしだな。考えてみろ。どんな相手だろうと、勝算なしに戦う者はいない。もしいたとしたら、そいつは大馬鹿だ」
「そうだね」

「その勝算……この場合は相手の総合的な強さの予測だが、それは本当に正しいのか?」
「どういうこと?」

「これならば勝てると思ったその予測。本当に正しいのか、厳密に測ったものではないだろう?」

「それはそうだけど……そんなの今まで戦ってきた相手と比べたり、僕の実力から判断すればだいたい分かるじゃない……あれ? もしかして父さん手を抜いていた?」

「手を抜いてないぞ。その代わり、相手に自分を弱く見せる工夫をした」

 目線や手首の動き、重心の取り方、木刀を振るならばその速度や軌道、それらのいくつかの質をわざと落とすことによって、実力を誤認させたというのだ。

「僕がそんなのに引っかかるとは思えないんだけど」
 ようは実力を隠しているってことじゃなかろうか。

「熟練した者ほどそう考えるのさ。『自分の目は確か』だとな。だからこそ本当に強い相手にしか通用しない。もう少しやってみるぞ」

 それからも父さんとの模擬戦は続き、勝てそうだけど勝てないという状態が続いた。

 やはり戦った感覚、つまり僕が感じた強さからすると、勝てる場面もあったはずだが、結果は全敗。

 前と変わらない。この違和感が父さんのいう『自分の目は確か』と思っていることなのだろうか。

「これは昔の武芸者が使っていた技らしいし、ものがものだけに、公に継承されることはなかったようだ。『接待試合』用なんでな」

 かつて竜国の南東に存在した武国は、王を頂点とした実力社会だった。

 それでも優秀な武芸者を多く輩出した武家と呼ばれる家々が存在した。

 これは在野の武芸者たちが、勝ってはいけない試合で、自分を『バレないように弱く見せる』ところから始まったらしい。

 この『接待試合』用の技で実力を低く見せていた武芸者たちは、勝ちたい欲求を抑えきれず、勝ってしまう。

 九割九分勝てる試合で負けてしまった武芸者が出ても、それはたまたまであり、ただの不運だったと考える。

 勝った方も偶然勝利が転がり込んできただけで、次回は勝てないと言えばだれもが信じる。

 そうして『接待試合』用の技は表に出ることなく、在野の武芸者たちに受け継がれていったという。

「いま残っている武国の子孫なんてのは、その武家の方ばかりだ。竜国と技国の上層部に多いし、こういった技は知らないだろう。これは自分より弱い相手を接待するときの技だが、強い相手にも効果はある。弱く見せて安心させ、一瞬の隙をついて一撃を入れる。ただそれだけの技だが、覚えておいて損はない」

 話を聞いてずいぶん後ろ向きな技だと思ったが、やられてみるとその怖さが分かる。

 勝てる試合なのに勝てない。一回くらいならば、たまたま不運が重なって負けた僕でも思ってしまう。

 相手が考える勝算がアテにならなくさせる技。
 ぜひともここにいる間に覚えておきたい。

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