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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 場所を王宮に移し、卒業記念パーティが始まった。

 きらびやかなホールに案内され、同級生たちはみな舞い上がっていた。
 王宮に招待されたことがないのだから、見るもの全てが珍しいのだ。

 楽団が演奏し、パーティドレスに身を包んだ淑女たちが談笑している。
 上座の方には、普段ならば近づくこともできそうにない、偉い人たちが落ち着いた様子で談笑していた。


「楽しんでいるかしら」
 サーラーヌ王女がやってきた。

「ええ、とても」
「その割りには退屈そうな顔をしているわね」

 意外と鋭い。
 王宮はもう見慣れた場所になっていたし、一流の音楽も興味がない。
 料理は美味しいのだろうが、僕には素朴な味が合ってそうだ。

 集まった人々……国の重鎮もしくはその家族だろうか。
 僕に熱い視線を向けてくる。話を聞きたそうだ。

 今日が王都最後の日だと思うと、サービス精神を発揮しようという気が起きないから不思議だ。

「王立学校で行われた顔合わせ会を思い出しますね」
 王女殿下に取り繕ってもしょうがないので、正直に言ってみる。

「なるほど、あれね。毎年凄まじいと聞くわ」
「竜操者ファンドが廃止されてからは、さらに激化したようですよ」

「パトロン制度もそろそろ限界にきているのかしらね。竜操者を他国に出さないための規制だったけど、それが足かせになっては意味がないものだし」

 竜操者のパトロン選びは、竜国上層部にとって頭の痛い問題らしい。
 締め付けると反発されて他国に逃げられるし、緩くしすぎても、金や地位、名誉で他国に流れていってしまう。

 考え出された苦肉の策が、竜操者との接触を制限させる方法だった。
 窓口を一本に絞れば監視も容易いし、何かあった場合の対処が比較的楽になる。

 ただし、竜操者に接触できる方法がひとつしかないと、みなそこへ集中する。
 いまの王立学校がそうだ。

 多少不便でも、パトロンなぞその中から選べばいいという考えだったが、そろそろこの制度も古くなってきたのかもしれないと思う。

「僕としては選択肢が増えるのはいいと思いますけど、まだ分別のつかない若者たちが甘言に乗せられて、道を踏み外すのは見たくないですね」

 接触を容易にし過ぎると、商国あたりが一大攻勢を仕掛けてきそうだ。

「では英雄の意見として、上にあげておくわ」
 ほほほほと笑って王女殿下は行ってしまった。

 王女殿下が去るとすぐに僕の周りに人だかりができた。
 最大の障害が取り除かれたからだろう。

 みな僕の英雄譚を聞きたがったので、適当に受け答えをした。
 時間が過ぎるのを待っていると。

「少々彼をお借りしてよろしいでしょうか」

 ソウラン操者が現れた。
 みな目をぽーっとさせながら「どうぞどうぞ」と言ってくる。

「ありがとうございます。少々困っていたところでした」

「そうみたいだね。……それで紹介したい人がいるんだ」
 ソウラン操者に連れられて向かうと、壮年のいかめしい人の前に連れて行かれた。

「ホーラー操竜長、レオン操者を連れてきました」
 やはりそうだ。この人は僕らのトップにいる人だ。

 竜操者たちが所属する操竜会。
 ホーラー操竜長は長年、そこを取り仕切っている人物だった。しかもまだ現役。

 竜操者のトップなど、僕からしたら雲の上の存在。
 彼がいる一角にはみな偉い人ばかりが集まっている。

 若者たちは遠巻きにするだけで近寄ってこれない。

「はじめまして、レオン・フェナードです」
「ホーラーだ。君の噂はよく聞いている」

「恐縮です」

「そう堅くならんでもいい。ただし、心して聞いて欲しい」
「なんでしょうか」
 真面目な顔だ。どうやら大事な話があるらしい。

「いま、魔国の首都……旧首都だな。そこへ大攻勢をかける計画を練っておる」
「支配種を倒すためですね」

「そうだ。聞くところによると、月魔獣の支配種は配下が多いほど強くなる。間違いないかね?」
「そのようです。地上に降下してきたときが一番倒しやすいと言えます」

「そして支配地域は配下が多ければ広がる。配下も支配地域にいる限り、いつまでも活動できる」
「はい。このことは、シャラザードだけでなく、ターヴェリからも同じ話が聞けました」

 ホーラー操竜長は、僕が女王陛下に出した報告書を読んだわけだ。
 内容もしっかり理解している。

 今年に入ってから、ターヴェリの聞き取り調査も進み、シャラザードの話の裏付けが取れた。
 それによると、支配種はやっかい極まりない相手であることが分かった。

「すぐにとはいかん。なにしろ竜国内ではまだ多くの月魔獣がいるわけだし、他国へ遠征するのは現実的でない」
「はい」

「だが、放っておくわけにもいかん。なにしろ今まさに、支配種は配下を増やして強くなっておるわけだしな」

「そこで大侵攻ですか」
「そうだ。できるだけたくさんの案を出させ、協議に入っている。実行可能かどうかは問わないため、バラエティに富んだ案が出ているよ」

 そこではじめてホーラー操竜長は笑った。

「竜国から穴を掘って進むなんて案も出ていたりするんだよ」
 ソウラン操者が苦笑いして教えてくれた。

 それはまだ壮大な計画だ。
 旧首都の地下まで掘り進むのに数十年はかかるだろう。

「現実的かつ成功率の高い案ができあがるまで実行しないつもりだが、計画の主要メンバーに君の名が入っている。だから一足早く伝えておこうと思ってな」

「ありがとうございます。協力させていただきます」

「うむ。情報を探るため、飛竜を何度か飛ばしたが、状況が芳しくない」
「そういえば、以前撃ち落とされたと聞きました」

 偵察に出て行った飛竜は、旧首都から発射された岩の弾丸を受けて落下したという。
 あそこにいる支配種は、そういうことができる存在だとそのとき初めて認識された。

「それだけではなくてな。最近分かったことだが、どうやら配下の月魔獣を従えさせることができるらしい」
「!? そんなことができるのですか?」

 月魔獣は本能につき従って生きているものだとずっと思っていた。

「まるで偵察としか思えない動きをする。それに見つかると、高確率で他の月魔獣がやってくる。それゆえ、こちらも十分な偵察ができないのだ。いま支配種の知性を上方修正しているところだ」
「…………」

 強い上に知性まで備わっていたら無敵ではなかろうか。
 ただ向かっていって倒すという単純な作戦が使えない。

「こういう目出度い席で言う内容ではないのは分かっていたが、そういうことだよろしく頼む」

「はい。承知しました」

 ホーラー操竜長の話はこれで終わった。
 お偉方の顔を眺めて分かったが、パーティに来ている人たちはみな僕らの卒業式に来賓で来た人たちだ。

 これだけ偉い人たちがわざわざ僕らの門出を祝うために時間を空けて、来てくれていた。
 それだけ僕らは期待されている。そう思った。

 パーティがなんとなく間延びしたものになっているが、これはダンスがないせいだろう。
 学院生でダンスを踊れる者、とくに最新のステップに詳しい者などいない。

 踊るヒマがあったら竜に乗っているのだから当たり前だ。
 そんな僕らに合わせて、パーティの目玉というべきものが存在していないのだ。

 中弛みを起こしつつある会場を出て、僕は暗がりに向かう。
(……だれもいないな)

 周囲の気配を探り、近くに人がいないことを確認してから、僕は闇に潜った。



「……あら、早かったのね」
 操竜場に付くと、リンダが出迎えてくれた。

「うん、途中で抜け出してきた」
「なんで? 最後まで楽しんでくればいいじゃないの」

「いやもう、全員と別れは済ませたしね。パーティ内だと、注目されて話をせがまれるし」
「あー、そうかもね。……わたしの荷物は全部積み込んだわよ。あなたのもね」

 パレードが終わったあと、シャラザードをここまで連れてきた。
 リンダは予め持ち帰る荷物を用意させたので、僕がパーティに出ている間に積み込みをしてもらった。

「だったら出発しようか」
「今から発つの? ずいぶんと急ぐのね」

「そういうわけじゃないけど、シャラザードは夜のうちに飛ぶ方が目立たなくていいからね」
 あとは、早く着いて父さんに修行をつけてもらいたい。

「ふうん。わたしの準備はいいわよ」
「ありがと。じゃあ、シャラザード頼むよ」

『うむ、心得た。……しかし、そろそろ我も月魔獣を狩りに行きたいのだが、なぜまた離れたところへ向かうのだ?』

「翼を完全に治すって約束したじゃないか。今回は完治するまで狩りは禁止。そのかわり、一度治ったら陰月の路で連続狩りだよ」

『それは分かっておる』
「そのときは多少怪我しても、休みはあげられないからね」

『それも分かっておる』
「だったら、いまはしっかり治そう。怪我を続ける方が効率が悪いでしょ」

『ううむ……そうか』
「というわけで、ソールの町へ行こう」

『仕方ないな』

 こうして僕とリンダとシャラザードは、王都を出発した。
 目指すはソールの町。

 久しぶりの帰省だ。


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