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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 卒業式の当日。
 寮を出る前にアークと他愛のない話をした。最後の雑談だ。

「王都を発つ準備はできたのかい?」
 不意にアークからそんなことを言われた。
 珍しく真面目な顔だ。

「ああ、終わった。問題ないよ。いろいろありがとうな」

 今夜僕は、ここを立つ。
 そのことをアークにだけは、伝えておいた。

 シャラザードの怪我も治ってきている。
 あと十日もしないうちに完治するだろう。

 そうしたら僕とシャラザードは陰月の路へ行く。
 遅れを取り戻すために、月魔獣を狩るのだ。
 シャラザードとそう約束をした。

 その前にソールの町で父さんから修行を受けたい。
 ならば王都を発つのは、出来るだけ早いほうがいいと思ったのだ。

 ここ数日はアーク、他の同級生、同じ学院の後輩たちと一緒に過ごした。
 朝はパン屋でアルバイトもしたし、王都で知り合った人々との別れも済ませた。

 アークが言った「王都を発つ準備」とはこれらを指すのだろう。
 だから僕は自信をもって答えた。「問題ない」と。

 振り返ってみると、王都で過ごした二年間は、とても充実した日々だったと思う。
 また王都に来ることもあるが、しばらくはお別れだ。

「明日から、いくつかのパーティに呼ばれていたんじゃないのかい?」
 そっちはいいのかと言いたいらしい。

 学院生は国によって守られている。
 学院生個人への接触はマナー違反とされていた。

 王都で行われるパーティなどには、招待したくてもできなかったのだ。
 だが、明日からは違う。

 卒業生が王都を発ってしまう前にぜひともと、誘いが殺到していた。

「僕はもう立ち止まっていられないからね。悪いとは思うけど、全部断ったよ」

「そうか。寂しいけれども仕方が無いね。だけどキミとはまた、陰月の路で会えるかな」
「ああ、会えるさ。きっと会える」
 僕とアークは固い握手を交わした。

 こうして穏やかな時間は終わりを告げて、僕らは卒業式の会場へ向かった。



 受付を済まし、控室に入る。
 二年前は、王立学校の生徒がやってきて、まるで狩猟者のような目で見られたが、今日は違う。
 控室に入れるのは決められた者たちだけだ。

「あら、今回はお早い入室で」
 リンダがいた。
 今日、リンダは「来賓」として卒業式に参列する。

「やあリンダ。ヨシュアさんは?」

 卒業生の家族やパトロンは来賓として招待されている。
 ヨシュアさんが来ないはずがないのだが。

 ちなみに僕の両親は、今頃パンを焼いている。

「パパはもう会場に入っているわよ。良い席を取りたいんですって」
「あー、そっちか」

 来賓席は多種多様な人たちが参列する。
 顔を売り、営業活動に勤しむのだろう。ヨシュアさんらしい。

 そうでなくても、僕のパトロンということで、『ルッケナ商会』の名は国中に広まっている。
 いまごろヨシュアさんは踊り出しているかもしれない。

 ちなみに椅子の数が足らなくなることはないので、リンダがここでまったりしていても問題ない。

「アン先輩は戻ってきたの?」
「いいや、まだ陰月の路みたい。自分の卒業式でさえ、出席できなかったみたいだし」

 陰月の路からここへ戻るのに、竜を使えば数日だが、いまだ月魔獣が大量に闊歩している。
 一頭の竜に乗り、護衛もなしに往復するのは考えられない。

 竜国の負担にならないよう、戻らない選択をしたらしい。

 話を聞いて、アンさんらしいと思ったものだ。
 いずれ、というかすぐに陰月の路で会えると思うので、寂しくはない……少し寂しい。

「リンダがいてくれるだけ、僕は幸せさ」
「何も出ないわよ」
 アッサリしたものだった。

 時間が来た。
 控室からみなぞろぞろと出て行く。

「じゃ、わたしは来賓席に行っているから」
「うん。またあとで」

 リンダと別れて会場の前の方へ進む。今日、僕は主賓席だ。
 甘えられていた時間は今日で終わり。
 明日からは現役の竜操者として世間から見られるようになる。

 その最後の日をここで祝い、みなから多くの祝福を受けて、巣立っていくわけだ。

「……つづいて、卒業生答辞。レオン・フェナード」

「………………はい?」
 聞いてないよ?



 卒業式が終わった。
 なぜか僕が答辞を読み上げることになっていた。

 抗議したら、教官から「パレードの話と一緒に伝えただろ」と言われてしまった。
 そういえばなんとなく記憶にあったが、卒業式のことだとは思わなかった。

「パーティのときの話かと思ったんだけどな」
 思い込みとは怖いものである。

 授業もロクに出られず、決して優秀な学院生でなかった自覚がある。
 ゆえに卒業生の代表を務めるという意識がなかったことが原因だった。

 それでも最近はいろんなパーティに顔を出していたので、なんとなくそれらしいことを話して許してもらった。

 毎年の恒例だと、式が終わったあとは自由時間となり、夕方から王城でパーティだった。
 ただし今年は違う。その間にパレードがある。

「……ねえ、一応用意したけど、本当にこれでいいの?」
「ああ、ありがとうリンダ。注文通りだよ」

 卒業式が終わったので、学院の制服はもう必要ない。
 脱ぎ捨てた……わけでなく、国に返却する。

 国の税金で購入し、僕らが借りて使っていたという名目だからだ。
 着古しを返されても困るだろうにと思ったのだが、リンダが「マニアに売るのかしら」と言っていた。

 売らないよね?

 僕らはパーティ用の礼服に着替えて、パレードに参加する。

 晴れ舞台だ。
 みなここぞとばかりに着飾っている。

 パレードの目的は人々の不安を払拭することと、竜国の力を内外に見せつけること。

 この日のために僕らだけでなく、百頭前後の竜が集められている。
 ほとんどが王都を守るために常駐している竜たちだけど。

 パレードは王都の真ん中を走っている大路『竜の背』で行われる。
 すでに多くの人でごった返しているらしい。

 店も出てお祭り騒ぎだとか。
 そっちに参加したかった。

 前後を現役の竜操者に挟まれ、ぼくら学院生は真ん中を練り歩く。
 みな思い思いの衣装に身を包んでいるが、僕の場合はやや特殊だ。

 礼服の上から羽織るのは純白のマント。
 首の留め金の所はマフラーのようになっており、口の周囲に空間ができている。

 顔の下半分はマフラー部分に隠れて見えないようになっているといえば分かりやすいだろうか。

 通常状態でもそうなのだから、シャラザードに乗った僕を見ると、目の位置くらいまですっぽりと覆い被さったようにしか見えない。

 ようは下から見上げた状態だと、僕の顔が判別できないのだ。
 これは僕が考えた苦肉の策で、それをリンダに話し、特注で作らせたものだ。

 マントの背中に意匠を入れたかったのだけど、時間がなかったのでなにもなし。
 ルッケナ商会の広告が入ってなくてよかった。

 ――特注家具のご用命はルッケナ商会まで

 とか書かれていたら泣いていた。

 しかしこのマント。日の光を反射してキラキラと光っている。なんの生地を使っているのだろうか。
 シャラザードが黒いこともあって、僕の姿は遠目からでも目立つらしい。

 僕が通ると歓声がすさまじい。

 こうして僕は顔を隠しつつ、数キロメートルの道のりをシャラザードに乗って練り歩いた。

 シャラザードの姿があまりに目立っていたことと、僕が英雄という分不相応な名称のおかげで、最後の方は大変な騒ぎになっていた。

 なんにせよ、最大の懸案だった僕の素顔はこうして守られた。


GWも終わりですね。みなさんいかが過ごしたでしょうか。
私の場合、諭吉さんに羽が生えて飛んでいくのをよくみました。嗚呼……。
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