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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 同級生たちが学院に続々と戻ってくる。
 みなやりきった、晴れやかな顔をしていた。

「一回り大きく成長した感じがするな」

 いろいろなものを成し遂げてきたからだろう。
 久しぶりに見る彼らは、どこか違っていた。

「やあレオン、久しぶりだね」
「お帰り、アーク。そしてお疲れさま」

 アークも戻ってきた。
 彼もまた、他の同級生と同じく成長していた。

「今日は久しぶりに寮のベッドで寝られる。感無量だよ」
 少し痩せた顔に、笑みを浮かべた。

 苦労してきたのだろう、疲れた表情に元気はない。
 肌つやは悪く、髪は黒くくすんでいる。
 服も埃まみれで、普段から身だしなみにうるさいアークらしくない。

「見違えるように逞しくなったね」
 だから僕はそう言った。

「そうかい? キミに言われると嬉しいよ。英雄様」
「――ぐはぁ!」

「どうしたんだい? 女王陛下の命を救った救国の英雄だろ? オレたちの代でそんな勇者が現れたって、アッチはすごい騒ぎだったぞ」

 アッチとは、竜操者仲間のことだろう。
 王都だけでなく、彼らの間で有名になると、噂は文字通り羽が生えたように広がってしまう。

「英雄の実像が僕だからね。そう言われると困るんだ」
 あとは察してほしい。

 あれは作られた話であると訂正してまわるわけにもいかないし、大したことじゃないと言っても、謙遜としか受け取ってくれない。

 僕の英雄譚は、甚だ扱いの困るものなのだ。

「そういえば、オレも見たよ。あの戦いの跡。凄かったな」
「戦いの跡というと……支配種と戦った場所のこと?」

「そう。みんなが騒ぐものだからどれくらいかと、巡回の途中で確認しにいったんだよ。たしかにあれは凄い。地形が変わるほどの戦闘だったんだね。どれだけ激しかったのか想像できないよ」

 興奮気味にまくしたてるアークには悪いが、被害の半分はアンネラの攻撃だ。
 というよりもシャラザードとアンネラでやらかした被害の方がおそらく大きい。

「あれは……まあ、気にしないでくれ」
 そう言うしかない。真実は闇の中に入れてしまおう。

「それと月魔獣の大型種とは比べものにならない大きさの死骸だったね。あれが噂の支配種かって、そりゃもう興奮してしまったよ。キミのところのシャラザードはまさに天下無双。英雄の名にふさわしい竜だ。彼もまた英雄竜だよ!」

 両手を広げてオーバーアクションするアークには悪いが……ほんとうに悪いが、シャラザードはそんな崇めるような存在ではない。

 喧嘩早く、時折「ぐふふ」と、悪巧みをするように笑う奴なのだ。
 悪ガキがそのまま大人になったような……って、ターヴェリがいうには、シャラザードはまだ若いんだっけか。

 ようは、持っている力に比べて、シャラザードの精神は未熟なのだ。

 そんなこんなでアークとつもる話はあるが、話の中心はやっぱり大移転と、それによって変わってしまった僕らの未来についてだった。

「竜操者の中ではもう公然と言われているけど、挙国一致体勢は最低でも半年続くみたいだ。軍属以外にも招集がかかっただろ?」

「ああ、日頃から月魔獣と戦っていない竜操者も特例で呼び出されたみたいだね。多くは国家間の伝令とか、駆動歩兵との交換で、技国に派遣されたと聞いているけど」

「そうなんだよ。扱いは軍属と同じで、戦闘は希望しなければなし。餌代などは国が持つけど、決められた期間だけは国の命令に従って奉公する感じかな」

 招集された竜操者たちの反発はあったという話は聞いていないけど、そもそも民間にいる竜操者自体かなり少ない。

 半民間というのだろうか。領主一族の身内など、その町の防衛力に組み込まれていた者たちも多いからだ。
 彼らは軍属のように月魔獣専門ではないものの、戦闘経験はかなりある。

「問題は完全に民間にいた竜操者たちだよね」
 商人に雇われているような人たちだ。

 それでも男の竜操者は勘が鈍らないようにと月魔獣狩りに参加することもあるが、女性の竜操者だと、本当に何年、何十年と月魔獣を見たことがないなんていうのも存在する。

 その人たちはいま、技国に行っているはずだ。

「何か問題があった?」
 僕が知らない生の声をアークは聞いてきているはずだ。
 そして僕とは違って、アークの社交性は高い。

 いや、僕の社交性が低いわけではない。
 僕は闇に紛れて生きるのが得意なわけで……それとほら、職人だから口ではなく手で語ればいいのだ……とか言ってみる。社交性は人並みのはず……たぶん。

「大転移による大量降下で、やっぱり戦死者が結構出ているんだ。この前は五人出て行って、二人しか戻って来なかったのを見たよ」

 ただの巡回だったという。
 命令の中で、殲滅が無理そうならば引き返せと言われているらしい。

 ところが運悪く大量降下のまっただ中にいてしまい、すぐに包囲され、なし崩し的に戦闘になってしまったという。

 もっともこれは不運な例だが、以前と比べても、やはり怪我は絶えないらしい。

 アークが言うには、仲間が死にゆく中、そして民間からも招集される中、やってこない者がいることに不満を表明している竜操者がいるらしい。

「気持ちは分かるけど、彼らだって別の場所で働いているわけだし」

「そうなんだよな。彼らが技国に行ったおかげで、こっちに駆動歩兵が派遣されているわけだし、貢献度としては変わらないと思うんだけど、気持ちの問題だね。こればかりはしょうがない」

 いろいろと悩みが尽きない……というか、問題のタネは尽きないものだ。

 ちなみに駆動歩兵が百体も集まれば、かなりの成果を出すらしい。
 集団戦闘が得意だからだろうか。月魔獣相手の練習をしなくても、連携がうまいのだという。

 技国は技国で戦闘データが取れ、兵の訓練にもなるので積極的に動いてくれているようだ。

 とくに駆動歩兵と竜の混成部隊が最近できつつあり、竜が月魔獣を釣り出して、駆動歩兵が待ち構えて叩くということもやっているらしい。

 現場の声も上々だということだ。
 ああ、早くアンさんに会いたい。

「卒業式までもう出ることはないんだろう?」

「そうだね。疲れを取って式に臨むよう言われているよ。今年はパレードをやるらしいしな。これも英雄様のおかげか?」

「だからそれは止めてくれって。……パレードは僕らの戦意向上と、民の不安払拭だね。ここしばらくは王都内でもパレードの噂でもちきりだったし」

 月魔獣の不安を煽る噂を上回る勢いなのは、王宮からパレードの情報が少しずつ解禁されていったことが大きい。
 小出しにされた情報に人々が食いついたからにほかならない。

「いつもは式が終わると王宮でパーティだったけど、今年は間にパレードが入るわけだ。楽しみだな」

「僕はあまり?」
 そう言うとアークに変な顔をされた。

 こうして穏やかな日々を過ごし、ついに卒業式の日を迎えた。


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