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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 朝早く起きてパン屋で仕込みをする。

 それが終わると寮に戻って朝食を食べつつ、授業が始まるまでアークと雑談して過ごす。

 授業に出たあとは自由だが、僕は時間を見つけてはパン屋を手伝っていた。

 そんな感じで最初の十日間が過ぎた。

「そういえば、前に竜国と魔国の争いについて話したことがあっただろう」
 いつもの雑談の時間に、アークがそんなことを言った。

「えっと、ルクストラ王家が始まったときの話だっけ」

「そうだね。竜国が瓦解する瀬戸際だったわけだけど、『霧の民』の反乱で魔国の対応が遅れて、結局和平が結ばれたんだけど」

 前にアークが話していたのを思い出す。
 竜操者の流出で弱体化した竜国。
 優勢だった魔国は、霧の民の反乱で勢いをなくしたのだっけか。

「思い出したよ。それがどうしたんだ?」
「そういえば、霧の民は竜国出身らしいんだ。これは話したっけ?」

「いや……たぶん聞いてないと思う」
 霧の民は天蓋山脈で暮らしている少数民族だと思ったが、竜国出身?

「おれの出身地に残った伝承だと、霧の民は旧王都から出て行った集団らしいんだ。『捜索の民』とか『放浪の民』と呼ばれた者たちの一部らしい」

 旧王都時代の話は、竜国の歴史の中にもあまり出てこない。
 単純に史料が現存していないのと、一時期王朝が途絶えたらしくて、その影響から正史に相当するものがないという話しだ。

「竜国出身だから反乱を起こしたというわけ?」
 竜国の危機に立ち上がったとかだろうか。

「それは関係ないと思う。純粋に魔国に対して不満があったんだろうし。事実、その後の魔国は、霧の民を受け入れているしね」
「吸収されたんだっけか」

「うん。おれに強い権限と、優秀な部下、そしてあり余る時間があったら……旧王都にまつわる謎を解明してみるんだけどね」

「旧王都にまつわる謎?」
「消えた王族とかね。……まあ、夢物語。ないものねだりだけど」

 そう告げたアークの横顔は、いつもの溌剌としたものは影を潜めていた。
 ヒューラーの町に愛着を持つアークは、俺とは違う目標があるような気がした。




 竜の学院での生活は大きな事件も事故もなく、穏やかに過ぎていった。

 ようやく授業にも慣れて、クラスメイトとも打ち解けてきたころ、キサ先生が二回生の授業を見学すると言い出した。

「毎年この頃に、二回生が操る竜の動きを見て、自分が得る竜についての知識を高めていきます」

 見るのも勉強ということだろう。
 椅子に座っているばかりじゃ退屈だし、外へ出れば体力づくりばかりで、みなのやる気も減って、集中力が切れかけていた頃だ。タイミング的にも丁度いい。

 実際の竜を見るのはいい経験になる。
 そういうつもりでカリキュラムが作られているのだろうな。

「いま二回生はフォーメーションの訓練をしています。さあ、行きましょう」
 キサ先生に連れられて、運動場を超え、林道を少し歩いたところへ向かった。

「ここからは竜たちが大勢いますので、注意してくださいね」
 林を抜ける前にキサ先生がそんなことを言った。

「これはっ!?」

 僕たちが見たのは、五十騎を超える竜の群れだった。

「すげえ」
「こんなに!?」

 周囲から声があがる。

「やっていますね。いまは本職の竜操者の方々が間に入って、フォーメーション訓練、位置の取り方を学んでいるところです。もっと近くで見てみましょう」

 キサ先生に連れられ、よく見える高台まで移動した。
 竜操者をみると、キサ先生が言った本職と、僕達の先輩である二回生の区別がハッキリつく。

 二回生の操る竜は、どこかぎこちない。
 竜は忠実に竜操者の意志を汲み取るのだが、肝心の竜操者の方が、どの速度、どの間合いで、どの方向に飛べばいいか、よく分かっていない。

 コロコロと変わるフォーメーションに追いていかれないように必死になっているが、タイミングがバラバラなのだ。

「ああも違いが出るものなんだな」
「レオンくんは、どう感じましたか?」

 僕のつぶやきに、キサ先生は質問を投げかけてきた。

「フォーメーションの訓練と言っていますけど、フォーメーションのつなぎ(・・・)の訓練ですよね、これ。型の中心となる竜が変わるので、その判断が追いついていない竜操者が遅れていますけど」

「レオンくんは軍人の家系ですか?」
「いえ? パン屋ですけど」

「ご家族やご親類に竜操者がいるとか」
「まったくいませんけど」

「そうですか。天性のものですかね。あとで説明しようと思ったのですけど、このフォーメーション訓練は、いまレオンくんが言ったように、フォーメーションを変えるとき、それについていけるようになる練習をしているのです。その時に中心となる竜操者がいるのですが、二回生たちはなかなか見分けられないようですね」

 あちこちで「へえ」とか「そうなのか」という声があがる。

「月魔獣にはいくつかの種類がありますので、フォーメーションを即時に変えて対処するのが最も被害が少ない戦い方になります。飛竜ですと、乱雑に飛んだら空中でぶつかったりしますよね」

 そうなったら、乗っている竜操者がたまらない。ヘタしたら地上に投げ出されて死ぬ。

「竜操者が最初に覚えるのが、他の竜との距離感です。まあ、中型竜ですと単独で撃破できるのですけどね。あっ、来ましたね」

 キサ先生が指す方に全員の視線が集まった。

「おおおおっ!?」
「きゃあああああぁ」

 驚きと悲鳴を上げる生徒が何人も出た。
 月魔獣を単独で撃破できるという中型竜。

 それがやってきた。

「中型竜は尻尾を含めて百メートル以上あります。そこのところは間違えないようにしてくださいね。あとで試験に出ますからね」

 キサ先生が冗談を言っているが、だれも反応していない。

 やってきた中型竜は、地竜に分類されそうだ。
 走竜や飛竜と比べて、同じ中型竜でも地竜の身体は大きい。
 そして予想以上に速い!

 地竜が歩くたびに地面が揺れ、その恐ろしい顔が近づいてくる。

 何人かが逃げた。それも致し方ない。
 絶対に敵わない相手に相対したとき、人は根源的な恐怖にさらされるのだ。

「はい、あれが二回生の訓練教官長ジニス教官です。挨拶に来たようですね」

 挨拶にではなく、驚かせにだろう。

 毎年これをやっていたとしても、不思議じゃない。
 なにしろ、ジニス教官の目は笑っているのだから。

「よう、ヒヨッコども、驚いたか」
 ジニス教官は、嫌味なくらいドヤ顔だった。

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