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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 寮の自室に戻ると、僕宛に手紙が届いていた。
 学院へ手紙を出せるのは、リンダか僕の家族くらいしかいない。

「今回は父さんからか」
 以前僕が出した返事のようだ。

 卒業後、一度ソールの町に戻ると書いたからか、ソールの町の近況が書いてある。

 最後にひとつだけ、「戻ったら鍛えてやる」とあった。
 他の人が見たら、パン屋のことを想像するだろう。

 だけどそれは違う。以前僕が依頼した〈影〉の方だ。

 魔国軍内に潜入して魔国王の前まで行った。
 その時、バシリスクの魔道に手も足も出なかった。
 なにもできずに退散するしかなかった。

 あれ以来、時々思い出す。
 どうすれば勝てたんだろうかと。

「父さんに鍛え直してもらおう」
 そう考えた。

 手紙には母さんからのも入っていた。
 僕が戻ってくるのを、首を長くして待っているらしい。

 僕も母さんには会いたい……が、僕の黒歴史はそろそろ忘れてもいいんじゃなかろうか。
 ◯◯していた子が立派になってと書いてある。(◯◯はあえて読み飛ばした)

 実家から手紙が来たことを義兄さんに伝えた。
 リンダに頼まれたので、一緒に戻ることも。

「そう言えばな、何人かの〈影〉がいま技国に入っているぞ。というのも……」

「魔国の魔道使いたちが技国に潜入しているの?」
 技国と魔国、水面下でいろいろ攻防があったらしい。

「竜国と技国の同盟で、竜操者が両国間を行き来しているだろ? 王宮宛ての手紙にそう書いてあったそうだ」

 義兄さんの元まで話が下りてくるまでに、相当時間が経っているらしく、潜入が確認されたのがひと月前らしい。

「ひと月前というと、回天が終了した頃だよね」
「そうだな。技国側にはこれといった被害は出ていないようだが、何かあってからでは遅い。こちらからも〈影〉を派遣すると決まったんだ」

 いま地方はかなり〈影〉の活動が忙しく、人員が割けないという。
 王都もそれは同じだが、王都と各町から少しずつ〈影〉を出し合い、なんとか数を揃えたらしい。

「本拠地だけでも九つの都市があるからね。……でもなんで潜入しているって気づいたの?」

「魔道結界は抜けられたそうだ。ただし、その先にある機械式の結界に引っかかったんだと。状況から魔道使いしかありえんとさ。状況から考えても、魔国が絡んでいる可能性が一番高い」

「そっか。でも目的はなんだろう」
「さて、他国の秘密を探るんだ。よほど重要な何かだろうな。パッと思いつくようなものはないかもしれない」

 竜国にも隠しているものかもしれないし、そもそも技国がその価値に気づいてないのかもしれない。
 この時点で魔国が求めているものは、予想しきれないと義兄さんは言った。

「気になるね。とくに魔国はこれから大変だし」
 食糧事情が悪くなるのは確実だ。その上で技国に魔道使いを派遣する余裕はあるのか。
 そこまでする必要性といえば、限られてくる。

「技国の土地を狙っているのかもな。そのために必要な何かを探っているのかもしれん」
「でも技国は、竜国と共闘同盟を組んでいるし。土地を狙っているって言ったって……」

 技国に攻め込めば、竜国とも戦うことになる。

「だからこそ、潜入して何かを掴もうとした可能性もあるが……まあ、ここで話していても分からないよな」
「そうだね。シャラザードが無事ならば、すぐに向かっても良かったのだけど」

 別段今のシャラザードでも飛行は問題ないが、ここで無理をさせることはしたくない。
 完全に治るまで休養と決めているし、王宮もそれは了承してくれている。
 関係ないところで無理をさせて、後々響かせたくないのだ。

「ソールの町に戻ったら、情報が入りやすくなるだろう。オレの方でも集めておいてやるよ」
「ありがとう、義兄さん」

「そういえば、おまえの婚約者はどうしたんだ?」
「アンさんならいま、陰月の路に行っているね」

「なんでまたそんなところに?」
 義兄さんが不思議がるのも分かる。連絡をもらって、僕も驚いたのだから。

「技国から駆動歩兵が来たでしょ。あの中にアンさんの部隊が加わっていたらしいんだ」
「駆動歩兵の隊長をやっているとは聞いたが、お飾りじゃなかったのか?」

「氏族を束ねる人たちはみんな何らかの戦闘技能を持っているからね。外見からは分からないけど」
 アンさんは実戦経験もあるわけで、そこらの兵よりも肝が据わっている。

「陰月の路に氏族の姫が行っている話は流れてきていないな。失敗した場合を考えてかもな」
 大々的に発表して、ほとんど成果をだせずに撤退したら「なあんだ」ということになる。

 それならば、密かに行ってもらって、現地で成果が出たときに「実は」と大々的に発表した方が傷が少ない。

「そうかもしれないね。どちらにしろ、そういうわけで最近会えてないんだ」

 技国がらみならば、アンさんの意見も聞いてみたかったのだけど、いまは国を挙げて大転移に対処している。
 あまり個人的な用事で会いには行きにくい雰囲気になっている。

「そうそう。ついさっき聞いたんだが、もうすぐ二回生が戻ってくるぞ。帰って来たら日用品が出るだろうから補充するように言われた」
「帰ってくるの? やった」

 ついに同級生たちが戻ってくるのか。
 いつもは僕が陰月の路に行って、彼らがここで授業を受けていたのだけど、今だけは逆になっていた。

 戻ってくるのか、早く会いたいな。
 なるほど、義兄さんの所にはそういった情報も伝わるのか。

「ただな、残念なお知らせも一緒に来ている」
「ん?」

「一名の竜操者が未帰還だ。月魔獣にやられたらしい」
「……そうなんだ」

 毎年一定数の竜操者が、月魔獣との戦いで命を落とす。
 竜国は竜操者の生命を大事にするので、怪我をすれば、かなり長期間休みをくれる。

 十分な休養を取って復帰した竜操者は、これまで以上に働いてくれるからだ。

 だが、戦いの場で命を落とすこともある。
 多くの場合は、運が悪かったと片付けられるものだという。

 たまたま竜が避けて、竜操者に月魔獣の攻撃が直撃したとかだ。
 それはあり得ることで有り、避けられないことでもある。

「七月の合同葬儀だそうだ」
「……分かった」

 同期が亡くなった場合、竜操者は、次に行われる合同葬儀に出席する。
 それは二年間苦楽をともにした仲間への弔意でもあるのだ。

「これから先も、増えるだろうな」
「そうだね。悲しいけれど、そうなると思う」

 大転移になって分かったことがいくつかある。
 ひとつは、バラバラに鋼殻が降下してくるのではなく、落ちてくるときはまとまってということ。

 手を開いて、握っていたマメを地面に落とすような感じで、ある場所にまとまって降ってくる。
 その対処は、現役の竜操者たちでさえ苦労しているという。

 そしてもうひとつ。
 月の軌道が動いているせいか、降下範囲が通常よりも広い。

 陰月の路の幅が三倍に広がったと考えればいい。
 より広範囲に落ちることで竜操者の移動範囲が増え、大転移が始まって間もないというのに、すでに疲労が蓄積されているという。

「これから苦しい戦いになるな」
「そうだね」

 義兄さんと話した翌々日から、二回生たちが徐々に寮へ戻ってきた。

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