挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

458/660

457

 ミラはがぜん(・・・)やる気を出し、ひとりで原材料の確保と金枠の依頼を終わらせた。

「原価がこれで……うーん、いくらで売りだそうかしら」
 いまは価格設定に余念がない。

 ミラがあまりに真剣なので、ロブさんなどは逆に心配していた。

「売れ残りのパンを食わせたのがいけなかったのかね」
「そういうことじゃないと思います……たぶん」

「昔っから突拍子のないことをすることがあったし、それかなぁ」

 壁に向かってブツブツと話しかけるミラを見るたび、ロブさんの「育て方を」とか「ありゃ一生嫁に」という嘆きが聞こえたので、聞かなかったことにした。

 僕が『ふわふわブロワール』でアルバイトできる日は残り少ない。
 ミラの挙動が心配だが、卒業が近づいているのだ。

「シャラザードの怪我も快方に向かっているけど、相変わらず寝てばかりだな」
 一時期のようなボロボロの翼はなりを潜め、大きな裂傷がいくつか見えている程度には回復していた。

 ミラは最近、「うへへ」などと気味の悪い笑い方をするようになった。
 売れ残りのパンがカビていたとか本当にあるのか。

 ロブさんも「いよいよか」と呟いて医者を探しはじめたが、そんなおり、妹のクシーノが思いがけないことを言った。

「お姉ちゃん、自分の新しい道を見つけたって言ってたよ」
 それはちょうどシャラザードの金枠が届いた日のことだった。

 接客はクシーノに及ばない。
 しかも最近はクシーノ目当てのお客さんが多数訪れるようになった。

 お客さんとの会話とふりまく笑顔で、クシーノは多くのファンを獲得していた。

 パン作りの腕は僕に及ばない。
 といっても体力勝負なところもあり、これは日頃から鍛えてないミラには、技術どうこうよりもまだまだ課題が多い。

「持久力がねえと、朝と夕でパンの味が違っちまう」

 朝は店に出せるレベルのパンが作れても、夕方はだめ……などということがあってはならないとロブさんは言う。
 今後の成長しだいだが、安定した技術を持たせるには、鍛え直す必要があるらしい。

「そもそも仕込みを始めたのが最近だしな。長い目で見るしかねえんだが」
 そう言って力こぶを作るロブさんと、細い腕のミラでは出来上がりに差が出るのはしょうがない。

 最近、ミラはそのことでいろいろ悩んでいたらしい。
 そこで見いだした新機軸。

 僕とロブさんが新しいパンを開発したのをその目で見て、しかも好評だったことに背中を押されたのだという。
 クシーノいわく、ミラの将来設計ができあがったと。

 ――私はヒットメーカーになるのよ!

 ヒットメーカーという職業が果たしてあるのか分からないが、最近の不気味な行動の謎はそれですべて説明できるらしい。

「さあ、どんどん作ってね!」

 というわけで、どこから調達してきたのか、「シャラザード焼き」の材料をすべて僕の前に置き、ミラは(ない)胸を張って、偉そうに告げた。

「焼き菓子を僕が作るの?」
「作り方を知っているのはレオンでしょ」

「そうだけど……作るのは僕なんだ」

「私じゃ最初から失敗するじゃない。さあ、がんばるのよ。このヒットメーカーミラ様が考えた商品だもの、馬鹿売れ間違い無しよ」

 確かに売れた。
 僕が丁寧に作り、金枠で抜いたそれに、通常の生地でシャラザードにあるラインを入れる。

 黒竜シャラザードには、全身の黒色に黄色のラインが綺麗に入っている。
 それを普通の生地で再現すると、焼き上がった時につく微妙な焼き色で本物に近くなる。

 そうしてできあがったのは、薄くて甘い焼き菓子の「シャラザード焼き」だ。

 シャラザード焼きの大きさは、手乗りシャラザードを意識したのか、それより大きく、両手を広げたくらい。

「頭から囓っても、尻尾から囓っても美味しいわ」
 その言い方はどうなんだろう。それと名前。

 ミラのネーミングセンスには期待していなかったが、菓子とは思えないくらい物騒な名前がついた。

 先ほども言ったが、これがよく売れた。
 食べるとサクッとするのは、生地が薄いからだろう。食感がいい。

 しかも甘いので女性にも人気だ。
 それなりの値段がするのだが、売れたのは珍しさもあるのだと思う。

「レオン、シャラザード焼きは好評よ。どんどん作ってね」
 よく考えたらなぜ僕がシャラザードの菓子を作っているのだろう。

 世間では英雄とともにシャラザードの名前もよく出てくる。
 人気にあやかった商売だ。

「それを裏方で作っているのが……僕?」
 なぜかそれが腑に落ちない。

「おーっほほほほ。高笑いが止まらないわね」

 悪役のような笑い方をしてホクホク顔のミラ。
 まあ、ミラが喜んでいるのならば、それでいいかと思う。

「ロブさん、今日は午前中で上がります」
「おう。珍しいな」

「明日の午前中は、学院の試験なんですよ。だから次に来るのは試験が終わった午後からになります」
「わかった。勉強がんばれな」
「はい」

 以前予約していた学院の試験がある。
 同級生たちはみな合格しているので、僕も頑張らねばならない。

 今までも時間を見つけては勉強していたので、今日の午後と明日の朝にがんばれば問題ないはずだ。

 駄目でもまた予約して受ければいいのだが、それはかなり恥ずかしい。
 ここはなんとしてでも、一発で合格する!


 集中して勉強したのが良かったのか、試験を受けた感触は上々だった。
 何度も見直したが、合格ラインは軽く越えている。良かったと思う。

 午後、『ふわふわブロワール』に顔を出す。
 ロブさんは僕の試験を気にしていただろうし、まずは報告だ。

 そんなことを考えながら店の入口を見たら、張り紙が別のもの替わっていた。
「あれ? シャラザード焼きの宣伝がなくなっている。どうしたんだ?」

 僕はもうすぐソールの町に帰る。
 僕がいなくなった後でシャラザード焼きが作れないと困るので、ロブさんがまず作り方を覚え、いまはケールさんも覚えている。

 ミラにも作り方を教えた。
 僕がいない日でも大丈夫なはずなのだけど。

 不審に思って入口の張り紙を見る。


 ――新発売 英雄レオン焼き


 そんな文言が目に入った。

『大好評のシャラザード焼きに、新たな仲間が加わりました。

その名も英雄レオン焼きです。

あなたも英雄レオンを頭から丸かじりしてみませんが!』


「………………ミラ」

 店に駆け込むと、ミラが出迎えてくれた。というか、いた。
「あらレオン。どうかしら、ヒットメーカーミラ様の第二弾よ」

 ドヤァという顔で、僕の顔をかたどった焼き菓子を見せてくる。

「どう? シャラザードの金枠を作ってくれた人にお願いしておいたのよ」
「どうって、これ僕?」

「そうよ」
「全然似てないじゃん。目はこんなに細くないよ。それに頬もこんなに膨れてない」

「焼き菓子だからしょうがないでしょ」
「なんでだよ。僕の顔だよ? それに表の張り紙はなに? 頭から丸かじりって」

「食欲がわきそうなフレーズを考えるのに頭を使ったわ。頭だけに」
 ぜんぜん良いこと言えてない。

「僕のはやめて!」
「やあよ。もう金枠の代金払っちゃったし」
「…………」

 結局、張り紙を差し替えて販売を継続することになった。

 ――レオン風焼きと、名を変えて。



 かつての竜国には、救国の英雄がいた。
 その時代を彩るかのように、英雄とともに戦った者たちの肖像画が、今でも多く残されている。

 ただし、英雄本人のものはない。
 本人があまりにシャイだったとも、一度も肖像画を許可しなかったとも言われている。

 唯一現存しているのは、当時英雄が働いていたパン屋で売り出された商品の金枠のみである。
 それだけが当時の英雄の姿を知る唯一のものであり、一級史料となっている。

 その金枠によると、英雄の素顔は……おっと誰か来たようだ。


 レオン風焼きのお話です。
 本文の最後のは蛇足ですので、その通りになるのか分かりません。

 ミラに関しては今年の1月頃(年明け)頃から、ずっと物語の落としどころを考えていました。

 レオンの卒業とともに登場しなくなる彼女の未来はどんなものなのか、レオン卒業までに方向性を出さねばと、日々考えていました。

 クシーノとレオンに挟まれて目立った部分のないミラですが、作者的には好感の持てるキャラクターです。
 彼女のやや残念な方向に邁進する性格をよい方向に導ければと思い、考えついたのがヒットメーカーミラでした。

 ゆるく伏線をはりつつ、最近はそこに向けて物語を収束させていきました。
 最後はリンダをしのぐ商才(?)も獲得しています。

 現時点では、唯一英雄本人が許可した絵姿です。(焼き菓子ですが)

 その前振りとして登場させた手乗りシャラザードが意外にも好評だったりと予想外のこともありましたが、この先ミラは、ヒット商品を連発……はしないと思いますが、5本に1本くらいヒットを飛ばすようになるのではないかと、作者はひいき目にみております。
 ミラの未来に幸あれ、です。

 というわけで、いかがだったでしょうか、レオン風焼き。

 明日からは少しずつ物語が動いていきます。
 ひきつづき、よろしくお願いいたします。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ