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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 リンダは目を離すと、ロクなことを考えない。
 手乗りシャラザードはいいが、僕の像は勘弁してもらいたい。かなりマジで。

「これから先、注意しておかなきゃ」
 僕の肖像が商売になると分かれば、積極的に売り出すかもしれない。

 その翌日、僕は用事を済ませるため、学院の事務室に向かった。
 竜の学院は二年制なので、あと一ヶ月もしないうちに僕は卒業する。

 留年はない。というか、させてくれない。
 溜まった授業を消化しようと思ったら、まさかの休校だ。

 補習や追加の実技演習が残っていたはずだが、どうなっただろうか。

 今年ほとんど授業に出なかった。
 操竜会や竜導教会、王宮から依頼があった場合、授業は公休扱いになる。
 これは竜操者がこなすべき仕事ということで、欠席とはみなされない。

 試験にパスする必要はあるが、欠席日数分の補習はなかったはずだ。
「補習はないけど、希望すれば個別授業をやってくれるんだっけか」

 その辺は曖昧だが、僕だけは同級生と行動が違うので、事務所でしっかりと確認したかった。

「レオン操者の場合はですね、残っているのは一部の学力試験のみになります」
 意外に少ない?

「そうなんですか? 結構授業に出ていないと思いますけど」

「二回生の場合、必要なのは竜を操る技能です。他の竜操者に迷惑をかけない運用もそうですね。これらはみな編隊行動をする際に重要視されます」

「はい、分かります」
「属性竜は単独行動をすることがほとんどですので、かなりその辺が甘い採点になります。実戦で結果を出していたことも大きいです」

 王女殿下を乗せて技国に向かったのをはじめ、他の竜を操ったりしたことで、操竜術が必要レベルに達していると判断されたようだ。

 残っている学力試験だが、これはそれほど難解なものではない。

 竜を得ていない一回生のうちに必要な知識を詰め込んだ。
 計算や歴史など必須科目は一年で終わらせてあるし、村や町の名前や位置関係なども暗記している。

 竜についての基礎知識もバッチリだ。
 二回生で新しく学ぶ学問は思いの外少ない。

「それにいまは大転移中ですので、試験よりも人の命を救うこと、町や村の財産を守ることが重要視されます。緊急時ですので、卒業後に学んでも間に合うことは課さないことに決まりました」

 つまり、勉強するヒマがあったら、陰月の路に行って一体でも多くの月魔獣を狩れ、町や村を巡回して、人心を安心させろというわけだ。

 言いたいことは分かる。
 高々数十人だろうとも、いるといないとでは安心感が違う。

「では僕の場合……」
「二回生が受けていてレオン操者が受けていない試験がいくつか残っていますので、それだけですね」
「そうですか、ありがとうございます」

 というわけで、受ける日の希望を出してきた。
 日中はパン屋でアルバイトをしつつ、試験勉強をしよう。

 ほとんどの学院生が一発で合格する試験ばかりだし、なんとかなるだろう。
 ちなみに難易度の高い試験は卒業後に、各自時間を見つけて受けに来るらしい。

 これは大転移だからこその特例だそうな。

「……というわけで、授業はないからゆっくりアルバイトができるよ。試験勉強はしなくちゃだけど」
『ふわふわブロワール』で、ミラ相手そんな話をする。

「私たち一般の学校も同じような感じよ。地方から学びに来ている人もいるし、親戚が地方にいる人もいるから」

 大転移で実家が大変になったり、家族や親戚に不幸があったり怪我人が出たりして学校に通えなくなった人もいるらしい。

 彼らは特例として、身分を一時凍結する。
 身分を翌年に持ち越すか、あとで試験を受けたり、補講で卒業資格を得る道が残されているという。

 大転移は、直接関係のない人たちにもいろいろと影響を与えているようだ。

「そういえばリンダがときどき、ここに来ているんだって?」
「あなたのパトロンね。王立学校の生徒でよく来る人がいるから、たぶんその人だと思う。でも最近は見ていないかしら」

「そっか。いま王都に来ているから、また顔を出すと思う」
「お客さんのひとりだし、別によろしくしたりしないわよ」

「それでいいよ。この前会ったんだけどさ、シャラザードの木彫りを作るって張り切っていたから、今はそれに集中しているかも」

「木彫り……定番ではあるわね」

 竜国はそのお国柄か、竜や竜操者へのアプローチには厳しく目を光らせているが、それ以外にはかなり大らかだ。

 竜をかたどった意匠を店の看板に入れている者や、簡略化したデザインを刺繍した服など、町中に目をやれば、竜に関するものは溢れていると言っていい。

 これは国民が竜を身近に感じ、親しみをもっているからに他ならない。
 ソウラン操者の絵姿などは、ここ何年も売れ筋商品だ。

 どの絵師が似ているとか、カッコイイとか噂されている。
 毎年新しい図案が出現し、コレクターもいるのだとか。

「貴族向けにシャラザードの木彫りで、一般向けにはもっと小型の、手乗りシャラザードの木人形を売り出すらしい」

「へえ……手乗りねえ。ひとつ買って窓枠のところにでも飾っておこうかしら」

 竜の装飾品は数あれど、シャラザードに特化したものはまだ見たことがない。
 今までのイメージが悪すぎたのだから、さもありなん。

「手乗りシャラザードなら、大きさも手頃だろうし、飾っておくとリンダも喜ぶよ」

 そんな話をしつつ仕事に戻ると、ミラはしばらく何かを考え込んでいた。
 気にせず仕込みを続け、その日の仕事を終えて僕は寮に戻った。

 翌日、ロブさんと今後のことを話し合っていると、ミラが勢い込んできた。

「私たちも始めるのよ!」
 何をだ。

「おい、ミラ。おまえ昨日は黙り込んだと思ったら、今度は何だ?」
 ロブさんが呆れた顔をしている。

「考えたのよ。我が家の売り。シャラザードのパンを作って売り出しましょう」

 握り拳を天に突き上げて騒ぐからなにかと思ったら、シャラザードのパン? 何を言い出すんだ。

「パンは焼きをすると形が崩れるから無理じゃないか?」
 僕が指摘すると、ミラは違う違うと首を振った。

 あげくに「分かってないわねえ」と上から目線だ。

「ほら、あなたがお土産に買ってきたのあれよ。硬くて甘いやつ」
 そう言われて思い出す。

 焼き菓子だ。
 材料を取り寄せないといけないので、価格が上がって、ちょっと採算的に厳しいやつだ。

「あったね。あれが?」

「あれならそんなに膨らまないから、シャラザードの形ができるでしょ。あとは色なんだけど、黒莢豆くろさやまめを練り込めばいいと思わない?」

 黒莢豆とは、小粒の黒い豆のことで、中まで真っ黒になっている。
 味はほとんどない。そのまま食べてもあまりおいしくないので、ゆでて料理に入れたりする。

 すと黒いペースト状のものができる。
 漉したものを料理に入れると全体的に黒くなるので、見た目はよくない。

 それを生地に練り込んで黒色を出せばいいとミラは言う。

「たしかに可能かもな。あれは熱を加えても色が変わらねえ。レオンの土産っていったら、あの薄っぺらいやつだろ? どうやって作るつもりだ?」

金枠かなわくで抜くのよ。そうしたら同じ大きさのものができるもの」
「なるほど。ミラにしてはいい考えだ」

「そうでしょ……って、なんか馬鹿にしていない?」
「そんなことないよ」

「レオンはあれの作り方は分かるわよね。材料も」
「うん。覚えているよ」

「じゃ、金枠は商工議会のオージンさんに聞いて、職人を紹介してもらうとして……できたらすぐにでもウチの目玉として売り出すわよ!」

 ひとり気炎を上げるミラに、僕もロブさんも唖然として見つめるしかできなかった。

 売るの? シャラザードの焼き菓子。


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