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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 卒業式が近い。
 二年前、僕はソールの町から馬車に乗って王都にきた。

 いまはシャラザードがいる。
 増えた荷物もすべてシャラザードに積み込めば完成だ。

 卒業後にすぐ帰るなら、今のうちに土産を買っておこうかな。
 王都まで五日の馬車の旅も、シャラザードに乗れば一日で着く。

 竜操者の責務としてこれからも何度か王都を訪れる機会はあるだろう。
 それでも帰省のときくらいは、家族に土産を買って帰りたい。

「ついでに近所の人にもだな」
 近所づきあいは大切だ。

 リンダは南方を拠点に、技国との交易をするつもりでいる。

 詳しい話は聞いていないが、僕もそうなるだろう。
「もっとも、大転移を無事乗り切らないと駄目だけどね」

 いまは戦える竜を遊ばせる余裕はない。
 滅私奉公とまでは言わないが、竜操者個人の我が侭は言うべきではないという風潮になっている。

「商国の動向も知りたいな。リンダに会ったら聞いてみるか」

 僕が潜入捜査をしたときは、西の都は魔国軍に占領されていた。
 あれからどうなったのか知りたい。



 翌朝、パン屋のアルバイトを終えてから、リンダの家に向かった。

 王都にあるリンダの実家は、敷地の半分ほどが事務所になっている。
 簡単な工芸品ならばここでも作成できるため、ルッケナ商会の従業員と職人が働いている。

 玄関で用件を告げると畏まられた。
 初めて見る顔だ。年若の従業員なので最近雇ったのだろうか。

 王都には人が多く流れ込んできている。
 働き口を見つけるのは大変だろう。

 リンダは事務所にいるらしいので、向かおうとすると先触れを出すという。

「いや、場所は分かっていますから、ひとりで大丈夫です」
「いえいえ、英雄様にもしものことがあったら……」
 ねえよ!

 押し問答するのが面倒なので、玄関口の応接室で待つことにした。
 程なくしてリンダが現れる。

「なあに、こんなところで。もっと家の中に入ればいいじゃないの」
 事務所は家の裏手にある。

 家の周囲を横切って、庭を突っ切るとたどり着ける。
 従業員たちは裏にある通用門を使って出入りするので、僕が使うような表玄関は家族と来客用だ。

「従業員の人が気を利かせてくれたんだ」
 来客が来たときにここで応接するらしく、部屋は日当たりの良い場所に作られていた。

「それで手紙で呼び出されたんだけど。シャナ牛のことだよね」
「ああ、それはもういいの」

「はっ?」

「国からパパの――ルッケナ商会に連絡がいってね、シャナ牛の費用を当分、国が持つって言われたのよ。パパったら勘違いして、パトロンを外されたのかもってわたしに手紙を書いたのね」

「あー。あれは月魔獣の支配種と戦ってシャラザードが大怪我をしたからだよ」
 世間的にはそういうことになっている。

「そうみたいね。パパが連絡を受け取ってから、わたしにすぐ手紙を書いたもんだから、その辺の事情が伝わらなかったのよね。パパの書き方にも問題があったし」

 南方で手紙を受け取ったリンダは「どういうこと!?」と思ったらしい。

 王立学校で習ったパトロンに関する規則を思い返したようだ。
 すると竜の餌代を国が持つ理由。思い当たることはふたつ。

 ひとつは、商会が傾いたとき。ルッケナ商会が信に能わずと国が判断すれば、パトロンを外されてしまう。

 もうひとつが僕が言い出した場合。
 その場合、パトロンを解除して一時的に国預かりとなる。

 新しいパトロンが決まると、国が建て替えた分を含めて請求がいくのだが、リンダはその可能性くらいしか思い当たることがないと判断したようだ。

「連絡はいきなりだったし、こりゃ事情を聞かなきゃと思って手紙を書いたのよ。わたしもすぐに王都に向かおうと思ったわけ。どうせあなたの卒業式に合わせてこっちに来る予定だったしね」

「なるほど。……で、誤解は解けたと」

「そうね。馬車で王都に向かう途中で話――というか噂ね。それが入ってきたから、およそのことは分かったわ。シャナ牛の費用は、女王を守って怪我した分の補償ね」

「まあ……そんな感じかな」

「というわけで、途中で帰ろうかとも思ったんだけど、手紙も出してしまったことだし、一度来ておこうかなと思ったのよ。パパもいま北方にいるしね」

「北方に? 危なくないの?」
 クロウセルトの町だろうか。

「大転移中とは言っても、急には動かないもの。それよりも北から逃げてくる人たちの拠点確保と、陰月の路を越えるための足の手配ね。そのために行ってるわ。ウチの場合、北方に行っている職人が多いんだもの」

 ルッケナ商会は北嶺地帯の木を伐採できる権利を持っている。
 そこで得た木を家具や美術品などに加工して売っている。

「なるほどね。ヨシュアさんも大変そうだ」

「そういうわけで、用事はなくなったんだけど、そっちはどう?」

「そうだね。いくつか話があるかな」
 僕は語り出した。


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