挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

452/660

451

 寮に戻ったのは何日ぶりだろうか。
 購買に行くと、クリスタン義兄さんがいた。

「久しぶりだな。話は聞いているよ、英雄どの」
「……王都に戻ってきたら、その話ばかりなんだけど」

 義兄さんも僕を英雄と呼ぶのか。
 正直、英雄の話題は食傷気味だ。

「女王陛下の肝いりで流れた噂だから、当分続くと思うぞ」
「それは困るな。顔を知られてないからいいけど、ソウラン操者みたいに、絵姿が出回るってことはないよね」

「それは……大丈夫じゃないか?」
「義兄さん、いま顔を逸らした! なんで疑問系なの? 大丈夫だよね?」

「いや大丈夫だ。絵姿が出回ると〈影〉の仕事に響くだろうし、それはないよ。たぶん」
「……たぶんなんだ」

 そしてなぜが義兄さんは難しい顔をした。
 考えがあるようなので、じっと言葉を待ってみる。

「おまえの卒業に合わせて、おれはここを去る」
「うん、それは知っているけど?」

「世話になったし、去る前に挨拶をしておこうと王都の組合に顔を出したんだ。そこですこし不穏な噂を聞いてな。ひとつはおまえがやらかしたやつだからいいとして……」

「ちょっと待って。最近の僕は何もやらかしてないよ!」
 ひどい風評被害だ。

「やらかしたってのは、あれだよ。支配種との戦いの跡のことだ。呆れるほど巨大な支配種の死骸が残っているだろ、それだけじゃなく周囲の被害についての噂だ。かなり広範囲にわたって地形を変えたそうじゃないか」

「あー、えーっと、そうかも」
 風評被害じゃなかった。

「底が見えないくらい深い穴ができたり、大きなクレーターがあったり、丘だったところが窪地になっていたらしいぞ」

「一応言っておくけど、それは僕だけのせいじゃないからね」
 ターヴェリとの戦いでできた傷跡なので、責任はアンネラと半分のはずだ。

「その辺はシャラザードの凄さの証明にもなるからいいんだけど。問題はもうひとつの噂だな」
「どんな噂なの?」

「これは魔国から逃げてきた商人の話なんだが、国境付近にいる魔国の軍隊な。あれが北に移動したらしい」
「ふうん……ん? 北?」

 北には陰月の路がある。そしていまは大転移だ。
 普通は南下するはずだが、どういうことだ?

「間違いなく北だ。連中の移動は竜国でも確認済みで、見に行った竜操者も不思議がっているらしい」

「わざわざ月魔獣が大量降下している場所に移動ねえ。倒しにいったわけじゃないよね」

「普段ですら、魔国軍は町にやってきた月魔獣を相手にしているんだぞ。わざわざ大転移が始まってから狩りに出る意味が分からないな」

「そうだよね。じゃ、どういう事だろう」

「理由が分からないから商人たちが噂しているんだ。もしかすると目的を探るために〈影〉に指令が出るかもしれない。ただ王都にいるおまえには関係ない話だろう」

「そっか。一応気にしておく程度でいいかな?」
「それで構わないと思う。ただ、不気味であることには違いないな」

「そうだね。僕もちょっと理由が思いつかないよ」
「それはいいとして……おまえ、パレードの話は聞いたか?」

「うん。僕ら二回生が卒業式のときに王都を練り歩くんだよね」
 アクリの町でもやったが、竜国民ってパレード好きだよな。

「ならいいか。民の不安を払拭させる狙いだから派手にやるんじゃないかって、商人たちが騒いでいたよ。商売を広げるチャンスだと」

「商売のチャンスか。人出もかなりあるだろうしね」

「そうだな。劇もあるし、話題には事欠かないだろうよ」
「劇って?」
「………………」

 僕が尋ねると、義兄さんはあからさまに視線を外した。
 というか、挙動が怪しい。

「義兄さん、劇って何の話かな?」
「……さあ、小耳に挟んだくらいだからな」

「嘘でしょ。……それで劇ってなに?」
「…………」
「…………」

「……ふう。分かった。話すよ」
 僕の睨みに根負けした義兄さんは、大きく息を吐き出して言った。

「パレードの当日に合わせて、新しい演目が上映されるんだ。題材はおまえと支配種の戦い」

「それ、聞いてないんだけど」

「おれも商人仲間から聞いただけで詳しく知らないが、一気に広めるらしい。急いで脚本を作ったらしくてな。いま特訓中だというぞ」

「特訓って……何が何でもパレードに間に合わせようって感じだね」

「そうだな。五つの劇団が同じ演目をする。王都にある五カ所の演劇場で見られるらしいぞ。それが終わったら地方へ向かうんだと」

「なんていうか……いつの間にそんなことに?」

 民衆の不安を晴らすってよりも、現実から目を逸らさせたいのかもな。支配種を倒したってことは、シャラザードに倒せない月魔獣はないってことだから」

「倒したと言っても、たまたまうまくいっただけだよ。それにあれは二度とやりたくないくらいにはキツかった」

「分かっている。ただ、民衆に現実を突きつけるんじゃなく、倒したって事実を大々的に宣伝したいんだろうよ」

「それ……ますます僕の負担になるんだけど」
 英雄と呼ばれるだけでも大変なのに。
 期待されても応えられるかどうか分からない。

「女王陛下も分かっているさ。ただ、うまい具合に支配種の登場と撃破が重なったからな。最大限に利用したいんだろう。しばらく踊らされておけ」

「義兄さんはそう言うけど、僕としては目立たずに過ごす方が、何倍も嬉しいんだけど」
 結局、これも竜操者の責務なのだろうか。違う気がする。

 義兄さんが言うには、この英雄化現象は、悪いことばかりでなはないという。
 シャラザードを得たとはいえ、僕はまだ学院生。

 卒業後は新米の竜操者として世に出るわけだが、今回の件でいろいろ動きやすくなったはずだと言われた。

 もともと多少の不手際があっても「あの暴君の主だしな」でおさまる事もあったが、これからは「英雄のやることだし」と大目に見てもらえることも多いという。

 どのみち〈影〉の仕事は見つかったらお終いなので、その準備段階で無理を聞いてもらえる下地ができたことも喜んでいいらしい。

「それにな、大仕事をしたってことは、それだけ貢献を先取りしたんだ。もう十分竜国に尽くしたし、隠居してパン屋を開きたいと言っても、英雄の言うことだからと領主だって強くは出れないだろ? 何しろ他の竜操者の一生分の働き以上をすでにやり終えているわけだから」

「なるほど! その通りだね」
 そうか。たしかにそれは悪いことではない。

「よぉ、英雄! これからも頼むぞ!」
「任せて、義兄さん!」

 僕はホクホク顔で寮の自室に戻った。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ