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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 ミラのクラスメイトが、店にパンを買いに来た。
 棚にパンを並べているレオンの近くで、二人の会話は続く。

「ねえ、ミラ。聞いてるの?」
 チャミがミラの顔を覗き込んでくる。

「聞いているわよ」
 そう答えるものの、横目でレオンを気にしている。

「それならいいけど、ミラもどう? 一緒に行きましょう」

「へっ? なにが?」
「だから操竜場よ。英雄様が見られるかもしれないじゃない」

「そうよ、ミラ。……お昼過ぎたら出ても大丈夫かしら」
 たしかにミラの場合、午後はヒマになる。

 店番だけなら母親とクシーノで十分だ。
 それに今日はレオンがいるから、手が足らなくなることはない。

「それまで私たち買い物をしているから、あとで合流して一緒に行きましょう」

 チャミがにこやかに誘ってくるが、ミラは非常に困惑した。
 店の手伝いを休んでまで出かける先が操竜場とは……。

 答えに窮していると、トリンがうっとりとした表情で。

「英雄様のお姿……見られるかしら」
 恋する乙女の顔で遠くを見つめるトリンには悪いが、本人がそこにいる。

 となりでパンを並べているのがそうなのだが、気づいた様子はない。

 よっぽど言ってやりたくなるが、そうなったら我が家に英雄が働いていると注目を浴びてしまう。
 そもそも操竜場にレオンを見に行くなんて、なんの冗談か。

「ちょっと予定が……無理かも」
 だからふたりで楽しんできて……そう告げようとしたミラに、レオンが口を挟んだ。

「店は僕がやっておくから、行ったらどうだ。せっかく友達がさそってくれたんだし」
 と余計なことを言った。

 おまえは話を聞いていたのか? 彼女たちがだれに会いに行こうとしているのかと問い詰めたい衝動にかられるが、ここで声を出したら負けである。

 ミラがアイコンタクトで余計なことを言わないよう、しきりにサインを送っていると、レオンはポンッと手を叩いた。

「すぐに行きたいのか。だったら大丈夫、ロブさんには僕から言っておくから」
「ち、ちがっ……」

「本当ですかー?」
「ありがとうございまーす。ミラ、よかったね。この人が言ってくれるって」

「いや、あのね……」

「じゃ、お昼を買って向こうで食べましょう。ミラの分は私が出すわ」
「わたしも半分出すわね。……これとこれ……他には何がいいかしら」

「これなんかどうですか? 僕が開発したんですけど、おすすめですよ」
「ありがとうございます。へえ、若いのに優秀ですね。……じゃこれにします」

「まいどどうも」
「いえいえ-」

 いまトリンが会話しているのが夢想している相手だと気づいていない。

「そうそう。クラスのみんなはパレードに照準を合わせているんですって」

 チャミの言葉にミラはげんなりする。
「クラスのみんな……ね」

「いま王都に来ているのがナイショなら、パレードに期待するのはしょうがないわよね……でもなんで学院に竜を預けないのかしらね」

「目立つからじゃない? いま英雄様をひと目でも見ようって、学院の周囲には多くの人がいるみたいだし」
「なるほど、だからかー。いい情報が入って良かったでしょ、ミラ」

「えっ、ええ……」

「なんかテンション低いわね」

「パレードのことを気にしているのかしら。だったら、その日はわたしの家にこない? パレードといったら竜の背でやるんでしょ。わたしの店はそこに面しているから、二階から見ることができるわよ」

「すごーい。私も-。いいー?」
「いいよ-。きてきてー。三人で見よー」

「…………」
 いつの間にかミラもメンバーに入っていた。

 そしてチャミとトリンがパンを買うというので、ミラが対応すべきだが、どうにも疲れてしまった。
 かわりにレオンが手際よく会計処理をしたが、その様子を見て、ミラは頭痛に襲われた。

(気づきなさいよ、いまパンを詰めているのがその英雄様よ)

 ふたりは最後まで気づくことなく、店を出て行った。
 もちろんミラも一緒に。

「さあ、操竜場に行きましょう」
「お姿を見られるかしらね」

「……いないと思うわよ」
「「そんなの分からないじゃなーい!」」

 仲良くそう返すチャミとトリンに、ミラは息を吐くだけで何も言わなかった。
 そもそも、「いってらっしゃい」と店先から見送っているのが英雄様なのだから、いるわけがない。

「しょうがないわね。行きましょう……」

 無駄足としりつつ向かう先は操竜場。
 ミラの足はいつにも増して重かった。

               ○

 三人が店を出て行った。

「なるほど。有名になったといっても、顔が知られていないもんな」

 パン出しをしているときに自分の話題が出て驚いたが、ミラの友達は僕に気づく事は無かった。
 考えてみれば、竜迎えの儀のときくらいしか顔を見せていない。

 シャラザードを連れて戻ったときには観衆は阿鼻叫喚となっていたので、顔を覚えられなかったと思う。

「つまり、公に顔を出さない限りは安全なわけだ」

 ミラの友達が来てくれて助かった。
 あの会話を聞いて、必要以上に周囲を気にする必要がないことが分かった。

「パレードの時は顔を隠そうかな」

 卒業後は王都を離れる予定だが、大転移に対応するため、何度か戻って来なければならなくなりそうだ。

 できるだけ顔を知られないようにするために、その辺を注意しよう。

「……あっ、いらっしゃいませ」
 常連さんがやってきた。

「昼用にいくつかみつくろってくれるかな」
「ありがとうございます。でしたら、これなんかどうですか? 僕が考えたパンなんですけど」

 僕は英雄のことは一旦頭から追い払って、新しいパンの売り込みをはじめた。
 お客さんが喜んでパンを買ってくれるので、僕の頬は自然とほころんだ。

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