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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

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 ロブさんからかけられた言葉は、僕の心を打ちのめした。
 不意打ちというやつである。

「あの……その話、どこで知ったんですか?」
 女王陛下が大々的に発表したと言ったが、そんなものは言葉の綾で、早く広まる話でもない。

 立て札で告知するような話でもないし、まずは王宮の身近な所から話が流れたはずなのだ。

 王城で働く人や竜操者を通して広がり、そこから徐々に一般の人に話が流れていくはず。

「みんな噂しているからよ。どこと言われると困るな」

 商人仲間だけでなく、店の客までも知っているらしい。
 ずいぶんと広範囲かつ、広がりが早い。出所はどこだ?

「さすが、王都の民は噂好きですね。ちょっとびっくりです」
「地方の町から来た商人も知っていたぞ」

「まじですか!?」
 なんで地方も? 女王陛下は、一体どこまで周知させたのだろうか。

「そもそも気がついたら、町中に噂が広がっていたしな。回天が終了しただろ。最初その話が中心だったんだが、いつの間にか、みんなが英雄様の噂していたぞ」
「……そうですか」

 広める方法は限られているはずだけど、こうも浸透しているってことは、〈影〉を使ったな。
 酒場や人の集まるところで噂をしたのかもしれない。

「まあ、流れちまった噂は取り消せねえし、しばらくしたら落ちつくだろうさ」

「ええ……分かっているんですけど、こう、心臓にくるというか、ストレスになるというか……そうだ。学院の授業がないらしいので、しばらく一日アルバイトに入っていいですか?」

 女王陛下が言っていたが、二回生たちは先週から実戦投入されたらしい。
 卒業間近なので、学院の方も許可を出したらしい。学徒動員だ。

「おう、構わないぜ。大転移で大変みたいだな。学院の話は俺も聞いたぞ。卒業式には帰ってくるんだろ」

 竜操者が足らなくて、たった数ヶ月でも待てないというのだから、切羽詰まっている。


「そうみたいですね。……卒業式には帰って来るんですか?」
 それは聞いていなかった。

「おう。通常は卒業式の後、王城でパーティーだろ。だけど今回はパレードだってさ。告知板に張り出してあったぜ」

 告知板、つまり立て札だ。
 そこに貼り出してあるということは、当日多くの見物客が集まるはずだ。

「それは知らなかったです」
「おいおい、大丈夫か? パレードの目玉は英雄様だろ」
「……!?」

 なるほど。そういえばそうか。
 学院生にもかかわらず、大転移の脅威に立ち向かった僕ら二回生を演出することで、竜操者が健在であることをアピールする狙いだろう。

 同時に英雄を印象づけるわけか。
 女王陛下、パレードのことをわざと言わなかったな。

「いま二回生は陰月の路に行っているんですよね」
「そう聞いているけど、どうした?」

「いえ、行き違いになったのと、同級生たちとは卒業式まで会えないんだなと思ったもので」

「おまえさんは行かないのか?」

「ええ。シャラザードが怪我をしているので、当分は療養ですね」
「そっか。女王陛下を救出した代償だったな。まあ、それくらいで済んだなら良かったのかな」

「救出したって……えっと、どんな風に聞いています?」

「絶体絶命のピンチに駆けつけて、月魔獣と女王陛下の間に割り込んだんだろ。そして一歩も引かずに渡り合ったと。そのときの激戦で怪我をしたが、それをものともせずに向かっていって、ついには倒したと……そんな感じなんだよな。話を聞いたときはすげーと思ったもんだ」

 ここは「ぜんぜん違っています」と言えばいいのだろうか。
 なんだろ、明らかに作られたストーリーが入っている。

「あっ、えいゆうさまだ」
 家の方からクシーノがやってきた。

「おはよう。クシーノ。今日からまたアルバイトするから、よろしくね」
「よろしく! えいゆうのお兄ちゃん」

「うん。えいゆうはやめようね。心に響くんだ。こう、ズキッと」
 僕が胸を押さえると、クシーノは顔に「?」を浮かべながら首を傾げた。

「クシーノあんた早起きね……もう眠くてしょうがないわ。あっ、父さんおはよう」
「おう。ミラ。おまえが最後か」

「なに、母さんも起きているの? 学校の試験が近くて準備が間に合わな……なんで英雄様がいるのよ!?」

「や……やあ、ミラ。おはよう。だけど、英雄様は止めてくれるかな」
「お兄ちゃん、心にくるんだって」

「ちょっと! 間一髪で女王陛下の命を救ったんでしょ。それで不可能と言われていた月魔獣の支配種を倒したって……」

「間一髪……? それよりミラ、月魔獣の支配種のこと、知っているのか?」

「魔国の首都を壊滅させた、滅多に見ないほど巨大な月魔獣のことでしょ。王都には魔国からツテを頼ってやってきた人たちがいっぱいいるもの」

 僕が支配種を倒した時に、この辺のことは事実として発表があったらしい。
 魔国からの避難民から流されていた噂を追認した形になるが、それと同じ種を倒したことと同時に発表されたので、王都の民の動揺は少ないらしい。

 つまり、僕の噂が功を奏したというわけだ。

「すごいよね。お兄ちゃんの話をみんながしているんだよ」
「そうよ。町中の噂を独り占めしているっていうのに、あんたなんでウチにいるの?」

「アルバイトだけど」
「なんで救国の英雄がアルバイトしにくるのよ! わたしの同級生たちなんか、手が付けられないくらい興奮して話しているわよ」

 若い人ほど、僕の英雄譚に魅せられているらしい。
「ずっと陰月の路近くにある宿泊施設で横になっていたから、こんなことになっているとは、まったく知らなかったんだよ。それにいまシャラザードは怪我しているから、しばらく戦えないし」

「そうなの?」
「一ヶ月もすればほぼ治ると思うけど。だからしばらく、僕はここでアルバイトかな」

「えっ!? 本当にここで働くの? 英雄様が?」
「だから、それ止めて。結構マジで」

「お父さん、いいの?」
「いいもなにも、ここで働きたいってんだから、いいんじゃないか?」

「王子、王女殿下よりも人気高いのよ」
「いいじゃん、お姉ちゃん。またお兄ちゃんと一緒なんだよ」

「でも……クラスの友達が知ったら、みんな卒倒するわ」
 ぶつぶつと納得いかないミラをおいて、僕はクシーノとハイタッチをした。

「クシーノ。よろしくな」
「うん」


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