挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第6章 大転移-竜魔編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

448/655

447

 回天の終了とともに大量降下した月魔獣はというと、竜操者たちが総出で処理している。
 そんな中、とある竜操者は違和感を感じた。

 月魔獣との戦いは命がけだった。
 その甲斐あって、村や町の防衛を立派に果たした。

 なのに人々の笑顔が戻ってこないのだ。
 感謝こそされるが、人々の顔は曇ったまま。

 不安そうなを顔をじっと向けてくる者もいる。
 討伐成功の報告のおり、このことを上司に伝えた。

 上司もまた不思議に思うものの、同じような報告が他からも上がって来ていたため、うやむやにしなかった。

 領主に民の様子を伝え、同じく操竜会本部にも報告することにした。

 困ったのは領主である。
 たしかに報告の通りで、住民の不安はまったく払拭されていない。

 人をやって詳しく調べさせたところ、次のことが分かった。

 回天の終わりは、大転移の始まり。
 大転移の始まりは、長く苦しい月魔獣との戦いの始まりでもある。

 そんな言葉が巷間を飛び交っていた。

 国すら滅ぶと言われる大転移である。
 どこにいようとその影響からは逃れらず、今ある生活は確実に悪くなる。

 最悪、村や町を捨てなくてはならなくなるかもしれない。
 不安が、いつ現実となるのか。

 自分たちはいつまで耐えればいいのか。
 多くの民が、この先の生活がどうなるのか、不安で押しつぶされそうになっていたのだ。

「……なるほど。話は分かりました。陛下にご報告致します」

 ついに王宮にまでその話は届いた。
 民が抱く漠然とした不安。

 文官たちにとって、これは頭の痛い問題である。

 大転移と言っても、竜国の被害はそれほどでもない。
 北方の町が軒並みやられてしまうため、彼らの住居を移すため、町造りも始まっている。

 普段から税金の高い竜国にあって、増税は避けられない。
 北方からの税収が無くなること、移民にかける費用の捻出が必要となることは、財政にとって大変厳しいものとなる。

 竜国の財政は逼迫するだろう。だがそれだけで国が傾くことはない。
 問題はいつだって「人」である。

 今回大打撃を受ける魔国は、死にものぐるいで生きる術を探るであろう。
 商国もまた、竜国の流通を狙って仕掛けてくる。

 住民が不安がれば、そこにつけ込んでくることは、容易に想像できる。

 月魔獣の脅威に対して竜操者が出払ってしまう今、魔国の軍事的脅威と、商国の経済的脅威を同時に抱えるのは得策ではない。

「民の不安を他にそらす必要があるわね」

 それが女王の出した結論であった。
 文官たちも大いに賛成である。

 問題はどうやってそらすかである。
 漠然とした不安であるならば、いくら上から「大丈夫」と言ったところで信じようとしない。

「せっかく属性竜が並び揃っているのですから、それを使ったらいかがでしょう」
「そうですね。全面に押し出して、民の目をそこに釘付けにしてしまいましょう」

 文官たちの言葉に女王は、「それはいい案ね」と頷いた。

 ではイケニ……げふん、げふん。適任者はだれがいいだろうかと考えて、アンネラはすぐに外された。
 竜を得たばかりの彼女には、荷が重すぎる。

 国の精神的支柱となっている女王はそのままとして、ソウランかレオンの両名もしくはどちらかが相応しい。
 ではどちらがいいだろうか。

「やはり……レオンかしら」

 ソウランは、知名度と人気で言えば圧倒的である。
 ゆえに、今更名前をだしたところで影響力がどれだけ増すか未知数。

 今回必要なのは、新しい英雄なのである。

 それならば、この一年で話題に事欠かなかったレオンの方がインパクトが大きい。

「国を挙げてレオンの英雄化政策を推進させなさい!」
「「「ははぁ! 必ずや!」」」

 というわけで、本人が寝ているのをいいことに、レオンが英雄に祭り上げられることになってしまった。

               ○

「僕が寝ている半月の間に……そんなことが」

「効果はてきめんだったわね。たとえ月魔獣の脅威にさらされても、英雄が来てくれると分かれば耐えられるわ。今までの成果を大々的に宣伝したから、評価はうなぎ登り。困ったことがあればシャラザードが来て助けてくれる。多くの民はそう思っているの」

「あの……」

「多少……話は盛ったけれども、英雄には必要なこと。今回は文官たちが良い仕事をしてくれたわね」

「あのですね、女王陛下……」

「レオンが怪我をしていた間だけど、シャラザードが食べたシャナ牛の代金。あれは国で持つことが決まったわ。数日前に三十頭分の申請が来ていたけど、気にしなくていいわよ。怪我が治るまでの間も責任持つから、いまは十分休ませなさい」

「………………」

 なんて手回しのいい。
 僕を起こさずそっとしておいた裏で、世論を動かしていたようだ。

 シャラザードの怪我も女王陛下を助けるときに支配種と戦ってできたものとして、治療に長けた者を宿泊施設に派遣していたらしい。

 餌を食べる頻度と傷の治りをじっくり観察して、どのくらいの期間休めばいいのかも、算出してあるらしい。

「そういうわけで、しばらくは英雄として過ごしなさい、レオン」

「……………………はい」

 断っても、もう既成事実化されている。
 僕は泣く泣く頷いた。



 失意のままシャラザードのところへ戻り、竜務員に話を聞いてみた。

「先ほど三頭のシャナ牛を平らげまして、いまは寝ております」
「ありがとうございます。変化はなかったですか?」

「羽の状態を気にされておりました。人を近寄らせないようなので、眺めるだけですが、怪我の状態が気になるようです」

 本来、身体の清掃などは竜務員が行うのだが、怪我が治るまでは僕以外を近づけたくないらしい。
 気持ちは分かるので、餌をやるとき以外は近寄らないよう、お願いしておいた。

「餌の件を含めて、そんな感じでお願いします」
「はい。英雄様。かしこまりました」

「――うっ!」

 英雄と呼ばれると、胸が地味に痛む。
 顔を隠して生活しようか。

 女王陛下との謁見を終えたら、やたらとストレスが溜まってしまった。
 ちょうどいい時間だし、今からパン屋のアルバイトに行くことにした。

 久々のパン屋だ。
 僕の心の故郷。
 今日はもう、ずっとパンを焼いて、嫌なことを忘れよう。

「よう、英雄様じゃねえか。元気だったか?」
「へぶぅ!」

『ふわふわブロワール』に着いた途端、ロブさんにカウンターパンチを貰った。

「どうしたんだ、英雄様? 胸なんか押さえてうずくまって……」


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ