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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 唐突に始まった回天は、各国に多大な傷跡を残して、やはり唐突に終わった。

 回天の終了とともに、竜国の各地で月魔獣の大量降下が観測された。
 開始のときと同じく、多数の大型種も落下した。

 前回と違うのは、竜国に準備ができていたことだろう。
 月魔獣の大型種には中型竜をあて、小型竜は一丸となって他の月魔獣を狩った。

 場所によっては、数百という月魔獣の降下が見られたが、各町に配備された竜操者たちがよく連携し、落ちついて事にあたった。

 もちろん多数の被害が出たし、竜操者の中にも帰らぬ人となったのもいた。
 気づくのが遅れて壊滅した村も出た。

 それでも人々は月魔獣の恐怖と戦いながらも現実を直視し、決して悲観することなく耐えた。
 竜操者が必ず助けに来てくれると信じた。

 回天による被害が減少し、ほっとしたのも束の間。
 人々は思い出す。

 ――これで大転移がはじまった

 そう、回天はいまだ大転移までの前哨戦プレリュードに過ぎなかったことに思い至ったのだ。



「各地の被害状況がまとまりました」
「そう。次は分かっているわね」

「はい。復旧に向けて、必要なものを算出中です」
「それでいいわ」

 王都周辺にも多数の月魔獣が降下した。
 常駐していた竜操者の働きで、王都内へ月魔獣が侵入する事態は防ぐことができた。

 当初、女王不在ということで指示系統に混乱が生じたが、竜操者たちのやることはひとつ。

 隊をいくつかに分け、周辺の巡回と月魔獣の殲滅に邁進まいしんした。

 ほどなく女王が戻ってくると、大規模な反転攻勢に移り、速やかに周辺の安定に寄与することとなった。

 翌日、翌々日には七大都市からの報告も入るようになり、回天中に配備していた竜操者の働きによって、月魔獣の殲滅完了、もしくは対処中であることが分かった。

「他国の情報はまだ入らないのかしら」
「はい。遊ばせている竜操者はおりませんので」

 戦闘に向かない竜操者も多数抱えているものの、まずは自国民の安全。
 素早く連絡を取るには、竜に勝るものはない。

 どの竜も町や村を行き来している状況で、他国へ長期にわたって留守にさせるわけにはいかなかった。

 だがそれももうすぐ終わる。
 月魔獣の降下が一段落したら、周辺国へ目を向けることになる。

 大転移がはじまった今、竜国だけで対処できる時代は終わりを迎えていた。

 そして懸案の魔国首都の問題もある。

 回天がはじまった当初から、魔国首都イヴリールは支配種の縄張りとなっており、今をもってしても、情報が入ってこない。

 他国のことでありまた、支配種と分かったのが遅れたこともあるが、大転移と合わせて対処しなければならなくなった。

「それで、あっちはどうしたのかしら」
「あっちといいますと……陰月の路にある宿泊施設で寝ている彼ですか?」

「そう。目を覚ましたという報告は?」
「いえ……まだありません」

「そう。どうしたものかしらね」

 女王は頬に手をあて、悩ましげに首を傾げた。

               ○

 回天が終わったその日。
 宿泊施設を警備していたオムロックは、巨大な竜が二頭やってくるのを見て、腰を抜かしそうになった。

 竜操者がみな出払ってしまったことで、ここには非戦闘員しかいなかった。

 警備といっても、人はこんな所に来たりしない。
 守ると言っても形式だけのことである。

 そこへ地響きとともにやってきたのは、黒と赤の巨大な竜だった。

「な、なんで……」

「すみませーん。飛べるほど回復していなくて」
 竜の背から少女の声が聞こえてきた。

 その言葉にオムロックは二頭の竜を見た。
 赤竜の全身は黒いすすがまだらに付着していて大変汚れていた。

 巨大なたき火の中に突っ込んで暴れたのだろうかと考えて止めた。
 冗談ではないが、まさに火にあぶられたような汚れと消耗具合だったのだ。

 そして黒い竜はというと、全身から血を流していた。
 羽は見るも無惨にボロボロになっている。

 まるで刃物の海を泳いだかのような有り様だった。
 この二頭の竜ことは、オムロックも知っていた。

 ここに勤めて長いため、王都まで出かけることはなくても噂だけは耳に入る。

 昨年の竜迎えの儀で王都の民を恐慌に陥れ、その後の一年間で暴君の名をほしいままにした黒竜シャラザード。

 そしてもう一頭は、黒竜に一歩も引かずに相争い、竜迎えの儀を延期させた張本人、赤竜ターヴェリ。

 両者とも竜操者に関わる仕事をしているならば、だれでも知っている有名人だ。
 それがなぜこんなボロボロになって、歩いてやってくるのか。

「そういえば巨大な閃光があったとか、轟音が届いたとか見張りが言っていたけど……」

 見張りがあまりに騒ぐので、竜操者たちが確認に出ようとしたところで回天が終わった。
 直後から月魔獣の降下が確認されたので、ここにいた竜操者たちも出撃することになり、閃光の調査は後回しにされた。

 竜操者たちが出ていった後も閃光と爆音が轟いたので、何かあるとオムロックは思っていたが、その方角からこの二頭がやってきたことを考え合わせれば……。

 オムロックがゴクリと喉をならしたとき、少女が続けた。

「それで申し訳ないんですけど、シャナ牛がいたら欲しいんです。もちろんお代はあとでお支払いします」

 ここは竜操者たちの宿泊施設である。
 竜と竜操者を常駐させるためのものは何でも揃っている。

 もともとここは町を改造して作ったので、建物も竜舎もシャナ牛の放牧場所にも事欠かない。

「それはいいけど……」
 何があったんだ? そう喉元まで出かかったものの、二頭のあまりの姿に口を噤んでしまった。
 世の中には聞かない方が良いこともある。

「ありがとうございます。食事をしないと、人竜一体が解けないみたいなので」
「人竜……なんだって?」

「いえ、それより、シャナ牛のいる場所はどっちですか?」
 オムロックは牧場の方を指差す。

「ありがとうございます。行ってきます」

 二頭が歩いて行く。

 飛べなくなるほど消耗するとは、本当に何があったのか。
 身震いするオムロックであった。

 その後、オムロックは二つのことで驚くことになる。

 ひとつは、シャナ牛が八頭消えたことである。
 四頭ずつ、その場でぺろりと平らげたらしい。

「そんな食欲、前代未聞だな、こりゃ」
 それはいい。
 竜は傷ついた身体を癒やすため、大量の食事を摂ることは知られていた。

 もうひとつは、月魔獣殲滅のため出ていた竜操者たちが戻ってきたときにあった。

「途中で、超巨大な月魔獣の死骸を見つけた」
「どんなんです?」

「まるで城ひとつもあるくらい巨大なやつだ。四肢は氷で固められ、中央部からは得体の知れない湯気が上がっていた。その周辺の大地はもう……元の姿が想像できないほど破壊され尽くされていた」

「一体何があったのか……あれほどの被害、俺ははじめてみたぞ」
 竜操者が口々にいう様に、オムロックはボロボロになってやってきた二頭の竜を思い出した。

 竜操者が出ていった後でおこった話をし、やって来た二人は寝ていることを告げると、みな一様に身体を震わせていた。

 翌日、先に目を覚ました少女が去って行き、宿泊施設には黒竜と青年だけが残された。

「たしか……レオンとか言ったな」
 オムロックは記憶をたどり、竜操者の名前を思い出した。

 黒竜シャラザードと竜操者レオンはいまだ眠っている。
 目を覚ますまでそっとしておこう。それが暗黙の了解となった。

 そうでなくても回天の終了で宿泊施設は慌ただしいのである。

 ひっそりとした室内で、レオンは眠り続ける。


これにて「回天編」終了です。
大転移編は残り3章。
プロット的には、広げた風呂敷をたたむ段階になってきました。

シャラザードとターヴェリが戦うシーンは昨年の9月末頃に一度書いていたりします。
プロットを残すだけでなく、そういうシーンを先に書いておくと、進む先が明確になるため、里程標かわりにちょうどよかったりするのです。

ただし、物語ですから少しずつずれてきます。当時は支配種との連戦を想定していなかったので、ふたり(?)だけで陰月の路で戦っていました。
舌戦→遠距離戦→近接戦→必殺技→最後の一撃 みたいな流れで決着になっていました。もちろんその文章は使っていません。すべて新規に書き直しました。

これから先も「絶対にこれだけは書かなきゃ」というシーンがありますが、そこに向かうまでの流れによって、少しずつ変容していくこともあると思います。
そんなこんなで完結に向けての妄想が止まりません。(謎)

わたしの場合、物語が後半になればなるほど、どんどん先を書きたくなってくる習性がありまして、はやく完結まで書き上げたい気持ちと、ここで焦ってはダメだ、もっと丁寧にという気持ちがせめぎ合って、綱引きをしはじめます。
ちょうどよいバランスを模索しながら書くことになります。
わたしはこれを「ヤマアラシのジレンマ」と読んでいます。

明日から新章「竜魔編」がスタートします。
物語を登山にたとえると、6合目を終えて7合目に達した頃でしょうか。

ここで書くことではないかもしれませんが、昨年末あたりから非常に忙しく、自分の時間がほとんど取れない日が続いていました。(けど連載の時間は確保しましたが)
最近ようやく時間の余裕ができてきました。もう小説書きまくりです。(笑
明日から感想の返信も再開していこうかと思います。なるべくさかのぼりながら。

では、明日から新章です。引き続きよろしくお願いします。
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