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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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「シャラザード、おまえフラフラじゃないか」
『そんなことはない』

「いやあるだろ」
 羽はズタズタに裂け、これでどうして飛べるのか不思議なほどだ。

 それだけターヴェリの属性技が凄かったといえる。
 身体にも無数の切り傷がついているが、深さはそれほどでもない。

 羽の傷が酷いのは、あの嵐の渦から脱出するとき、シャラザードの身体が回転していたのと、外の大風に跳ね返されないように羽を強く広げていたのが原因だろう。

 まったく無茶をする。

 ただし、そうでもしないとシャラザードと僕は、ずっと回転したまま地面に激突していたから、あれが最善の選択だったとは思うが。

『主よ、いくぞ』

 小型の飛竜が舞っている。
 その先には月魔獣の支配種がいる。

 あまりに巨大過ぎて現実味がないが、これまで僕らが倒してきた月魔獣と同じ。
 違うのは、放置すると手に負えなくなる所だ。

「よし、シャラザード。僕も腹をくくった。存分に行こう!」
『よっしゃぁ!』

 傷ついた翼で羽ばたく。シャラザードの身体がグンッと加速した。
 続けて二度三度。どんどんと速度が上がり、これ以上速度をあげるのは無理だろうと思ったとき、視界が回転した。

 これは先ほどと同じ技だ。
 シャラザードが回転する向きとは逆に、外では風の大渦ができている。

 前回は何が何だか分からなかったが、今なら分かる。

 外の大風によって、僕らがいる中心部の空気が薄い。
 限界高度まで上がったときのように息がしづらくなっている。

 それゆえ、シャラザードの身体も楽に回転しているのだろう。
 もはや上下は判別できないほど早く回転している。

『がぁあああああ!』

 溜め込んだ雷をシャラザードはずっと保持している。
 たいした精神力だ。

 シャラザードは翼をたたみ、より空気抵抗を受けない姿になった。
 進む速度と回転する速度があいまって、とてつもないことが起きている感覚がある。

 頭上にできた雷玉はその大きさを増し、光り輝く。
 僕が目を開けていられなくなったとき、もの凄い衝撃がきた。

 シャラザードが何かとぶつかったのだ。

 何と? もちろん月魔獣だ。そうなるように進路を取ったのだかそうに決まっている。
 だったら今やることはひとつ。

「シャラザード、雷玉を放て!」

 目を瞑ったままにもかかわらず、激しい光が視界を埋め尽くし、僕の意識は途絶えた。

               ○

 まるで一条の光のように月魔獣に向かっていくシャラザードの姿を見て、ソウランは眉根を寄せた。
 果たしてあんな速度でぶつかって無事でいられるのかと心配した。

 シャラザードは翼をたたみ、激しく回転している。
 竜ではなく黒い塊にしかみえない。

 雷玉が光っている方が頭というくらいしか分からない。
 ソウランが見守る中、光の尾をなびかせながら、シャラザードは月魔獣に衝突した。

 どのくらいの衝撃があっただろうか。空気が震えるのが分かった。
 城ほどもある月魔獣の身体が宙に浮き、ゆっくりと仰向けに倒れていった。

 今の衝撃で、シャラザードの身体がバラバラに崩壊してもおかしくない。
 ソウランはすぐに飛んでいきたい衝動をかろうじて押さえた。

 直後、激しい閃光が生じ、目を開けていられないほどの光が辺りに広がった。
 真昼がやってきた。いやそれどころではない。

 太陽が落ちて来たかと錯覚するほどであった。

「どうなった!?」
 目が慣れるより早くソウランは月魔獣を見た。
 視界全体がまだあかね色に染まっている。

 色調が回復せず、視界全体が赤いままだ。
 その中で、シャラザードの巨体が放り投げられた人形のように弧を描き、地面に投げ出されるのを見た。

「まだよ! 支配種は動いているわ」
 女王の声にソウランはハッとする。仰向けになり、天を仰いでいるものの、起き上がろうと手足を動かし始めた。

「行きます!」
「妾も行こう」

「陛下っ!」
「やらねばならんときがある。分かるな」

「でしたら先導します」
 女王を連れて向かった先で、ソウランは見た。

 月魔獣の胸にヒビが走っている。
 ヒビの中心部はえぐれ、穿った跡があった。

「あそこにシャラザードが突進したのでしょうね」
 青竜の炎でも穿てなかった外殻に穴が開いている。

 いったいどれほどの力がそこに集中したのか。

「そうであろうな。あの中で雷玉を破裂させたのであろう。見よ、穿たれた穴よりもその中の方が被害が大きい」

 あらためて見ると、女王の言った通りだった。
 外殻がいかくに空いた穴よりも、中で抉れている部分の方が、被害がはるかに大きくなっている。

「これが人竜一体の技……」

 傍で見たから分かる。
 ターヴェリの力を受けたシャラザードが身体を使って月魔獣に穴を空ける。

 そのとき、至近距離から雷玉を放ったわけだ。

「この機会、逃すでないぞ。白姫しろひめ氷牢ひょうろうだ。手足を縛れ!」
 女王は自らの愛竜に命じ、属性技を使用させた。

 白姫の口から吐き出された氷のブレスが月魔獣の手足に絡みつく。

 ブレスを吐き付けた箇所からすぐに凍っていく。
 その有り様をソウランは眺め、女王の意図をすぐに察した。

 白姫が月魔獣の動きを止めているうちにやれることがある。
「止めを刺します!」

 月魔獣の手足が厚い氷に覆われた……が、月魔獣が動くたびに氷がひび割れ、それを白姫が修復していく。

 一進一退の攻防。白竜のブレスは足止めにしかならない。
 それを知ったソウランは、すぐさま穿たれた穴に「消えない炎」を流し込んだ。

「間に合うか」
 ジュウジュウと音を立てて炎が月魔獣の体内に流し込まれていく。

 以前は表面で弾かれた炎が、今回は最初から中まで届く。

 暴れる月魔獣に手足の氷が悲鳴をあげた頃、ようやく月魔獣の動きが緩慢になり……やがて動かなくなった。

「……ふう」
 ソウランは額の汗をぬぐう。

月晶石つきしょうせきを破壊したようね」
「間に合いました」

 ギリギリだった。
 炎があと少しでも届くのが遅ければ、氷から脱した月魔獣が起き上がってしまっただろう。

 月晶石が無事ならば、外殻はふさがる。
 そうなった場合、外殻の上から攻撃する術はない。敗北である。

「属性竜四体でなんとかか……これは大変な仕事だわ」
「そうですね。シャラザードとターヴェリがよくやってくれました」

「そういえば、シャラザードはどうなったかしら」
「……ッ! そうです!」

 ターヴェリを見れば、空中ではなく大地に両足を投げ出している。
 もともととダメージもあったことで、限界だったようだ。

 一方、シャラザードはというと。

「たしかこっちへ飛ばされましたが……」

 向かった先にシャラザードはいた。
 仰向けになっているが、ちゃんと原型を留めている。

 あの回転と速度で月魔獣にぶつかったことを考えれば、奇跡に近い。

「息はあるかしら」
 女王が言うと、ソウランは答えに窮した。シャラザードが動いてないのだ。


 前方へ回り込むと、シャラザードの顔が見えた。

 口を大きく開き、舌がだらんと垂れ下がっている。
 白目をむいて気絶しているようだ。

「うむ。無事であるようだな」
「……そうですね。でも無事?」

 まあ、生きていれば無事といえなくもない。
 そうソウランは自分を納得させ、もう一度シャラザードを見た。

 仰向けになり、両手足を投げ出した姿は、ソウランが昔飼っていた犬を思い起こさせた。

「ふふっ……ふふふふ」
 ツボに入ったらしく、ソウランは声を出して笑った。

 笑うソウランの口元、前歯が一本欠けていた。


次話で本章が終了します。
エピローグです。
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