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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 目を覚ましたアンネラは、キョロキョロと周囲に目を走らせる。

「ターヴェリさん、本当に何が、えっ? あれって、月魔獣ですか? ちょっ、ちょっと……巨大すぎますよ。ターヴェリさん」

『煩いね。少し黙っときな』
「でもですね、雷がやってきてビリビリした後、何がなんだか……この状況を説明してほしいんですけど」

『あそこで飛んでいるやつらがいるだろ』
「はい。女王陛下と一緒に来た護衛さんたちですよね」

『いま何をやっているか分かるかい?』
「えっと……月魔獣の周囲を回ったり、近寄ったり離れたりしていますね。何をやっているんですか?」

『やっぱり分からないのかい。あれは戦っているんだよ。勝ち目がないから奴らなりの戦い方でね。ああして時間稼ぎをしているわけさ。あれは上手いよ。アタシの部下に欲しいくらいさ』

「女王陛下の護衛さんたちですから、技量は高いと思いますけど、そんなにですか?」

『ああ。ちゃんと、竜も人も何をすべきか分かっている。あいつらが時間を稼いでくれている間に、アタシらは準備をするのさ』

「準備というと?」

『今からアタシとアンタでゾックを倒すんだ』

「ターヴェリさん。ゾックではなく、いまは月魔獣と言うんです……って、ええええ?」

『呼び名なんて細かいこたぁいいんだよ。アンタも坊やとおんなじこと言うね』

「細かくないですけど、ターヴェリさんがいいと言うならいいですけど……そうじゃなく、あれを倒すんですか?」

『そうだよ。さっきの人竜一体の技。あれを使って大嵐渦だいらんかを撃つよ』

「巨大な月魔獣をぐるぐる回転させるんですか?」
『そうじゃない。撃つのはあの坊やに向かってさ』

「えええぇ――!? もう意味が分からないことだらけですってば。なんでシャラザードさんに撃つんですか」

『そうでもしなきゃ、支配種を倒せないんだよ。硬い外殻を打ち破ってダメージを与える方法が他にないんだ。坊やも了承しているからあとはやるだけ。それにアタシはそれで支配種を倒したことがある。勝算はあるんだ』

「倒したことあるんですか。すごいですね」
『ただしそのときは、青竜ヴィンフィンも殺したんだがね』

「……えっ?」

『人竜一体は、アタシとヴィンフィンで開発したのさ。魂の研究のおまけだね。おこぼれと言っていい。……まあそれはいい。人竜一体は協力技と言っただろ。坊やの雷玉にアタシの大嵐渦を撃ったらどうなると思う?』

「ぶつかりあって、反発すると思いますけど」

『そう。互いの属性技をぶつけ合えば、威力が同じなら対消滅するし、違えばその差分が襲いかかってくるだろうさ。だけどね、互いの技を乗せる方法をついに見つけたんだよ』

「それが人竜一体ですか?」

『それを使えば可能になるって話だね。だからアタシはヴィンフィンに迷いなく撃った。それは成功してゾックは死に……ヴィンフィンも逝った』

「………………」

『あのときはあれしか方法がなかった。手が付けられなくなる前に支配種を倒さなきゃ、世界が滅んでいたからね』

「ターヴェリさんが選択したんですね」

『そうだよ。ヴィンフィンは当代最強の竜だった。そいつがアタシに後を託して逝っちまった。その少し前だね。坊やが生まれたのは』

「ええっと……シャラザードさんってもしかして結構若いんですか?」

『属性竜は生まれて十年で幼竜と呼べるようになる。そこから二十年間くらいは幼竜のままさ。坊やが主を選んだのはちょうどそのくらいかね。幼竜を脱して若竜になる直前くらいだったはずだ』

「そ、そうなんですか!? 人間だとまだ未成年だったりします? それってあり得ることなんですか」
『さあて。人ならばまだ野原をかけずり回って、虫でも捕っている頃だろうね』

「それ、ものすごく子供ですよ。シャラザードさん、本当に若いんですね」

『坊やだからね。もっとゆっくり成長しても良かったはずだった。だけど、時代が許さなかったんだよ。坊やは生まれたときから、世界の希望を運命づけられていた。何も知らないうちからずっと期待され続けていたのさ』

「そ、それは……可哀想すぎますよ」

『坊やは分かっていたんじゃないかね。自分ができないって言えば、もうできる竜はいなくなるってことを。だからいつも自信満々で、傲岸不遜で、傍若無人で、臆病な奴だったのさ。大人の竜に守られてまだまだぬくぬく育っていくはずが、主を求めて寝床を出て行ったんだからね。もっともそのおかげで命が永らえたんだが』

 ターヴェリが語った、シャラザードの壮絶な過去。
 アンネラは、ターヴェリと互角に戦うシャラザードの姿からは、まったく想像できなかった。

「でもシャラザードさんは身体も大きくて、すごく強いですよね」

『身体ならアタシの方が大きいさ。アタシが逝ってからはそれほど時間は残されちゃいなかったと思うね。数年……あったかどうなのか』

「ということは、シャラザードさんはまだ子供?」
『……に限りなく近いだろうね』

 衝撃的な事実にアンネラの頭はぐらんぐらん揺れた。
 この一年間で伝え聞いたシャラザードの業績。

 他の竜はなし得なかった戦いを難なくこなしたと思っていたのだが。

「わたし、シャラザードさんを尊敬していたんですよ。あ、あれがまだ子供だったなんて……」
 落ち込むアンネラに、ターヴェリの叱責が飛ぶ。

『しっかりおし! ホラ見な、向こうの準備ができたようだよ』
「何をするんです?」

『今から坊やがゾックめがけて突っ込むよ。アタシは大嵐渦の維持にかかりきりになるから、アンタが指示を出しな』

「どうすればいいんです?」
『坊やがトップスピードになったら五つ数えるんだ。いいね。できるだろ』

「はい。がんばります!」

『よし始めるよ』
 ターヴェリが咆哮し、少し遅れてシャラザードの咆哮が返ってきた。

 アンネラはシャラザードの動きをじっと注視し、トップスピードになるのを見極める。そして……。

「ターヴェリさん、五つ数えました」

『よしきた』

 ターヴェリが大嵐渦を放ち、シャラザードの身体がゆっくりと回転をはじめた。


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