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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 状況は最悪だった。
 よりによって、こんなときに支配種が現れなくてもいいのにと心底思ってしまった。

 僕がそんなことを考えるよりも早く、ソウラン操者が女王陛下の前に進み出た。
 護衛たちもそれにならう。

 白竜を背にかばうようにして、青竜と護衛の飛竜が進み出た感じだ。

 彼らは支配種と戦うつもりだ。
 本来ならば女王陛下に付き従って、護衛もソウラン操者も王都に戻るはずだった。

 ではいまはどうか。
 女王陛下を陰月の路から単独で戻す?
 それとも見なかったことにして、護衛ともどもここを出発する?

 たとえ女王陛下が月魔獣と戦わずに王都に戻ったとして、非難する者はいないだろう。
 だが、護衛たちはどうだろうか。

「女王陛下を守る必要があるから自分たちは戦わない」

 それでは何のための竜操者か。
 倒す力があり、その時が来たならば、月魔獣と戦わねばならない。
 それゆえの義務である。

 では女王陛下をひとりで王都に行かせるのか。
 陰月の路から王都までは遠い。
 護衛はそれを許すはずがない。

 彼らはそれらを瞬時に判断して、こう結論をくだしたのだと思う。

 女王陛下を守りながら支配種と戦う。
 自分たちが倒れた後ならば、女王陛下は王都へ戻ることができると。

 ゆえに、ソウラン操者も護衛たちも女王陛下の前に出た。
 女王陛下を生かすための捨て石となるために。

「シャラザード、行けるか。怪我はどうだ?」
『無論だ。こんなもの、かすり傷よ』

 そう言うが、シャラザードの羽はズタズタに切り裂かれている。
 出血がひどく、無事な箇所がないくらいだ。

 飛べるかもしれないが、十全に戦えるとはとうてい思えない。

 怪我は僕も同じ。
 身体のいたる所から出血している。

 戦うどころか、気合いをいれていないと、気絶してしまいそうだ。

 ソウラン操者が支配種に近寄った。
「先制するぞ、『豪炎ごうえん』!」

 青竜が吐いた炎は大地をなめ尽くし、周辺一帯を灼熱の大地へと変えていく。
 ものすごい勢いで上昇気流が発生し、支配種の身体が陽炎のごとく揺れ動く。

 灼熱の大地は、触れた手が溶けそうなほどだ。
 その上を支配種が悠然とやってきた。
 熱をまったく感じていないのか、気にする様子はない。

 熱でぐずぐずに溶けた大地を一歩一歩踏みしめるようにやってきた。

「……大きい」

 支配種の全長は青竜の倍以上あった。
 横幅に至ってはどれだけあるのか。

 頭部はいびつな形をしていた。首はあまりに短く、埋もれて見えない。
 両肩は大きく膨れあがり、こぶのようになっている。

 二足歩行していて、両手はムチのようにも一本の鉤爪のようにも見える。

 かなり離れているここまで感じられるほどの熱量にもかかわらず、支配種の足は止まらない。

 ソウラン操者は上空高く舞い上がると、今度は収束させた一本の炎を吐き出させた。
 青竜の技のひとつ、『炎放射えんほうしゃ』だ。

「あれは何でも溶かす消えない炎か。あれならいくら支配種といえども……』
『無理だ。支配種の外殻がいかくはあの程度では破れん』

 シャラザードが話す月魔獣の外殻。
 僕の魔道で通常の月魔獣が倒せないのも、その固い殻を破って中にまで攻撃を届かせられないからである。

 兵を何人、何十人集めても、ただの月魔獣が倒せない理由がそこにある。
 月魔獣は、一定以下の攻撃を完全に無効化する。

 月魔獣の大型種になると、中型竜の攻撃ですらやっと届くといった有様になる。

 事実、青竜の吐いた『何でも溶かす炎』は、片手で防がれている。

「シャラザード、雷玉ならどうだ?」
『無理だな。そのまま打ってもあれと同じよ』

『炎放射』を吐き終えたが、支配種の腕はそのまま。
 効いているようには見えない。

 支配種が丸くなった。
「……ん?」

 やはり効いていたのか?
 だれもがそう思ったとき、支配種の両肩から岩の棘が射出された。

 棘のいくつかは青竜に突き刺さり、身体を突き抜けていく。

 護衛の竜が四体、棘を受けて落下した。
 女王陛下が白竜と空の散歩に出かけるとき、およそ百から二百騎近い竜が隊列を組む。

 いまは回天の最中である。各地へ赴いているため、ここに付き従っているのは四十騎ほどだが、それはソウラン操者の存在が大きいからだ。

 彼が護衛に付いていれば、大概のことは何とかなると思われている。
 そのソウラン操者の青竜が、棘を受けて後方に下がってきた。

「陛下、ここは我々が」
「我々が戦っている間に、この場をお離れください!」

 護衛たちが支配種に向かっていく。
 彼らは小型の飛竜乗りだ。

 どんな奇跡がおきようとも、支配種に攻撃を届かせることはできない。

 だがフラフラになった青竜に戦闘継続は難しく、僕やアンネラはいまだ地上から飛び立てない。

「シャラザード、どうすれば支配種を倒せるんだ? おまえたしか倒したことがあるって言っただろ」

『我が知る限り、過去に倒された支配種は二体のみ。一体はヴィンフィンとそこのババアの人竜一体技だ。我は見たことない』

「一体は、ターヴェリが倒したのか」

『人竜一体技と言ったであろう。もともとあれは協力技なのだ。やり方はババアが知っている。もう一体はたしかに我が倒したが、今の状態では不可能であるし、ここではできん。我も主もただ死ぬだけだ』

「できないのか?」
『無理だ。何もかもが足りん』

「だったら、ターヴェリが知っている人竜一体技ならば倒せるんだな」

『できるかもしれん。そもそも支配種は降下した時に倒さねば手が付けられなくなる。時を経た支配種ほどやっかいなのだ』

 時間が経てば経つほど、周囲を月魔獣で固められるし、本体も強化されるらしい。
 一番倒せる機会が大きいのが、今のような降下した直後だという。

 だとするならば、この機会を逃さない方がいい。
「よし、シャラザード。絶対に倒すぞ」

『あい分かった。待っておれ、いまババアを起こす』
 シャラザードは気絶しているターヴェリの元へ向かい、その頭を蹴っ飛ばした。

『ババア、起きろ! 起きるのだ!』
 だがターヴェリはピクリともしない。

 回転中だったので見ていないが、ターヴェリに雷玉は直撃しなかったはず。
 掠ったとか、その程度だったはずだ。

 それでも、シャラザードの雷は大ダメージだったようだ。
『起きんか、コラッ!』

 シャラザードの身体がバチバチと帯電した。
 その状態でターヴェリの頭を触ったものだから、直後にバッチーンと爆ぜる音がした。

『な、なんだい、何が起こったんだい!?』
『おい、ババア。まだ寝ぼけてるのか?』

『坊やじゃないか……ん? なぜアタシが地面に寝ているんだい』
『ババアだから呆けるのはしょうがないが、アレを見ろ。支配種が出やがったぞ』

『……ゾックじゃないか。なんだって急に!?』
『お主が寝てたからに決まっておろうがっ! それよりもあれだ。支配種を倒した技、使えるのか?』

『アタシの身体はどうしちゃったんだい。ピリピリと痺れて、うまく動きゃしない』
『我の雷を食らったからに決まっておろうが。それよりも倒せるのか、倒せないのか』

『支配種に届かせるってことかい。身体が回復すればできるようになるさ……ただあれだ。アンタが死ぬよ』

『ぬかせ。我はそこまでヤワじゃないわ。それよりできるんだな。だったらやり方を教えろ』

『難しいことじゃない。アンタがさっき受けたやつ。アタシがゾックに向けてアレを放つから、あんたはそれを受けて飛んでいきな。アンタが回転しながら外殻にぶつかったらヒビくらいは入るだろうさ。その時にアンタの雷玉を放つんだよ』

『……なるほどだから協力技か』

『そういうこと。アンタがアタシの攻撃に耐えられるか。気絶したら雷玉を放てないだろ。それに奴の外殻を打ち破るくらいの勢いが必要だよ。ぶつかったときの衝撃は想像を絶する。アンタのからだがバラバラになったって知らないからね』

『ヴィンフィンって青竜も耐えたんだろ?』

『アレは当代最強の竜だからこそ耐えられたんだ。そうでもなきゃ、回っている最中に身体がバラバラになっちまうよ』

『我なら大丈夫だ。なにしろさっきも全然平気だったしな』
『傷だらけで、ボロボロの姿になって、何を言っているかね、この坊やは』

『シャラザードだ。早く覚えやがれ、物覚えの悪いババアだな。それにあれはゾックじゃなくて、月魔獣と呼ぶのだ』

『細かいことにこだわるね。ケツの穴が小さいってずっと言われてきたんだろ』
『抜かせ! デカすぎてしょうがないとは言われ続けたがな』

『ウンコ漏れっぱなしか』
『だまれ。いいから準備するぞ』

 シャラザードとターヴェリの会話が終わったらしく、二体はゆっくりと浮き上がった。

「えっ、ええっ!? ターヴェリさん? 何をするんですか?」

 途中から起きたことで状況が飲み込めないアンネラを残して、ここで人竜一体の協力技が試されようとしている。


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