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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 月が動いた。
 エイダノとカイダの月が互いに追いかけ、逃げるかのように動く。

 それは、普段とはまったく違う動き。

「……回天」

 その言葉が口をついて出た。
 これは回天だ。だがなぜ?

「まだあと七日はあったはず……」
 女王陛下も絶句している。

 回天が終わるまでまだ猶予はあった。
 月読司つきよみつかさの計算ではそうなっていた。ずれても一両日くらいだと。

 だからこそ今日、ターヴェリと戦ったのだ。
 回天が終了する前に……なのになぜ?

 女王陛下も分からないらしい。なぜ計算が間違ったのか考えるのはあとでいい。
 問題は……。

「ここ――陰月の路にいるのはマズいですよね」
 僕が女王陛下に問いかけた。

「そうね」
 それは無慈悲な言葉。

 回天が終われば月の軌道は元に戻る。
 始まり同様、回天の終わりにも多くの月魔獣が降下する。

 何十、何百という月魔獣が、それも大型種さえもやってくる。

 ここが危険なのは分かる。だが、移動できるのか?
 ターヴェリとアンネラはまだ気絶したままだ。

 シャラザードだって満身創痍。
 動けるだろうが、それだけ。戦うのは難しい。

 そして最大の問題。

「女王陛下ッ! 月が! 月が移動しております!」

 遠くに避難していた護衛たちが戻ってきた。
 そう、ここに女王陛下がいるのはマズい。

 属性竜はたしかに無敵に近い存在だが、女王陛下が王宮を留守にするのも、こんな危険地帯にいるのも良くない。

「レオン操者。動けるか?」
 ソウラン操者が問いかけてきた。

「大丈夫です……と言いたいですが、かなり消耗しています。シャラザードも飛ぶことはできますが、戦闘は心許ないと思います」

「分かった。最悪の場合、ターヴェリを捨てていくことも視野に入れる」
「えっ!?」

「対処できなくなった場合、きみがアンネラ操者だけでも回収するんだ。そうならないことを祈るばかりだが」

 僕にターヴェリを見捨てろと?

 ソウラン操者の目を見て気づいた。
 護衛たちは女王陛下をすぐ王宮に返したいのだろう。

 それだけではない。ソウラン操者にもついてきて欲しいと考える。
 回天が終わったいま、いつ強力が月魔獣が近くに降下するか分からない。

 竜操者の五箇条がある限り、月魔獣を発見したら戦わねばならない。
 移動中の安全はなんとしても確保したいはず。

 つまり、残されるのは僕とアンネラだ。
 ここで回復するまで待って、帰還を求められると思う。

 ただし、ここに複数の大型種が出た場合はどうだろうか。
 いまのシャラザードに対処できるか?

 ここでシャラザードに聞いたところで答えは分かっている。
 シャラザードは「大丈夫だ」と言うに違いない。

 たった一年のつきあいだが、それだけは分かる。
 月魔獣を前にして弱気なことは言わない。

「ソウラン操者、行ってください。ここは僕とシャラザードでなんとかしますから」
「レオン操者……」

 僕の言葉。ソウラン操者も分かっているはずだ。
 もしソウラン操者が女王陛下と行動を共にしないことで何かあったら。

 その可能性がある以上、ソウラン操者はここに残るとは言い出せない。
 だから僕は重ねて言った。

「シャラザードならば月魔獣に後れを取るとは思いません。大丈夫です。行ってください」

 ソウラン操者と女王陛下が顔を見合わせる。

「妾がここにいることで迷惑となることもあろう」
「……分かりました。陛下がそうおっしゃるならば」

 女王陛下の言葉にソウラン操者が頷く。もっとも顔は険しいままだ。
 納得していないのだろう。

「なに、いまのレオンなら何とかするだろう」
「……?」

 ソウラン操者には伝わらなかったが、女王陛下の言葉に込められた意味はよく分かった。

 女王陛下の〈影〉として何とかしろと言っているのだ。
 これは指令であると。

 そして『闇渡り』レオンならばできるよなと言っているに等しい。
 だから僕はこう答える。

「もちろんです」

 ソウラン操者の顔が引きつった。
 この絶望的な状況で、僕が大口を叩いたと思ったのかもしれない。

「では妾たちは行くとするか」
「はっ」

 その言葉に護衛たちがホッとした表情を浮かべた。

 だからこれは、なんと表現すればいいのだろう。間が悪い?
 女王陛下が帰還を決めたまさにそのとき。

 天頂にあるエイダノの月から、一際大きな鋼殻こうかくが落下してきた。

「あれは!?」

 だれが最初に気づいたのか。
 今まで見たことないそれに視線が釘付けになった。

 それは大きな鋼殻だった。
 とてもとても大きな……。

 まだ天の高みにあるにもかかわらずその存在感は、果てしなく大きい。

『ぬぉおおおおおおおっ』

 シャラザードが唸りをあげた。
 鋼殻を凝視している。

 僕らよりも目が良いシャラザードには、もっと詳細に見えているのだろう。
 あれがなにか分かっているに違いない。

「こっちに来るぞ」
 鋼殻がこっちに向かって落ちてきた。

 大型種の鋼殻とは比べものにならないくらい大きい。

「………………」
 だれもが無言だった。

 もはや間違えるはずもない。
 かつてない大きさの鋼殻。

 それが何なのか、だれも口に出したくなかった。

 鋼殻はここからほど近い場所に落下した。

 落下地点は見えなかった。

 轟音と地響きがやってきた。
 大気が荒れ狂い、暴風が吹き荒れる。

 僕らは飛ばされた。
 気絶しているターヴェリの身体すら、数十メートルも移動している。

「……これは戻るわけにも行かなくなったわね」
 女王陛下の額から、汗が一筋流れ出た。

「月魔獣の……支配種」
 ソウラン操者の言葉をだれもが耳にした。



 落下した鋼殻は、魔国の首都を壊滅させたのと同じ、月魔獣の支配種だった。

 近くにいる竜操者は少ない。

 満身創痍の僕、気絶したアンネラ。
 ソウラン操者、女王陛下とその護衛たち。

 相手は国すら滅ぼす支配種。

「……最悪だ」
 思わず僕は呟いた。


回天の時期がズレた理由について

 大転移の時期が早まったときにも少し説明しましたが、万有引力の関係で巨大質量を持つものは互いに引かれ合うことになります。
 それによる誤差は、観測では把握できませんので、ズレと認識されてしまうのです。別段、月詠司の計算が間違っていた訳ではありません。

 というわけで次回、支配種との戦いです。
 回天編終了までこのまま行きます!
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