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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 竜の学院でもっともよく使われるのが講義棟である。
 普段はそこで授業を受ける。

「ここの建物もあまり大きくないな」

 寮と同じで、入学する人数が少ないからか、こぢんまりとした建物ばかりである。
 ソールの町にはもっと大きな建物が多くあったので、どうしても比べてしまう。

 そんな僕の感想に、アークがフッと笑みを浮かべた。

「竜操者に必要なのは学力よりも体力だからね。座学は最小限でいいのさ」

「いや、最小限はまずいだろ」
 アークが自慢げに言うので思わず突っ込んだ。

「そんなことはないさ。ほとんどの竜操者は、竜を駆って月魔獣を倒すのが仕事だ。そして竜の体力よりも、おれたちの体力のほうがはるかに少ない。つまり、竜の活動はおれたちの体力次第で増えたりも減ったりするんだ」

 そう言い張るアークの顔に疲れが見える。
 入学式のときもそうだが、アークは周囲に人を置きたがる習性がある。
 というか、周囲の人に語りたがる。

 王立学校の女生徒たちは、アークの話を黙って聞いている。
 それがまた彼を刺激するのだろう。

「ほどほどにしとけよ」
「なにをだい?」

「これから初授業だというのに、もうひと仕事終わった顔をしているぞ」
「大丈夫だ。ぼくはこれでも軍人志望だからね」

 強がるアークを置いて、僕は先に教室へ向かった。
 きっとアークのことだから、女生徒から「もっと話が聞きたいですわ」と言われれば、ホイホイ付いていくに違いない。

 王立学校に通う女生徒に悪い人物はいないと思うが、この少々語りたがりなルームメイトがだまされた姿を見るのは忍びない。



「今年度、一回生の担当教諭になりましたキサ・シオニーナです。よろしく」

 そう挨拶したのは、二十代後半の女性だった。
 教官ではなく教諭と名乗るのは、竜操者ではないと聞いた。座学を担当するらしい。

 教職員の服装は自由らしく、気品のある立ち振る舞いは、どこぞの貴族のように見える。

 竜操者を教えるのだから、人選はかなり厳しくやっているだろうし、本当に貴族かもしれない。

 竜国貴族には、領地持ちと領地なしの二種類の貴族が存在していて、領地はほぼ世襲。
 一族の未来は明るいという。

 反対に領地なし貴族は、城や他の貴族に雇われるので、僕ら平民とあまり差はない。

「竜操者には勉強はいらないと言う生徒が毎年出ますが、そんなことはありません。座学はとても重要です。これからの一年間で学ぶことはたくさんありますので、覚悟してくださね」

 親しみやすい人かなと思ったら、いきなり出鼻を挫きにきた。
 アークなどは目に見えて落ち込んでいる。

「具体的には、到達度(とうたつど)確認試験というものが、年に四回あります。これに合格しないかぎり、延々と補習が行われますので、注意した方がいいですよ七月の終わりに長期の休みがあるのはご存知ですか?」

 僕は知らなかったが、何人かがうなずいた。
「ゆっくりしていられるのは、長期休み前までと認識してください」

 このキサ教諭は、はじめにガツンとやるタイプらしい。
 発言に容赦がない。

「年が明けた新年早々に、みなさんは竜を得ます。その後は、竜を馴らすために寝る間もなくなることでしょう」
 それは大変そうだな。

「その前に終わらせるべきことは終わらせておいたほうがいいでしょうね。だれしも、疲れてクタクタになったあとで、自分だけ補習をするのは嫌でしょう?」
 僕はみんなと一緒にうなずいた。一人だけ残されて補修とか嫌すぎる。

「……というわけで、座学は一度で終わらせるよう、日々がんばっていきましょう」
 なんだろう。こう、頑張らねばという気分になってくる。

 このキサという担当教官は、人を乗せるのがうまい。
 いつのまにかやる気になってきた。

 話術がずいぶん巧みだなと思ったが、教え方もうまかった。
 とくに竜操者について予習してこなかった僕でも、説明を聞くだけで多くのことが理解できた。

「小型竜の定義は、身体の大きさが十メートル前後であることです。これには尾の長さが含まれていません。尾を入れるとだいたいその二倍になります。なぜ、そういう測り方をするか分かりますか?」

 なぜだろう。
 尻尾はおまけだからか?
 身体の大きさと尻尾の長さに相関関係がないから?
 うーん、分からない。

 僕がウダウダと考えていると、だれかが手を上げた。

「必要なのは身体の大きさであって、尾の長さではないからです」
 うん、僕もそう思った。

「違います」
 あれ、違ったか。

「ではどうしてですか?」

「竜国では竜は馴染みのある生き物で、だれしも一度は近くで見たことがあります。ですが、他国は違います。話と想像だけでしか竜を知りません。小型竜の大きさが十メートルと、二十メートルでは、他国に与える印象がだいぶ違います」

 キサ先生はそれ以上言わなかったが、僕には分かった。
 つまり、竜国の戦力を過小評価させたいのだ。
 いざ他国と戦いになったとき、初めて見る竜の大きさに圧倒される。

 十メートルの竜と言われていたが、実際には二十メートルもあった。
 相対した兵の士気は下がる。

 立てた作戦は通用しないかもしれない。そうなれば、戦い方も変える必要がある。
 詐欺みたいなものだが、バカ正直にこちらの戦力の全貌ぜんぼうを知らせる必要がないのだ。

 そういえば僕も、初めて見た時に驚いたクチだ。
 小型竜というからには、もっと小さい竜を想像していたが、ソールの町に駐留している竜を見てビビったのだ。

 あれで小型竜と聞いて、じゃあ中型竜や大型竜はどれだけ大きいんだと唖然としてしまった。

 戦場でもし出会った竜があれで小型なんだと知らされたら、どう攻略するかよりも、どうやって逃げようかと考えてもおかしくない。

 そういう意味では、実際の半分の大きさを他国に知らせるのは意味があるかもしれない。

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