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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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『しかしまあ、ずいぶんと大きくしたものだね』
「ターヴェリさん、危険ですよ、あれ」

『分かるのかい?』
 ターヴェリはククっと笑い、そりゃまた優秀だねえと呑気に言った。

「だめです、あれはだめ。絶対に受けちゃいけないやつです」
『そうだろうね。直撃したらいくらアタシでもふっとぶね』

「逃げましょう! それはもう一目散に」
『逃げるのはなしだよ。それじゃ意味がない。……それにね。坊やの雷玉同様、アタシにだって切り札ってのがあるのさ』

「あったって無理です。相打ちにしたって被害が大きすぎます! ターヴェリさん、どうして逃げないんですか。こんなところで悠長に話している暇なんてないですよ」

『うるさいね。どーんと構えてな。今は待ちの時間だよ』

 みるみる大きくなる雷玉は、ついにシャラザードの身体と同じくらいにまでなった。
 アンネラが危険を訴えたときの、実に三倍の大きさである。

「いやぁああああ……もうだめですぅうううう」
 頭を抱えてアンネラがうずくまる。

 ターヴェリの背でどんな姿勢を取ったところで結果など変わらないはず。
 それでもアンネラは身を低くして頭を守ろうとする。

『そこまで大きくなったか。まったく、なんて規模だい。さすがのアタシも見たことがないね』

 限界まで育てあげた雷玉を、シャラザードは首を振って投擲する……その一瞬前にターヴェリが吠えた。

『こっちだって好機が来ていたのさ。さあ、アタシのとっておき、大嵐渦だいらんかの出番だよ』

 雷玉を打ち出す直前、シャラザードの身体が回転しはじめた。

               ○

「お、おい、シャラザード。この規模……ヤバくないか?」
 雷玉は僕の想像を超えて大きくなっている。

『これだけあればババアも木っ端微塵よ』
 鼻高々、それはもう自慢げにシャラザードが言う。

 口笛を吹いてスキップを踏みそうな勢いだ。
「木っ端微塵にしたら駄目だろ!」

 なんてことを言い出すんだ。

『死ね、ババア!!』
 僕が制止をかける前に、シャラザードが雷玉を振りかぶって投げようとした。

 だが、その直前。
『ぬお!? ぬおお?』

 身体がその場で回転しはじめた。
 シャラザードが回れば、僕も回る。

 ぐるぐる……ぐるぐるぐるぐる……。

 徐々に勢いを増して、空と大地が交互に入れ替わる。

『あんのババアぁ! 殺しに来やがったなぁ!』
 回りながらも、シャラザードが叫ぶ。

「おまえだって殺しにかかったんじゃないのか? というか、これなんだよ!」

『大嵐渦だ。我らが回るが、我らの外では鋭い刃の嵐が逆回転しておるはずだ。動くなよ。動いたら、一気に磨り潰されるぞ』

「なんだそれはぁああ回る回る」

 視界がぐるんぐるん回転して、いま自分の状態が分からない。
 動きたくても、これで動けるのか?

『大嵐渦は内回りと外回りで真逆の力が働いておるのだ。ヤバい、このままではヤバい。ついでに雷玉もヤバい!』

 久しぶりに焦ったシャラザードの声を聞いた。
 僕にも分かる。雷玉がシャラザードの制御を外れようとしている。

 一旦外れれば、どこに飛んでいくか分からない。
 いや、その場で破裂することすらあり得る。そうしたらシャラザードと僕がヤバい。

『うぐぅ。ババアめ、外回りをせばめてきおったな!」』

 ジャリジャリと何かを擦る音が聞こえる。
 シャラザードの羽の先端部分が摩耗しているのだ。

 このまま手をこまねいていれば羽が削られ、あのやすりのような嵐の刃が本体に届く。

「どうする、シャラザード!」
『打つしかあるまい』

 何を打つのか。決まっている。雷玉をだ。
 だが当たるのか? この距離だ。狙いが定まっていれば外すことはない。

 回転している状態ではどうだ? 当てられるのか?
「無理に決まってる。当たるわけがない」

『ええい、やってみなければ分からんだろ』
 いや分かる。闇雲に打って当たるほどこの世は優しくない。

 偶然とは、実力に裏打ちされた実力の反映だ。

『ならばどうすればよい? 主よ、何か手があるのか?』
 と言われても困ってしまう。僕に打開策を求められらところで、僕は矮小な人間に過ぎないのだ。

 少しばかり暗殺が得意で、闇に溶けることができるくらいのただの人間だ。
 そんな僕に妙手なんて……ん、待てよ? 闇に溶ける?

 僕の頭が回転する。物理的にも回転しているが。

「そうだ、シャラザード! 闇だ。闇を使うぞ。僕が闇で的と道を作る。それを目指せばいい」

 闇を操るのはお手の物だ。
 ターヴェリがいるであろう方角に感覚を伸ばす。

 動いていなければ見つかるはず……捕まえた。
 闇はいま、ターヴェリとともにある。あとは道筋を作って、シャラザードに分かるように……。

「シャラザード、いいか。よく見ろ。闇が一番濃い場所を狙え! 道筋は作ってある!」

 すでにシャラザードの羽は、かなりの部分削られている。
 急がないと駄目だ。

 ターヴェリを中心に、同心円状になるよう闇を操った。これは外に行くほど闇が薄い。
 シャラザードには、中心が真っ黒になった巨大な的が見えているはずだ。

 加えて、的に当たるよう、闇のトンネルまで開通させた。
 これならば当たる!

『よし!』
 シャラザードが自信を取り戻した。

 そして一切躊躇することなく、雷玉を放った。



 そこから先はよく覚えていない。
 雷玉を放った反動でシャラザードの身体は大きく揺れ、大嵐渦の外回りに巻き込まれた。

 ゴリゴリと僕とシャラザードの身体が削られる。だが、なぜか大嵐渦から抜け出せた。
 どうやら大嵐渦の制御が外れたらしい。

 つまり、ターヴェリの方でも何かあったのだ。

 実際、僕らが削られている途中、光が瞬き轟音が聞こえていた。
 僕が作り出した闇の道で、雷玉をうまく誘導できたらしい。

 あとで聞いた話によると、飛んでくる雷玉を慌てて避けたターヴェリだったが、ほんの少し擦ったことで感電したのだそうな。

 その頃僕とシャラザードは、全身をズタズタに切り裂かれた状態で落下していた。
 錐揉み状とか、飛べないので滑空したとか、そんなかっこいいものではない。

 頭を下にして地面まで一直線だった。
 同じ頃ターヴェリも落下し、ほぼ同時に地面へ激突した。

 人竜一体になっていたとはいえ、戦闘のダメージが多すぎた上で、この衝撃である。
 僕はしばらく気を失っていたが、シャラザードの咆哮によって意識を取り戻した。

『勝ったどぉ-!』

 大地に大穴を開けて(それはシャラザードも一緒だが)、いまだ気絶したままのターヴェリがそこにいた。

 なんにせよ、この勝負。シャラザードの勝ち……らしい?



「……こういう結末になるとはのう」
「と言っても、激しすぎて近寄れませんでしたので、どのような攻防が行われたのか、遠くからしか拝見できませんでしたが」

 女王陛下とソウラン操者がやってきた。
 二人ともあきれ顔だ。

「提案した妾がいうのもあれだが、やりすぎね」
「さすがに最初の属性技が、小手調べとは思いませんでした。被害が徐々に大きくなって、最終的にこれですから」

「多彩な技が見れたけど、ソウランはどの程度の技を使えるかしら?」
「炎を広く絨毯のように出す技と、細く収束して打ち出す技です」

「妾も似たようなものだが、こうしてみると、多彩な技で戦うのも面白そうね」

 女王陛下とソウラン操者が悠長に会話しているけど、助けてくれる気配はない。
 というか、助けるつもりはなさそうだ。

 傷だらけで満身創痍のシャラザードと僕。
 感電して気絶したままのターヴェリとアンネラ。

「すみません……まったく動けないんですけど、僕ら、どうしたらいいでしょうか」

「おおっと、忘れるところだった。……さてどうしようか」
「かなり遠くまで月魔獣が掃討されていますし、このままでいいんじゃないでしょうか」

 シャラザードの天雷てんらいで地上は一掃されたらしい。ならばいいか。
 そんなことを思って力をぬくと、ふたりの様子が変わった。

 女王陛下が眉根を寄せて空を見上げている。
 ソウラン操者からはピリピリとした殺気が出ている。

 つられて僕も空を見上げる。
 すると、いつしか天頂に来ていた二つの月が……動いていた。


いよいよ、回天編クライマックスです
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