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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 シャラザードが作り出した光の渦。
 今まで僕が見たこともないほど力強く、美しいものだった。

 そしてあることに気づく。
「雷を中心に集めないと霧散してしまうのか」

 渦の中心部分に向けて、ものすごい力が働いている。

 これはシャラザードと魂でつながっているから分かること。
 僕は天雷てんらいの恐ろしさが理解できた。

 僕は霧散すると言ったが、これは爆発四散と言い換えてもいいかもしれない。
 それほど、外へ逃げようとする力が強いのだ。

 その力の奔流を、中へ中へと押し込めている。
 ただそれだけなのに、なんて美しく不安定なのだろうか。

『食らうがいい!』

 シャラザードの言葉と同時に、天雷は頭上に向かって一直線に飛んだ。
 僕らはいま、はるか高みにいる。

 打ち出された天雷はここからさらに高度を増し、シャラザードをもってしても到達できない程の高みに到達した。

 そして――一気に落ちた。

 天の高みから一条の光となって、力の奔流が垂直に落ちる。

「お、おい」

 まばゆいばかりの光の柱。
 それがターヴェリを貫いた。

 直後、はるか下方の大地から、あり得ないほどの大音響が響き渡ってきた。
 下を見ると、巨大な穴が出現し、同心円状にもや(・・)が走っている。

『ふむ。なかなかの威力であったな』
「おまえ、言うに事欠いてそれかっ! 殺す気か? 相手を殺す気なのか!」

『勘違いするでない、主よ。奴は耐えたぞ。嵐鎧らんがいか。相変わらず無茶苦茶な防御力であるわ』

「無茶苦茶はおまえだろ!」

 いまだ大地にもやが走っている。どこまで到達するか分からないほどだ。
 直下にある大穴の中心は、深くて見えない。

『なあに、我らの戦いではこれが普通よ。さて、序盤は我の勝ちだな。やはりあんなロートルに後れを取る我ではないのだ。次で決着をつけてくれるわ』

 高らかに宣言したシャラザードは、斜行しているターヴェリに向かって突進した。
 肉弾戦をするつもりだ。

 ――がぁああああああ!

 シャラザードが吠えたことで、ターヴェリが気づいた。
 どうやら気を失っていたらしい。

 トップスピードのまま体当たりを食らわせたシャラザードと、それをまともにうけたターヴェリ。
 ターヴェリの身体が乱雑な円を描きながらはね飛ばされていく。

 追い打ちをかけようと、シャラザードが爪を振るうが、これはターヴェリの尾の一撃で阻まれる。

『小癪な!』
 上空から踏みつぶそうとするシャラザードと、下から噛みつこうと首を伸ばすターヴェリ。

 ここからはもう、肉体と肉体のぶつかり合い。
 牙と爪、尾と尾、そして雷をまとったシャラザードに、嵐をまとうターヴェリ。

 唐突に始まったこの肉弾戦は、互角で推移していた。

 両者の言葉が確かならば、ターヴェリの経験はシャラザードを軽く凌駕する。
 また、身体の大きさもターヴェリの方が勝っている。

 その分、シャラザードは若さと瞬発力がある。
 手数の多さはシャラザードが圧倒していた。

 攻撃に優れたシャラザードと、防御に優れたターヴェリ。
 やはり両者は互角。

 そして竜の体力は無尽蔵。
 この肉弾戦は、千日手の様相を呈したかと思われた。だが……。

『ぬおっ!?』
 シャラザードが困惑の声をあげた。

 爪と牙の攻撃が続けて外れたのである。
 一方、ターヴェリの攻撃はしっかりとシャラザードに届いている。

 自分の攻撃が届かず、相手の攻撃が届くほんのわずかな差。
 それでもシャラザードはこの違和感の正体を探るべく、周囲に目を走らせた。

「どうしたシャラザード?」
『おかしい』

「なにがおかしいんだ?」
『やつめの反応が早い』

「そうか? 僕はそう思わないけど」
 たしかにシャラザードの攻撃は当たりづらくなっている。

『ほんのわずかな差だが、我の攻撃に合わせて避けておるわ。どういうことだ?』
 不思議がるシャラザードの気持ちが出たのか、前より一層、シャラザードの攻撃が当たらなくなった。

               ○

「ターヴェリさん、シャラザードさんの攻撃が当たらなくなってきてますよ」
『当たり前だよ。アタシの嵐舞らんまいは坊やも初見だからね。対処できるわけがない』

「すごいですよ、ターヴェリさん。もしかして必殺技ですか?」

『そんな大層なもんじゃないが、かつてアタシが苦肉の策で編み出した格上と戦う技さ。ここで使うとは思わなかったよ』

「格上? ターヴェリさん、自分で最強とか言ってませんでした?」

『アタシは最強だよ。それは間違ちゃいないが、正確でもないのさ。あの坊やより前の時代には、化け物のように強い竜がいたのさ。そいつはアタシの手足や羽に一瞬だけ炎を押しつけるんだよ。それだけで挙動が一瞬だけ遅れる。そいつにはそのだけで十分なのさ。アタシはいつだって手も足も出ずに完敗。ありゃ悔しかったね』

 ターヴェリが懐かしく述懐する間でも、シャラザードの攻撃を器用に避けている。

「そんなに強い竜がいたんですか?」

『化け物はどこにでもいるもんさ。対抗するためにアタシが編み出したのがこれ。自分の身体にごく一部だけ、それも一瞬だけ、強い嵐を吹き付けるのさ。それで十分。あのがむしゃらに立ち向かった経験は、役に立っていたんだねえ』

 シャラザードの攻撃は当たらない。

「すごい、すごいですよ、ターヴェリさん。これなら勝てますね」
『どうだろうね。もう坊やは仕組みに気づいたようだよ』
「えっ?」

 シャラザードが爪を振るえば、ターヴェリが羽の下に嵐を当てて、一瞬だけ早く上昇する。
 噛みつこうと首を伸ばせば、腕に一瞬だけ嵐を纏わせて迎撃する。

 それはまるで後出しじゃんけん。シャラザードの動きを見てからの対応だった。
 シャラザードは対抗方法はすぐに思いついたらしい。

 それは若さゆえの思考の柔軟さか。
 ターヴェリの先読みともとれる動きが、なんらかの技であると見抜いた。

 ならばと、自分たちを含む一帯に豪雨を降らせた。先読み封じである。
 属性竜の中でも上位の存在は、当然のことながら下位の技を使える。

 嵐のターヴェリが風を使えるように、雷のシャラザードは雨を使える。
 両者の姿が見えなくなるほどの激しい雨が吹きすさびはじめると、シャラザードの攻撃がまた当たり出した。

 視界が極端に悪くなり、ターヴェリの嵐舞も使えなくなったのだ。

「た、ターヴェリさん……」
『やっかいだね、これは。全然見えなくなっちまったよ』

 そもそも属性竜の上位、下位の技は威力を調整するときしか使い分けない。
 炎と火はもともと同じものであるし、嵐と風も同様である。

 だが、シャラザードのように雷と雨というのは、同じ属性でいて中身は大きく違う。
 そして次なる悲劇がターヴェリを襲った。

「きゃぁああああっ」
 アンネラが悲鳴を上げる。

 シャラザードが豪雨を利用して複数の雷を放った。
 これだって視界が良ければ、避けることはできる。

 よしんば当たったとしても、単発の雷など表面で弾くことも可能だ。
 だがいまは全身が濡れている。

 雨を通して、雷がターヴェリの身体に次々と落ちていった。
 避けようとしても、雨が雷の通り道となってしまう。
 しかも全身ずぶ濡れの身体は、雷をよく通す。

『まずいね、これは。そろそろ次の手を考えないとね』
 これ以上肉弾戦を続けてもじり貧だと悟ったターヴェリは、後ろに大きく飛んで距離をかせぐ。

「ターヴェリさん、どうするんですか?」
『まずはこの忌々しい雨を払おうじゃないか』

 巨大な竜巻を作り出し、雨を天高く巻き上げていく。

『これでいい。……さて、向こうも手も尽きたころかね』
「どうするんです? ターヴェリさん」

『向こうも決着をつけようというのさ。……ほら見てごらん。やる気だよ』

 シャラザードも同じ事を悟ったのか、距離を取ったターヴェリに追撃をかけようとしない。
 反対に、向こうもまた距離を取った上で雷を集め始めた。

「あれは?」

雷玉らいぎょくだよ。威力は……そうだね、さっき嵐鎧で防いだのあったろ』
「はい……死ぬかと思いました」

『威力はあれ以上。嵐鎧じゃ防げないだろうね。なんたって奴は、雷玉だけでどんな敵とも渡り合ってきたんだから』

「えええっ!?」

 アンネラとターヴェリが見ている前で、シャラザードの雷玉はみるみる大きくなっていった。


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