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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 午前中は晴れていた空も、午後になるにつれて雲が多くなってきた。
 天候が変わるらしい。

「シャラザード、そろそろ行くぞ」

『主よ、あい分かった』
 すぐに応えがあった。打てば響くような返答だ。

 これから決闘に行くというのに、いまのシャラザードに気負ったところはない。
 いい傾向か、それとも覚悟を決めたのか。

 今日の昼過ぎ、女王陛下の氷竜が西の方へ飛んでいくのがみえた。
 王都の住民はいつもの散歩と思うだろう。

 ソウラン操者を入れた護衛もいつも通りついていた。
 普段と変わったところはどこにもなかった。

「女王陛下たちは先に行ったようだけど、追いつけるよな」
『もちろんだとも』

 行き先を悟らせないために、女王陛下たちの集団は西へ進み、人気のない場所に出てから北上する手はずになっている。

 シャラザードは東へ向かって飛び、超高々度に達したあとで反転する。
 目的地にはもうアンネラがいて、周辺の月魔獣を蹴散らしつつ待機しているらしい。

 竜を得たばかりの新人竜操者になにをやらせているんだと思ったが、月魔獣すら狩れないようでは、シャラザードの相手はつとまらない。

 ターヴェリのことだ、きっと鼻歌交じりで蹴散らしていることだろう。
 驚愕しているアンネラの姿が目に浮かぶようである。

 お誂え向きに厚い雲が出た。
 地上からはもう見られないので方向転換しても問題なさそうだ。

「シャラザード、進路を変えて目的地を目指すぞ」
『了解した!』

 陰月の路に到着するまでの間、僕はシャラザードと過ごしたこの一年を振り返った。
 激戦と言えるものは本当に少なかった。

 戸惑ったのは、大型種が出たときくらいだろうか。
 それでも苦戦というほどではない。

 ソウラン操者との模擬戦は、僕自身もソウラン操者と対峙していたので、あまりよく見ていない。
 あとでシャラザードから、戦闘経験が圧倒的に足りないので、相手にならなかったと聞いた。

 女王陛下の『白姫』と戦っても同じだろう。ゆえに今回が初めての経験となるはずだ。
 ターヴェリがシャラザードと同等以上の力を持っているのは明らか。

 さて、どちらが勝つのだろうか。
 僕としては、シャラザードの増長を止めてもらいたい所ではあるのだけれども。

               ○

 陰月の路に到着した女王とその護衛たち。
 女王のそばにソウランのみを残して、残りはすぐに周辺の安全を確認しに散った。

「月魔獣の死骸が二十と少し。どれも原形を留めてないわね」
 女王の言葉にソウランは頷く。

「さすがは赤竜――属性竜といったところでしょうか。あっけに取られているのが竜操者というのが情けない限りですが、竜の力は本物のようです」

「どちらが勝つかしら」
「竜の力が互角ならば、どう転んでもおかしくないかと」

「相変わらず、面白みのない答えね」
「申し訳ありません、根が真面目なものでして」

「今のは面白かったわ」
「いえ……冗談のつもりではなかったのですが」

 女王とソウランがそんな会話をしていると、護衛たちが戻ってきた。

「周囲は問題ありません!」
「敵の姿はみられません!」
「月魔獣の存在は確認できませんでした!」

「そう。ありがと。あなたたちはもう離れていいわよ」
 お役御免を言い渡されて、護衛たちが慌てる。

「安全が確認されたとはいえ、ここは陰月の路、危険です」
「そうです。我々は護衛ですので、主の側を離れるわけにはいきません」

「一緒にいる方が危険なのよ。……それに近づきたくても近づけないところにいくわ」

「ど、どこへでありますか?」
 護衛が必死に聞いてくる中、女王は笑って上を指した。

「空の高みにね」
 それは悪戯か成功したときの笑みだった。

 通常、飛竜が飛ぶ高さから竜操者が落ちたら死ぬ。
 飛竜とて墜落したら無事では済まない。

 落下が怖いからといって低空を飛ぶのはもってのほかだ。
 容易に矢の届く高さで飛ぶのでは、意味がない。

 反対に高高度で飛ぶのはどうだろうか。
 たしかに墜落すれば竜も竜操者も死ぬ。

 ただし、落下したとしても地上まで時間がかかるので、飛竜ならば姿勢を立て直すことができる。
 ゆえに飛竜どうしで訓練をする場合は、なるべく高い場所で行うのが一般的となっている。

 今回の戦いも、四体の属性竜しかたどり着けない超高々度で行うことが望ましい。
 女王はそう考えていた。

「わ、我々ではついてこれないと?」

「そうなるわね。それと危険なのは本当。できれば姿が見えなくなるまで離れてもらったほうがいいわね。あなたたちも巻き込まれて死にたくはないでしょ?」

 遠く離れていてすら、巻き込まれる危険があると女王は言っているのだ。
 そして巻き込まれたら死ぬと。

「わ、分かりました……」

 護衛たちはそう言うしかない。
 なにしろ護衛したくとも、隣に立つことができないばかりか、足手まといになるのだ。
 主人のことを考えるならば、素直に言うことを聞いた方がいい。

 それに……と護衛たちは考える。
 自分たちがたどり着けない高みに、どんな危険があるのかと。

「終わったら降りてくるわ」
「かしこまりました」

「それまで決して近寄らないでね……っと来たようね」
 もうすぐ日が沈むという段になって、巨大な姿が近づいてきた。

 色は漆黒。その姿は夕闇に紛れて視認できなくなりそうなほど周囲に溶け込んでいる。
 見間違えるはずもない。

 赤竜の対戦相手である黒竜シャラザードだ。

「ではソウラン、行きましょう。レオンならばついてくるわ」
「はっ、かしこまりました。お供します」

 女王とソウランの騎竜が上昇すると、黒竜もまた向きを変えた。

 三体の竜がグングンと高度を上げるのを護衛たちが見届ける。

「わ、我々はここから退避するぞ」
「「はっ!」」

 たしかにあの高さでは、追いつけない。

 護衛隊長は考える。
 今日は属性竜の力を測るための模擬戦だと聞いていた。

 ただの模擬戦にしてはものものしいが、属性竜どうしの戦いではそれが普通なのかもしれない。

 その戦いとやらを見てみたい気持ちもあるが、好奇心を発揮して巻き込まれてはシャレにならない。

「できれば視認できなくなるまで離れているようにとの仰せだ。離脱後、いくつかの集団に別れるぞ」

 万一ひとつの集団が巻き込まれた場合を考えての措置である。

「……そこまで厳重に安全確保しなくてもいいと思うが、念のためだ」

 護衛隊の面々はその空域から離脱した。

 戦いがはじまる。


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