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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 謁見を終えて、義兄さんと一緒に寮に戻ってきた。
「しかし、義兄さんも面倒そうなことをやっているね」

 義兄さんが女王陛下のもとへ報告に来たということは、見張り任務を統括しているのだろう。

 いくら伝達が主な仕事の〈右足〉とはいえ、慣れない場所で上の立場になる必要があるのだろうか。

「オレにお鉢が回ってきたのは、新しい町だからな。まだ決まった〈影〉がいるわけではないし、入植がはじまれば北方の〈影〉もやってくる。臨時で派遣する人員としては、オレくらいが最適なんだろう」

 ちなみにこの新しい町。
 何もない場所に造るのではなく、近くに村が存在しているらしい。
 発展の余地がある更地があるので、そこが選ばれたという。

 職人は村で寝泊まりし、町を造りに出かける。そんな毎日だそうな。
 義兄さんは村に物資を運ぶ役目を負いつつ、現地の〈右手〉と連絡を取り合い、情報交換をしているらしい。

 なぜ義兄さんが選ばれたかというと、王都の余剰人員だからだ。

 僕にくっついてきた感じになっているので、義兄さんを動かしたところで王都の〈影〉に穴が空くわけではない。

「義兄さんが購買にいなかったので、驚いたよ」
「おまえが卒業したら購買も辞めるし、交代が研修名目で入っているから抜けやすいんだよ」

 あとひと月半で僕は学院を卒業する。
 義兄さんの勤めもそれまでだ。
 残りの期間、購買には交代要員と義兄さんで回すらしい。

「新しい町の様子はどうなの?」

 最近まで、町を造るなんて話は、まったく聞いたことがなかった。
 他国の諜報を警戒して、噂すら流れてなかったのだと思うけど。

「順調だよ。都市計画をするという名目で、文官が何人か派遣されている。見ていて分かる。優秀だな」

「そうなんだ。よくそんな人材を出す気になったよね」

「王都の機能を一部移したいからだな。何らかの事情で王都がマヒしたとき、すぐ活動できるよう、しっかりした人員が派遣されたわけだ」

「警護とか大丈夫なの?」

「回天対策で多数の兵が常駐しているし、〈影〉も見張っている。めったなことはないだろう。今のところ、他国の注目を集めてないしな」

 そもそもどこに造ったのか、僕は場所を聞いて唸ってしまった。
 学院の授業で習った場所だった。

 そこは王都からは近く、三方を山に囲まれた広い土地で、唯一開いている王都側には巨大な大地の裂け目が存在している。
 裂け目にかかっている橋を落とせば籠城が可能。天然の要塞だ。

 そんな守るに適した場所がなぜ放置されてきたのか。

「軍の訓練地でしょ、あそこ」
 何のことはない。そこの広い平地は軍が練兵のために使っていたはずだ。

「そういうこと。だから今のところ人の出入りがあっても目立たないし、出入りが一カ所しかないので、監視もしやすいわけさ」
 なかなか面白い場所を見つけたようである。

「義兄さんはしばらくそっちに行ったっきりになるわけ?」
「必要な物資を届けるついでに嗜好品や娯楽品を販売しているんだが、数日に一度は戻ってきているぞ」

 町造りに駆り出された大工など、職人たちが好むものを義兄さんが仕入れて運び入れているらしい。
 雑貨屋を営んできた義兄さんならば、その辺の需要を見極めるのはうまいだろう。

「それよりもおまえ。女王陛下の前だったんで黙っていたが、属性竜どうしを戦わせるのか?」

「シャラザードとターヴェリの間に昔の因縁があるらしくてね。顔を合わせると喧嘩しそうなんだ。敵を目の前にしてそんなことになったら大変だし、女王陛下がトコトンまでやらせてみたらどうかって」

「……それはまた大胆な提案だな」
 義兄さんが遠い目をした。

 義兄さんだって、竜迎えの儀を中止に追い込んだアレを知っているだけに、止めろとは言いにくいのだろう。

 竜同士の確執なんて、話し合いでどうにかできるとも思えないので、僕は今回ばかりは仕方ないと思っている。

「怪我しないようにな。……あと、させないように」
「そうだね。十分気をつけるよ」

 僕はともかく、アンネラは戦闘の素人だ。
 怪我をさせないよう注意しなきゃ。本当に。



 翌朝、僕は操竜場に向かった。
 二回生は今日帰ってくるらしいので、結局アークとは会えなかった。残念だ。

 シャラザードはターヴェリと隔離させたいので、学院の竜舎がいまだ使えない。
 かといって、操竜場に長くおいておくと、ここの竜たちを支配下においてしまう。

『我の軍隊を鍛えてやったぞ、よろこべ』くらいは言いそうなので、なるべく他の竜とも関わらせないようにお願いしてある。

 なんとも苦労の多い竜だ。

「おはよう、シャラザード。昨日ターヴェリと会ってきたよ」
『ぬわに!? あのババアか。安心しろ、今度会ったらシメてやるわ』

 なんで名前が出ただけでシメるとかそんな話になるんだか。

「ターヴェリの方でも、最強だったと言っていたけど」
『ふん、あんなもの過去の話だ。いまは我の方が何倍も強い』

 傍で見ても竜の強さはよく分からない。なのでこれはシャラザードの虚勢ということもある。

「それでだ、女王陛下が言っていたんだけど、因縁があるようならば、一度戦わせてみたらどうかって」
『ほほぅ。よく分かっておるな。ようし、今すぐ叩きのめしてやる』

「ここでやると人目につくし、被害が大きくなるから駄目だからね」
『ではいつやるのだ?』

「今夜。陰月の路で四色の竜が集まるからそこでやるから。それまで絶対に勝手な行動はしないようにね」
『……ほぅ』

 それっきりシャラザードは黙ってしまった。思ったより冷静だ。
 目を見ると、なんとなく真剣に考えているようにみえる。

 すぐに戦えないことで激昂するかと思ったけど、いつものシャラザードだ。よかった、いい調子だ。
 不遜な態度なのに、いいと言えるのか分からないが。

 考えてみれば、竜は強い。だからだろうか。竜は力の強弱で優劣を付けたがる。
 竜に限らず、群れをなす動物にはボスが存在するわけだし、竜だけが特別ではないけど。

「それでも人間のように国力や権力による上下関係よりもマシか」

 個人でギャーギャー争っている分には被害が「まだ」少ない。
 軍団で攻めてこないだけマシと考えよう。

 シャラザードにしろ、ターヴェリにしろ、他の竜を従えて戦いはじめたら、目も当てられない。

「あれ? そういえばターヴェリも他の竜を従わせられるんだろうか」
 女王陛下やソウラン操者に聞いたら、「自分たちの竜はできない」と言っていた。

 同じ属性竜なのにその差はなんだろうか。
 ターヴェリにも同じ事ができるとすると、明確に違うのは竜操者と意思疎通できるかどうかだけど。

「今度聞いてみようかな」
 なんとなくだが、ターヴェリもできそうな気がする。

 できるとすると、アンネラの悩みは増えそうだ。
 ターヴェリの方がまだ理知的なので救われているかな。

『なんだ? 何を考えておる?』

 うろんげに見つめてくるシャラザードに、僕は「なんでもないよ」とだけ答えて、口笛を吹いた。


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