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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 僕も噂でしか聞いたことがないけど、かつて竜国の南東部に武国ぶこくと呼ばれる国があった。
 その国には武人または武芸者という戦闘の達人たちがいて、一種独特な社会を形成していたという。

 なにしろ他国との交流は最小限。情報が出ていかな反面、入ってこない。

 それがあだとなって、大転移のときに武国が滅んだとされる。
 どんな頑強な国でも、一国だけでは乗り切ることができなかったというわけだ。

 武国の全土に月魔獣が襲来し、国は崩壊。
 武芸者たちによる撤退戦で、一部の国民だけは命を永らえることができたらしい。

 当時の月の軌道から、技国方面に逃げたものと推測されている。
 たしかに今でも、技国には武を極めんとする者が多い。彼らの子孫だろうか。

 とくに為政者たる者、人並み以上に武を修めなければならないとされる。
 かたくなまでに武にこだわるゆえんは、その辺りにあるのかもしれない。

 このように、大転移のたびに武国や呪国といった国が消滅している。

 今回、魔国がその運命にあるように思えるが、女王陛下はどう考えているのだろうか。

「魔国はいま、国としての機能を半ば以上失っているわね。でも長い歴史の中でも、首都を失ってから復活した例はあるわよ」

 内乱やクーデターによって首都が占領されても、王やその係累が生きていれば、国を立て直すことができると言いたいようだ。

「ただし……」
 と女王陛下はやや真面目な顔をして続けた。

「滅びかけた国が復興するのは大変。そうなる前に手を打ってくるでしょうね。クリスタン、さっきの報告をもう一度してくれるかしら」
「はっ」

 義兄さんがここではじめて口を開いた。
 そういえば、何の指令を受けていたんだろうか。

「王都の機能を一部移転させる計画は順調です。計画の漏れは今のところありません。また、外部からの侵入も観測できませんでした」
「……?」

 王都の機能を移転? 義兄さん、どこで何やっているの?

 僕の顔がよほどおかしかったのか。女王陛下が笑いながら説明してくれた。

 大転移によって北方の民が住むところを奪われる。
 彼らに提供する町をいま開発中である。

 そこへこっそりと、王都の機能を移転させているらしい。

 それはなぜか。
 ウルスの町近郊で魔国軍の動きが活発になっているからだ。

 この情報は竜操者によって即日届けられた。
 またもやウルスの町が戦場になる。

 女王陛下は、この王都でも「何かあるかもしれない」と判断して、政治機能を持つ第二の町を造ることにしたらしい。

 注意する相手は、月魔獣ではなく人。

 そのため義兄さんたち〈影〉が、情報が漏れていないか。
 周囲を探っている者はいないか、昼夜を問わず監視しているらしい。

 たまたま今日、義兄さんがその報告に来たらしかった。
 なるほどと思う。

 大転移を天災と捉えた場合、他国の侵略は人災だろう。
 そのどちらにも備えるため、〈影〉まで使って情報の遮断をしているのだ。

 ちなみに、王都は竜と軍によってがっちりと守られている。
 生半可な攻撃では落とされることはない。

 つまり、政治機能の移転は保険だ。万一のためということになる。

「魔国が侵攻してくるでしょうか?」
 万全の状態であっても、竜国へは中々侵攻できなかったと思うのだけど。

「来るわね。後がないから、それしか生き残る道はないもの」
 女王陛下は言い切った。

「こちらから魔国へ侵攻することはしないのでしょうか?」
「やらないわよ。意味がないもの」

 意味がない――そういえばそうだった。
 竜国は、昔から領土拡大政策を採っていない。

 それにはちゃんと理由がある。
 竜国が守りたい領土は、竜紋限界の内側だ。

 それ以外はおまけ。なくても別に構わない。
 そのため地方と中央の軋轢あつれきや、地方の中でも竜紋限界の中と外で格差がおこっているのだが……。

 つまり竜国が魔国を占領するかと言えば、答えは「ノー」だ。
 占領してわざわざ竜国民と同じ扱いをしたり、竜をその町へ常駐させるような無駄はしない。

 領土がなければ、民の生活を保障するという重荷を背負わなくていい。
 だからこそ女王陛下は、今の魔国を「吸収する価値もない場所」と見なしている。

「攻めることはしない代わりに、徹底的に守るわけですね」
「そうなるかしらねえ。それに大転移は数年に及ぶ長丁場よ」
「はい」

「過去、すべての国が滅んだ事実はないわ。だから備えるの」
 もう一度言う。怖いのは月魔獣ではなく人だ。


 ――隣国を助ける国は滅ぶ。


 それは伊達に言われ続けている言葉ではない。
 余力がないときに隣国の民を保護するのは自殺行為であるし、隣国も感謝するとは限らない。

 生き残るために、手を差し伸べてきた隣国を喰う事すらやってのける。
 大転移は月魔獣との戦いの場であり、戦争の歴史でもあるのだ。



「というわけで、大転移が始まる前に済ませてしまいましょう。明日、四竜を集めることにしたの。聞いているかしら?」
「き、急……ですね」
 知らなかった。

「急なのは仕方ないのよ。まもなく大転移がはじまるし、時間はないわ。それと、連絡は出しておいたのだけど届いてない?」

 ちなみにソウラン操者はちょうどいま王都にいるらしい。
 竜導教会にいるとのこと。

 僕とアンネラには今日使者を出したようだが、僕は学院にいなかったので伝わってなかった。
 二回生は演習で、義兄さんも寮にいなかった。使者は焦っただろうな。

 そうか、明日はシャラザードとターヴェリの戦いか。

「ですが、女王陛下。いったいどこで戦わせる予定ですか?」
 属性技ぞくせいぎを出した場合、周囲の地形が変わる。人死にだって出るかもしれない。

「いやね。他に被害がでないような場所といったら、あそこしかないでしょう」
 女王陛下が笑った。

 戦う場所は――陰月の路。

 そこで思いっきりやれということらしい。

「分かりました。この話、シャラザードに伝えておきます」
「それと、いくら陰月の路とはいっても人目につくから、始めるのは明日の夜になってからね」

 夕方までに到着して周囲を確認。日没を待ってから始めるようだ。

 そこまでお膳立てされてしまえば否は言えない。
 明日、シャラザードとターヴェリの本気の戦いが行われる。

 はてさて、どうなることやら。


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