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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 はるか昔の話。
 僕らがいまカイダと呼んでいる月には、人が住んでいた。
 そこで人と竜が協力して、月魔獣と戦っていた。

「先に逝ったって……その後はどうなったんですか?」

『さあて、アタシはそこまでしか知らないね。だけどもう、滅亡は免れないところまで来ていたし、ここにあんたらがいるってことは、魂の魔道は間に合ったようだね』

 本来、死んだ人の魂はまっさらな状態になり、その地へ転生する。
 魔道によって死した人の魂を観察し、その行方を追っていたことから、これらの考え方は早くから浸透していたらしい。

 ただし、まれに魂の浄化を得ることなく、いま僕らが住んでいる地に生まれ出る事があった。

 その魂は、浄化を免れたことでわずかながらの記憶を有したという。
 カイダにいたときの記憶を微細ながら残していた人たちは、月魔獣のいないこの地で繁栄していく。


 ターヴェリやシャラザードは、竜操者とともに月魔獣と戦い、散っていった。
 両者の確執は、そのときの状況にあったようだ。

「シャラザードは先に逝ったことを許してないんですか?」
『おそらくね。だからといって、あのときの最善は変わらないはずだよ』

 未熟であったシャラザードでは、満足な足止めはできなかったとターヴェリは言う。
 シャラザードは無為に死ぬだけ。

 結果、ターヴェリが出張ることになるが、そうすると後を託す者がいなくなってしまう。

 必然、遅延作戦は崩壊し、人類の滅亡が早まる。
 それではだれも救われない。

「以前シャラザードは、千を超える竜を従えて最終決戦に赴いたと言っていましたけど」
『そうかい。だったらあの坊やも成長したんだろうね』

 人類の最後の砦を守るため、幾層にも渡って防衛陣地を構築し、最後は全ての戦力で反攻作戦を行う。
 そういう計画だったらしい。

 そのときシャラザードが何を思い、どう戦っていたのかは分からないが、ターヴェリの思惑通り、シャラザードは伸びしろの分だけ成長し、立派に戦ったのだろうと言った。

『アタシが言えることはこれくらいかね。途中退場したんで、それ以降のことは分からないからね』

 ターヴェリの話からは、シャラザードから聞けなかった、人類が生き延びようとしていた意志が感じられた。

「ありがとうございました。これだけでも十分です。何があったのか分かった気がします」

「レオン先輩。これでよろしいんですか?」
 通訳をしてくれたアンネラが、心配そうに聞いてくる。

「そうだね。助かったよ。シャラザードが月魔獣を憎む理由はいくつもあるけれども、それのひとつがまた分かった気がするし」

 ターヴェリは、自分は最強の竜だと言った。
 シャラザードについては、「坊や」とも。

 シャラザードは、最強の存在が勝手に逝ってしまったこと、勝つことなくその地位を譲られたことに腹を立てているのだろう。
 そんな気がする。

 傲岸不遜を絵に描いたようなやつだが、その辺は繊細なのかもしれない。
 実際、ソウラン操者の青竜と戦ったときは、圧倒していた。

 青竜のことを真の戦いを知らない青二才とも言っていた。
 激戦を繰り返してきたシャラザードにとって、青竜がヌルすぎる相手なのだと分かる。

 それだけの修羅場をくぐり抜けてきたからこそ、いまのシャラザードがある。
 ターヴェリ亡き後、どれだけ頑張ったのか、少しだけ分かった気がした。

「……やっぱ、やらせるしかないのかなぁ」

「両者の遺恨を流すために、戦わせてみたらどうか」
 そう女王陛下が話していたことを告げた。

『ふむ。アタシもあの坊やがどのくらい強くなったのか興味あるね』
 ターヴェリもやりたいようだ。というよりも、竜はみな好戦的だから、否定の言葉が出てくるはずがないのだけど。

「分かりました。ターヴェリさんもそういう意向であると伝えておきます。……アンネラもいいね」
「へあっ! はい?」

 話を聞いていたよな? まあいいか。

「じゃ、僕は行きます。また連絡がくるかと思いますけど、そのときはよろしくお願いします。今日はありがとうございました」

『なに、構わないさ。それと坊やには、小さいことにこだわるなと伝えておいておくれ』
「ちょっと無理かもしれませんが、機会があったら話しておきます」

 僕は苦笑しつつ、そう答えた。
 正直に告げると、シャラザードが怒り出しそうだ。

 こうして僕は、アンネラとターヴェリのもとを辞した。
 さて、この後は女王陛下に報告だ。



 時刻が夕方から夜に変わる。
 僕は闇に溶けたまま王宮に向かった。

 シャラザードとターヴェリの確執も分かったし、この件についても女王陛下に報告しなければならない。

 女王陛下の元に向かう途中、王宮の中で見知った気配を捉えた。
「……これ、義兄さんか。どうしてここに?」

 そういえば、寮にはいなかったことを思い出した。
 指令でどこかに行っていたのだろう。

 ちょうど女王陛下に報告中らしく、同じ部屋に気配がある。
 そっと近寄り、闇の中から姿を現すと、義兄さんが真っ先に気づいた。

 続いて〈左手〉の皆さんが気づく。うん、〈左手〉のみなさん、反応が遅い。

「来たわね、レオン。シャラザードが戻ったと報告があったから、そろそろ来る頃だと思ったわ」
 女王陛下は、僕の出現にまったく動じていない。

 王都へ到着したのは朝の時間帯だったため、多くの人にシャラザードの巨体を見られている。
 王宮にその話が届いたとしても不思議ではない。

「指令を完遂しましたので、その報告にうかがいました」
「このまま話していいわよ」

 なるほど。周囲にいるのは、義兄さんと〈左手〉くらいだ。
「承知しました。……これが翻訳された史料になります。符丁で書かれていたものはいまだ解読中とのことです」

「そう。ありがとう」
 女王陛下は報告書を受け取る。
 ざっと目を通して、なにやらいろいろと納得している。

『楽園』は、旧王都からそれなりに近い場所にあるらしい。
 それを女王陛下がどう判断するかだが、口を開いたのは別の内容だった。

「魔国の残党が不穏な動きをしているみたいね」
 ここへ来てまた魔国の話か。

「不穏な動きというと、商国を占拠した軍勢でしょうか」
「いいえ。ウルスの町の近くに軍事拠点があるでしょ。そこね」

 リトワーン卿が治めるウルスの町は、たえず魔国の侵攻に晒されてきた。

 たしかに国境付近に大軍を常駐させられる施設があり、あの辺は竜国へ侵攻する場合、一番平坦な場所だったりする。

 他の場所からだと、どうしても森や山を越えてゆかねばならず、大軍の移動に不向きとなっている。

 それゆえ、両国の軍事力が集結しているのだが、大転移が近いというのに、魔国は何を考えているんだか。

「大転移は月魔獣との戦いと世間では考えているかもしれないけど、結局は人の戦いね」

 ――人の戦い

 最終的な敵はいつだって人。つまり他国だ。
 月魔獣相手に一致団結しなければいけないのに、どうしてもいがみ合いから抜け出せない。

「またひとつ国が滅ぶのでしょうか」

 前回は呪国が滅んだし、過去、大転移で滅んだ国は多い。

「そうなるかもしれないわね。呪国や……武国ぶこくのように」

 かつて、竜国の南東にあった国の名を女王陛下は挙げた。

 次に滅ぶのは?


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