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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 シャラザードに乗って、旧王都から戻ってきた。
 早朝に着いたので、王都の住民たちがシャラザードの姿を見つけて指をさす。
 朝の明るい時間帯だと、黒い巨体は目立つようだ。

 操竜場に降り立ち、シャラザードと別れる。
 このまま王宮に向かってもよいが、朝という時間はよくない。

 女王陛下も今日の政務があるだろうし、そもそも〈影〉の報告は夜と相場が決まっている。
 さて、時間を持て余してしまった。

「久しぶりに授業に出るか」

 ほとんど有名無実化している僕の学院生という肩書きをたまには行使してみようと思う。
 というか、突然授業に参加して同級生たちを驚かせてみたい。

 みんなどんな顔をするだろうか。いそいそと学院に向かったが、僕が驚かされた。
「……だれもいないじゃん」

 卒業間際のこの時期、学院の二回生は演習三昧だというのを忘れていた。
 日帰り演習と長期演習を交互に行い、それ以外でも、将来軍属になる生徒は軍の指揮下に入って訓練したりする。

「さてどうしよう」
 ガランとした教室で、ひとりぽつねんと佇む。

「あら? レオン先輩。どうしたんですか?」
 休憩時間になって一回生がわらわらと出てきたと思ったら、後ろから声をかけられた。

「やあ、アンネラ。久しぶり。任務の空き時間ができたんで、授業に出ようと思ったんだけど……」
「先輩方は昨日から演習中ですよ」

「そうみたいだね。せっかくやる気になったのに、残念だ」
「同室の先輩が言っていましたけど、今回の遠征は各地に降下した月魔獣を狩るためらしいです」

 回天かいてんによって、竜国のいくつかの町に大量の月魔獣が降下している。
 それによって大小の被害が出ているのは僕も知っていた。

 だからといって、学院生を駆り出すか。
 去年はこんなこと、なかったはずなのに。

「今年の学院生は大変だな」
 現役の竜操者と同じように派遣されているのか。

 あと二ヶ月もすれば卒業だし、実力的には問題ないのかもしれない。
 竜国は領土が広い分、本当に手が足らないのだろう。

 などと考えていたら、アンネラが変な顔をしている。
「ん? どうした?」

「教官の人たちは、レオン先輩の戦果からすると、これくらい微々たるものだからがんばれって叱咤激励していました」
 何だそれは。

「人をダシに戦地に向かわせたのか」
 いろいろと脚色された戦果もあると思うけど。

 というか、あれは僕の戦果だろうか。
 シャラザードが勝手に戦っている分も入っている気がするが。

 アンネラとそんな話をしていたら、周囲にだれもいなくなった。
「あれ? アンネラ、次の授業は出なくていいの?」

「みなさん、騎乗訓練にいったみたいですので……」
「……? あーっ!」

 すぐに分かってしまった。
 アンネラはぼっちなのか。

 シャラザードの時もそうだけど、属性竜は他の竜と一緒に訓練できないのだ。
「そっか。こういう時はどうしてるの?」

「見学……ですかね。専用の手綱がようやくひとつできたので、自由時間に飛んだりしています」

 手綱は用途によって何種類か作るのが普通で、大荷物を載せる場合は竜の背に台座をくくりつけることもある。

 材質は上質な革。
 ただし、人が使う部分だけだ。

 その部分だけ革を何枚も合わせて作成し、あとは鎖で長さを調整する。
 だが属性竜の場合、鎖だけでも半端ない長さになる。

 結局特注になってしまう。
 リンダがビックリするくらい大量の鎖を注文したっけ。

「まあ、あれだな。僕もこの時期ぼっちだったし。いやずっとか」
 そうなぐさめたら、アンネラの頬が少し引きつっていた。

 そしてこの後やることがないと言ったら、アンネラがターヴェリに会ってみてはどうかと提案してくれた。
 ターヴェリはシャラザードと同じ属性竜であるし、アンネラはターヴェリと会話ができる。

「疑問に思っていることもあるし、そうしようかな」
 シャラザードがいないところで、ターヴェリに質問してみたいことがある。



『で、あたしに用だって?』
「……とターヴェリさんが言っていますけど」

 ターヴェリとの会話は、アンネラが通訳してくれることになった。
 シャラザードもそうだが、竜は人の言うことを理解できるので、話すだけなら楽だ。

 以前シャラザードにどうやって会話できるのかと聞いたら、人の魂がうんたら、竜の魂はうんたらと長ったらしい説明をしてくれた。
 わざと難しい話をしてけむに巻こうとしているのではないかと疑っているので、それ以来聞いていない。

 今回僕がターヴェリに聞きたかったことは、シャラザードとの確執についてだ。
 シャラザードは、ターヴェリに対してかなり怒っている。

 聞いても詳細は教えてくれなかったが、それは月魔獣のことをシャラザードに尋ねたときも同じだ。
 繰り返し質問をして、シャラザードから少しずつ聞き出した。

 今回も時間があればそうするのだが、どうせならばもう一方の当事者に聞いたらどうだろうかと思ったのだ。

 シャラザードは感情の起伏が激しく、月魔獣との戦いの話になると興奮しだす。
 さて、ターヴェリはどうだろうか。

「シャラザードと確執があるようようですけど、その理由は何なのですか?」

 こういう場合、真っ直ぐ聞くに限る。
 婉曲な表現はシャラザードと話すときも使っていない。

 嫌ならば答えないし、答えられるのならば、どのような聞き方でも答えてくれるからだ。

『それは……アタシが逃げたからかね』
「逃げたのですか?」

 何に対して、どう逃げたのだろう。
 そのことがシャラザードとターヴェリの確執の原因なのか?

『中央高地がゾックに落とされ、次に北がやられた。アタシとシャラザードは協力して時間稼ぎをしていた』

「時間稼ぎ……魂の門の研究ですか?」
『……そうだね』

 今までも聞き取りをしてきたが、分かったことは多くない。

「死した魂をこの地で蘇らせる魔道の完成を急いでいた。その時間を稼ぐために遅延作戦をしたていたんですよね」

『当時、四方よもの中で最強だったアタシは、ゾックに対抗するための旗頭になっていたんだよ。アタシのあるじもよく踏ん張ってくれた。主は心優しいいい子だった。戦いなんて似合わないのに、四十年間泣き言も言わず……いや、言っていたかな』

 ターヴェリを中心として、遅延作戦を行っていたという。
 ただし、戦況は徐々に不利になっていく。

 新たな支配種の降下も確認され、人類の存続はいまや風前の灯火。
 このままでは魔道の完成をみることなく、全ての人が殺されてしまう。

 当然士気は下がる。
 それでも一日でも長く滅亡を先延ばしにするため、毎日多くの竜と竜操者が死んでいったという。

『あの坊やはまだ若くてね。けど伸びしろはアタシよりもあったさ。どっちが先にくたばるかと言ったら、アタシの方が適任だと思わないかい?』

 現存する中で最強の竜がターヴェリ。
 反抗勢力の旗頭であり、人類最後の希望だった。

 僕は理解した。
 理解してしまった。

「つまり、逃げたというのは……」
『ああ、アタシが先に逝ったのさ』

 シャラザードが怒ったのは、そのことだったのだ。

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