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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 北方の町独自の判断で人を避難させていた。とても衝撃的な内容だ。
 やはり、竜国の北方は独特だと感じしてしまう。

 領主との面会で分かったことは、旧王都との繋がりがいまだに残っていることだろうか。
 門外不出の史料は、当時から申し送りされてきたものだろう。

 代々の領主が散逸しないよう、その存在を明かさず、何百年も受け継いできたのだろう。

「考えると、気の遠くなる時間だな」

 なぜ史料を残したのか。もちろん万一のときのためだ。
 自分たちの子孫がその時になって困らないよう、確実に残るよう、知恵を絞ったのだ。

 今回、とても貴重な話が聞けた。

 旧王都を支配していた時代から、何度か王朝が変わっている。
 そのたびに新しい法が整備されている。

 為政者が変わるごとに廃棄された史料は多い。
 それまであった価値ある文書も灰燼に帰していく。

 古くなった王朝を讃える文章など残したくないのは、どの時代も同じだ。
 そして自分たちを讃える文章を残したくなるのも。
 だから王都にはそういった古い史料が少ない。

「時代に取り残された町の方が、過去に起こった事を正確に伝えているのは、なんだか皮肉だよな」
 感慨深くもある。



 シャラザードに乗って、旧王都に戻った。
 ロザーナさんに翻訳を頼んでいる手前、ここを立つわけにもいかない。

「女王陛下から、周囲の月魔獣対峙をお願いされているしな」
 数日かけて周囲の月魔獣を狩っていく。

 シャラザードは楽しそうに。そして僕は淡々と。
 月魔獣を狩り始めて三日目の朝、僕はロザーナさんに呼ばれた。

「符丁で書かれていたものを除けば、すべての翻訳が終了したわ」

 多少顔色が悪い。無理をしたようだ。

 史料の翻訳は、一度訳したあと別の人に確認してもらい、複数人で修正をかけたらしい。
 かなり入念にやったようで、これ以上の成果は得られないという。

「ありがとうございます。女王陛下も喜びます」

「それでね、レオンくん。この手記なのだけど」
「はい。何か問題でもありましたか?」

「手記を書いた人物は旧王都の役人だったわ。といっても、老齢のようだから、役職を勤め上げて余生を送っていた人かもしれないわね。そして手記の中――聞き取り調査に出てくる人だけど、どうやら『楽園』から戻ってきた人みたいね」

「えっ? ということは、『楽園』の場所が分かったんですか?」

「『楽園』への道筋みたいな具体的なものは何も書いてないの。ただし、ヒントになる文章はいくつかあったわ。でも、翻訳が確かなら……ううん、間違っていないはず。でもそうすると、少しおかしいことになるのよね」

「どういうことですか? もし『楽園』が情報通りのものならば、多くの問題が解決しますよね」

 だが現状、『楽園』はどこにあって、どのようなものなのかすら分かっていない。
 想像の域を出ていないのだ。

「手記の中で聞き取りした内容によると、『楽園』はここから片道数十日の距離にあるのよ。おかしいと思わない? ここから数十日って、思ったより近いわ」

「そうですね。馬車で移動するか徒歩で移動するかにもよると思いますけど」

「一人で移動しているから、歩きだと思うわ。当時だと馬車はほとんど存在していないし、馬は普通の人が持つには大変だったもの」

「ということは歩いて数十日ですか。一応最大で考えれば、大陸の端から端まで行けますよね」

「そうね。けど、『潮の民』が向かった島までは行けないと思うし、毎日長距離の移動は難しかったと思うの。何しろ、当時の町はいまの一割もなかっただろうし、普通は野宿を繰り返すことになるわね」

 生きていくのが辛い時代だった。
 小さな村が山間に点在していた時代、村から村へ移動するだけで大変だったという。

 なにしろ、道が整備されていないのだ。
 大きな荷物を抱えて移動するだけで体力の大部分を使ってしまう。

 そんな時代である。片道数十日では、遠くまで行くことができない。

「あれ? だとすると『楽園』はどこにあるんです? まさか技国とかそういうオチだったりします?」

「それはないわね。技国だって当時は町があったし、だれかの支配地域を楽園とは言わないもの」
「だとすると、どこになります?」

「困ったことに、手記の内容からすると今まで有力視してきた東と南は候補から外れるのよ」

 海を渡った先にある「どこか」が『楽園』ではないかと思っていたが、片道数十日ではそれは難しい。

「とすると……」

「西か北ね。そして手記にはこうあるの。深く長い洞窟の先へ……って。『楽園』にいたる最後の長い通路があるみたい」

 もし西ならば、天蓋てんがい山脈の中が有力であり、北ならば北嶺地帯を抜けたところではないかとロザーナさんは言った。

「どちらも秘境ですね」
 そこは人が生きていける場所だろうか。

「地下世界かとも思ったけど、これまでの『楽園』の史料からそれは否定されているのよね。つまり、このどちらかに『楽園』がある。そして商国はすでにその場所を掴んでいる」

「あの符丁ですね」

「そう。すでに楽園への道筋は見えているような気がするのよ。でもおかしい」
「まだ何かあるんですか?」

「ならばなぜ商国はそこに行かないのか。その理由が分からないのよ。危険なところなのか、すでにその価値がないのか」

「価値がない……あり得ますよね」
 草原は砂に埋もれ、山は禿げ上がり、川は干上がっているとか。

「もしくは、行きたくても行けないのか」

 ロザーナさんは、翻訳したものを女王陛下に渡してほしいと言った。
 同時に、符丁の暗号文書は引き続き解読を続けると伝えてほしいと。

「手記からも『楽園』は実在することが分かるわ。けど、肝心な最後の欠片が手には入ってない感じがするの。そして商国はそれを持っている。もどかしいけど、いまはそんな感じね」

「ありがとうございます、ロザーナさん。この情報を持って行けば、女王陛下もきっと喜びます」
 これは大きな進歩ではなかろうか。

「それと、レオンくん。この史料は大変貴重なものよ。だれがどこで手に入れたのか知らないけど、盗まれたものならば、絶対に取り返しにくると思うの。これはそれくらい大切なものよ。だから存在を大っぴらにしていないと思うのだけど、大丈夫よね。レオンくんも注意してほしいの」

 もしこれが竜国の手にあると分かれば、何が何でも取り返しにくるだろうとロザーナさんは言った。

 ロザーナさんはこれが商国から魔国の手に渡って、それを僕が盗み出したのを知らない。
 商国から竜国の手に渡ったと思っているのだ。

 だから、「十分気をつけます」と答えておいた。
 もし取り返しに来るとしたら、魔国だろう。

「本当に気をつけてね」
「はい」

 僕はロザーナさんと別れ、翻訳した資料を女王陛下に届ける。
 その日の遅く、僕はシャラザードとともに、旧王都を飛び立った。

「シャラザード、明日の朝には王都に着くかな」
『うむ、そのくらいだな』

 旧王都との往復は慣れたものである。
 予定通り、僕らは王都に到着した。




突然ですが、古代語について少しだけ解説したいと思います。

本来、そういうものは本文中で語るべきであるし、本文に入れられなければ別段必要でない情報だと考えられます。説明回というやつですね。

ですが、古代語と現代語(いまレオンたちが話している言葉)の違いなどを含めてどこかでしっかり書いておいた方がよいかと思いましてこの場を使うことにしました。

そもそも古代語とはなにかというと、「旧竜国で話されていた言葉」というのが正しいです。

といっても魔国を含めて、言語はみな同じルーツを持っています。
他国の言語は方言の違いくらいで、意思疎通は可能となっています。

そして古代語と現代語との違いですが、これは「古代語をより簡単にした言葉」というのが正しい説明になるかと思います。

「だったら、現代において、古代語の訳者が少ないのはなぜ?」と疑問に思うかもしれません。
少し、わたしたちの世界に当てはめて考えてみます。

古代語……漢語
現代語……ひらがな

こんなニュアンスになります。もともと難しく、誤解の多い古代語でしたが、これは文字で残すために発達した言語だからです。そのため文語と口語で区別するならば、古代語は文語となります。

具体例をあげると「玉落」という言葉があると仮定します。古代語ではこれだけですが、現代語にすると

「玉が落ちる」
「玉が落ちている」
「玉が落ちている途中である」
「玉が落ちていた」

などと訳せます。
つまり、状態、状況、結果などの区別がついてないのですね。

そのため、前後の文脈から、どの訳が相応しいか判断されることになります。
これが古代語の翻訳が難しい部分になっています。

しかも古代語は上から順に訳していくだけでなく、飛んだり、下から逆に読んだりします。
漢語のレ点や一、二点を思い浮かべると分かりやすいかと思います。

具体例を続けると「壊玉落」という語があると仮定します。
これの翻訳は

「玉が落ちて壊れた」
「壊れた玉が落ちた」
「玉が落ちている間に壊れてしまった」

などなど、いろんな訳ができてしまいます。

こうやって語が増えるに従って、訳がどんどん複雑になって、もとの意味からかけ離れていくことがあります。
これをスラスラ訳すのはとても難しく、古代語を読める人が少ない理由になっています。

ではなぜこれほど現代語が浸透したのか。

それは、漢語とひらがなを思い浮かべると簡単に分かります。
ようは、口語の方が書くときに楽だから。
たくさんの語を覚えなくていいからという、至極頭の悪い理由が入ってきます。

便利だから、分かりやすいからだけでなく、覚えやすいからと、理由がみっつ揃ったことで、現代語が比較的短期間で浸透していったのです。

以上のような設定がありますが、この辺を本文で解説するわけにもいかず、しかし文中では登場人物は知っているものとなっているため、どこかで説明しておきたいなとずっと思っていた次第です。

連載開始前にこんなことをぐちゃぐちゃ考えているあたりで、設定に凝りすぎている自覚がありますので、できるだけ読者が気づかないレベルで説明すればいいのですが、なかなか難しいです。

以上、古代語ってこういうもんなんだぁ程度で理解してもらえれば幸いです。
それではまた明日。

よろしくお願いします。
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