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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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「どういうこと、義兄さん」
 周囲に人がいないのを確認して、僕はそっと尋ねた。

「驚いただろ?」
「驚いたよ。ドロドフおじさんから聞いたから、王都で会うかもしれないとは思ったけど、なんでここで働いているのさ」

 義兄さんは僕を驚かせるつもりだと聞かされていたけど。
 たしかに驚かされたけど!

「前に購買で店主をしていた人が、腰を悪くして引退したんだよ」
「そうだったの?」

「休み中は臨時で人を置いていしのいだんだ。仕入れや商品管理ができなかったから、いま大変だよ。ここって、許可された人以外、入れないだろ」

「いや、それは知らない」
 学院は私有地なんだから、関係ない人は入っちゃ駄目だろうけど。

「魔道結界はちゃんと張ってあるぞ。竜紋持ちは無条件で通行可だから、存在に気づかないだけだぞ」
「そうなんだ」

「何のために入学式を隣の王立学校でやったと思っているんだ。ここに多数の来賓を呼べないからだよ」

 竜の学院内に入れる人は、竜紋がある人を除けば、教師や業者に限定されているという。
 家族が会いに来ても、中には入れないらしい。
 当然、パトロン希望者も同様だ。

「知らなかった」

「まあ、そういうわけで、なり手がいなかったんで、オレがやることになったわけだ。ちなみに女王陛下からの指令でもある」

「まあ、そうだろうね。僕とのつなぎ役でしょ。でも、ソールの町はいいの?」

「オレ以外に〈右足〉はいるし、雑貨屋は親父たちで大丈夫だ。もともと、店を回すのにそれほど人数は必要なかったんだ」
「ということは、姉さんは呼ばないの?」

「ここはおまえが卒業するまでの二年間限定だし、時々は帰るさ。そもそも一緒に働けないしな」
 敷地内に入る許可を得るのは、なかなか大変らしい。

 聞いたら、義兄さんは購買の奥の部屋に住み込みだそうな。
 仕入れも決まった業者がいるので、出歩く必要はないのだとか。

「おまえはこっちでも〈右手〉をやるんだって? よく引き受けたな。竜操者の勉強だけでも大変だろうに」

「どのくらい指令があるか分からないし、女王陛下もそんなに無茶な割り振りはしないと思うよ」
〈右手〉の数を減らしちゃったので、その補完もあるんだろうな。

「そっか。おまえの担当は俺だが、引き続きシルルも担当することになった」

「シルルって?」
「名前を知らないのか。一昨日まで一緒に仕事をしていた〈右足〉がいただろ」

「ああ、あのお姉さんね。シルルというのか」
 はじめて名前を知った。

「その様子じゃおまえ……」
 と義兄さんが言いかけたとき、背後で嬌声があがった。

 目をやれば、花束を持った女生徒が顔を真っ赤にして照れている。
「……あれは?」

「昨日の今日だしな。入学式で親しくなった相手から花を贈られたんだろうさ。どうやらまんざらではない様子だな。送った相手は貴族か大商人か」

「パトロン候補か。事前に花束の予約をしていたのかな」

 行動が素早いな。
 昨日は夕方まで茶話会が開かれていたようなので、翌朝早くに花束を持ってこさせるには、事前準備が欠かせない。

 新入生のうち女性は十人だった。パトロン候補は男性か?
 倍率がどのくらいになるか分からないけど、たった十人の竜操者を狙うとすれば、他者に抜きん出る必要があるんだろう。

「ん? こっちきた?」
 女生徒に花を手渡していた店員が歩いてくる。
 地味なエプロンと、花束を入れてきた空籠を持っている。

「やあ」
 義兄さんが挨拶をした。知り合いのようだ。
 僕は邪魔にならないように脇に退けようとすると、目が合った。

「私が担当している方は数が多いのですが、引き続きレオンくんも見ることになりましたので、よろしくね」

 ウインクした花屋の女性に僕は既視感があった。

「その目……お姉さんか」
 そう、一昨日さらっと僕を脅迫した黒衣のお姉さんだ。女王陛下の〈右足〉で、いまは花屋のお姉さん?

「シルル・ヴェーラーと言います。よろしく」
「どうしてお姉さんがこんなところに?」

「さっき言っただろ。ここは許可された者しか入れないって。生徒に花束を届けることができるのは、このシルルだけだ」
 そういえば、そんなことを言っていたな。

「どこの花屋で注文しても構わないのですけど、届けるのはこのわたし一人なのです。ですから、寮の庭も大丈夫です。毎晩だって会いに行けますよ」

 考えてみれば、立ち入り制限をしている場所に入ってくるのだ。
 特別に許可された人か、魔道に秀でた人くらいしか無理だろう。

「お姉さんは偶然? それとも……」

「偶然です。一応〈右足〉として、だれかひとりくらい竜の学院に入れる人がいないと困りますので。でもそのせいでレオンくんの担当になったのですけどね……」

 自分の手には余りそうですと、シルルお姉さんは言った。
 どうやら僕は問題児扱いらしい。なぜだろう。

「慣れていないと、付いていくのも一苦労だしな。闇に潜られると俺でも分からん」
「期待していますわ、クリスタン同志」

「あんまり期待されても困るんだけどね」
「いえいえ、ふたりでがんばりましょう」

「ふたりって……なにこの包囲網」
 どうも〈右手〉の仕事が増えそうでならない。

「期待しています。……ではわたしはこれで。また会いましょう、レオンくん」
 お姉さんは颯爽と出ていった。

「意外と身近にいたんだな。つか、王都って僕が思っているより狭い?」
 そんなはずがないのだが、ついそう思ってしまう。

 これで『悪食』まで近くにいたらと考えたら、頭痛が再発した。

 ああ、パンを焼きてえ。授業前にもう一回行っていいかな。

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