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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 ロザーナさんが資料の翻訳を請け負ってくれた。

「手記の翻訳だけなら二、三日で終わるけど、その間レオンくんはどうするの?」
「周辺の月魔獣を狩っておくように女王陛下に言われたんだ」

「そう。あまり被害報告は聞かないから、少し遠出した方がいいかもね」
「なるほど。じゃ、普段行ってなさそうなところを聞いて、向かってみるよ」

「がんばってね」
 ロザーナさんに送り出されて、僕は月魔獣狩りにでかけた。

「たしかに、それほど多い訳じゃないんだな」

 ヒューラーの北西にあたるこの場所には、大型種の姿はほとんどない。
 事前に竜操者に聞いたところ、陰月の路付近は、通常よりも月魔獣が少なくなっているらしい。

 これはシャラザードにとって、退屈な狩りになるかもしれない。

『主よ、あちらに固まっているぞ』
「そうか。行ってくれ」
『心得た!』

 僕の心配は杞憂に終わった。狩りに飽きる事はないようだ。
 シャラザードは月魔獣がいる限り、最後の一体まで狩り尽くす。

「とすると、問題は陰月の路以外だな」
 回天によって、陰月の路から外れた場所に月魔獣が落ちている事になる。
 月の軌道が安定していないので、予測を立てることすらできない。

 大陸中のどこに落ちるか分からないため、被害が出てからの対処となる。
 しかも大型種が降下すれば、複数の中型竜が必要だ。

「操竜会にある出現マップや、王城にある被害状況を一度見てみたいな」
 被害の多い場所にシャラザードと向かえば、それだけ助かる人も出てくるはずだ。

「まあ、もうすぐ大転移だし、そうすれば月の軌道も安定するか。ということはロザーナさんが言っていた難民の流入の方が気がかりだな……陰月の路の北側だっけか」

 陰月の路の北側には七大都市のひとつ、クロウセルトの町がある。

 それだけではなく、竜国には大小の村や町も存在している。
 そこへ、魔国から難民が助けを求めてやってきて、混乱しているという。

 竜国の北方は裕福とはほど遠い。
 難民すべてを受け入れることができず、追い返しているのが現状だという。

 かといって、竜国の中央部に行くことはかなりの困難を伴う。
 歩いて陰月の路を無事に渡れるはずがない。

「陰月の路を自由に行き来するのは竜操者くらいだしな」

 忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)の中でも、旧王都にいる竜操者はみな空を飛べる。

 彼らならば自由に行き来できるが、通常の難民には陰月の路を越える手段がない。
 追い返されても、竜国側に向かうしか手がないのだろう。

「……見てくるかな」

 移民の流入は、話だけだとよく分からない。
 実際に自分の目で見てみたい。

「よし、シャラザード。予定変更だ。西へ行くぞ」
『ん? そっちに月魔獣がいるのか?』

「月魔獣……おまえは相変わらずブレないな。それは保証はできないけど、たぶんいると思う。魔国との国境付近は野放し状態だろうし」

『国境付近だな。よし分かった。すぐに行くぞ』
「おまえ、人の国境なんか関係ないって前に言っていただろうに」
 このかわり身の早さは見習いたいほどだな。節操がないとも言うが。

 意見もまとまったことだし、僕らは進路を変更した。



「……これは酷いな」
 道中、シャラザードがあまりにうるさいので、先に月魔獣がいそうな国境付近へ向かった。

 予想どおり、竜操者の巡回が行われておらず、多くの月魔獣がいた。
 それだけではなく、移民と思われる魔国民の死体も多数あった。

「死体と荷物が一緒ってことは、家財道具を持って魔国から逃げてきたんだよな」

 魔国の首都イヴリールが落ちたことは、もう知られているのだろう。
 陰月の路は、魔国領内の南西側から東側へと伸びている。

 ここが竜国と大きく違うところで、魔国の場合、陰月の路北側の方がより発展している。
 首都が落ちたことで物資が届かなくなったり、商人が逃げ出したりしたのだろう。

 そして入ってくるのは悪い噂ばかり。
 これはもう国境を越えて逃げるしかない。
 そう思ったとしても不思議ではない。

 金に換えられそうなものを持って竜国へ出発したが、途中で月魔獣に襲われたといったところだろうか。

「シャラザード、周囲一帯を掃討するぞ」
『任せろ!』

 見える範囲ですら数百体の月魔獣がいる。
 ここはもうずっと前から放置されていたのだろう。

 そんな状態だと知らずに希望を抱いて国境を越えたのかもしれない。

『がああああああ!』
 シャラザードが奮戦している。危なげなく月魔獣を殲滅している。

 時間がかかったが、通常の月魔獣が多かったおかげで、シャラザードは苦もなく掃討することができた。

 大型種だけ数えたところ、十四体だった。
 大型種はここにいた月魔獣全体の一割弱くらいだろうか。

 他の竜操者が巡回していれば、助かった命もあったかもしれない。
 そう思うものの、これはどうしようもないことなのだろう。

「今日はもう遅いし、町に向かってくれ」
『あい分かった』

 陰月の路にほど近い町や村の場所ならば、一応すべて頭に入っている。
 学院での勉強で補習を受けないために、一生懸命覚えた。

「この先にウロンの町があると思うんだけど」
『見えたぞ。あそこか?』

 シャラザードが見つけたというので向かってみたが、様子がおかしい。
「人の気配がないな」
『どうする? 降りるのか?』

「そうだね。調べたいから降りてみよう」
 町中に竜舎があるので、そこに向かった。

 町の上空を飛ぶ。
 時刻は夜にさしかかったというのに、灯りは皆無。
 通りには人っ子ひとりいなかった。

「廃墟だね。どうしたんだろ」
『さあて。主よ、どうするのだ?』

「もちろん降りるよ。今夜はここに泊まって、明日の朝、町を調べてみよう」
 僕は安全のため、シャラザードの影に溶けて一夜を明かした。

 翌朝、シャラザードに昨日の様子を聞いてみた。
『夜中か? 生きている者の気配はしなかったな』

「やっぱりそうか。……住民はどこに消えたんだろ」

 やけに朝日がまぶしかった。


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