挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

427/655

426

 資料の配達とはいえ、女王陛下からの緊急指令だ。
 すぐに行かねばならない。

 王宮から戻った翌朝、僕はシャラザードに乗って旧王都を目指した。
 寮に戻ったかと思えば、また出発だ。

 寮生活二年目は、本当に忙しい。どのくらい同級生と話していないだろうか。
「どうせもうすぐ卒業だしな、みんな分かっているさ」

 出発前、クリスタン義兄さんに事情を話に行くと、そう言っていた。
 だが本当に今年は、あちこち出かけてばかりだ。

 僕が軍属にならないのにこの忙しさ。
 同級生たちは僕を見て、どう思うのだろうか。

『主よ、考えごとか?』
「考え事……まあ、そうだけど、大したことじゃない」

『ふむ。悩みがあるのならば、相談に乗るぞ。なんといっても我と主は一心同体であるしな』
 一心同体って……単独行動が板についてきたシャラザードが言うと、妙に違和感がある。
 最近は自由行動が過ぎるだろ、おまえは。

 というか、普通の竜は相談に乗ったりしないな。僕とシャラザードの関係は、普通の竜と竜操者とはまったく違う。
「一体僕は、どこで間違えたのだろう……いや、今更か」

『主よ、何か悪いものでも喰ったのか?』
 シャラザードが心配してくれた……のか? どちらかといえば、最近機嫌が良いのでその延長線上のような気がする。余裕があるから、まわりに口を出したくなるアレだ。

「気にしないでくれ。同級生のことを考えていただけだから」

 僕は彼らが簡単に死んでほしくない。
 だが、シャラザードとは違い、小型竜を得た彼らの多くが年内、もしくは数年のうちに死んでしまうのではないかと心配している。

 大型種には勝てないし、大転移で大量の月魔獣に囲まれても同じだ。

 それを知ってか知らずか、回天がおきてから同級生たちの顔色はすぐれない。
 なんでこんなときに竜を得たんだと思っている者も何人もいた。

 とくに軍属になることが決まっている人は、それが深刻だ。
「いろいろ話したかったんだけどなぁ」

 卒業して会えなくなる前に、彼らと腹を割って話したかった。
 大転移を生き抜けるよう、僕に話せることもあるはずだ。

「……そういえば、シャラザード」
『なんだ、主よ』

「ちょっと思い出したんだけど、この前勝手に月魔獣を狩りに行ったよな」
『さあて、何のことやら、分からんな』

「とぼけるのはいいから。……それで、僕がいなくてもどのくらい自由に動けるんだ?」
『狩りに行って戻ってくるくらいはできるぞ。難しいことはできんがな』

 やっぱりそうか。
 前にシャラザードが言っていたが、乗り手――つまり竜操者がいるといないでは、戦い方が大きく違ってくるという。

 竜単独だと戦略性がなくなるというか、ただ真正面から突っ込んでたたきつぶすしかやらなくなる。

 戦いが不利になろうとも絶対に引かない。
 弱い敵、倒せそうな敵を狙うこともしない。目の前にいる月魔獣に対峙してしまうのだ。

 つまり、戦い方が無茶苦茶雑になる。
 弱い敵ならばそれでもいいが、敵が少しでも強くなったり、多くいたりすると途端に苦戦してしまう。

 人にもいるが、喧嘩で頭に血が上って、ミエミエの攻撃に引っかかったり、格下に負けたりするような、アレだ。

「僕がいなくても狩りに行けるか?」
『無論、問題ないぞ』
「…………」

 即答するあたり、問題ありそうな気がするが、もしシャラザードにそれができるならば、僕の行動範囲も選択肢もかなり広がる。

「ちょっと思い立って、父さんに修行をつけてもらいに行こうかと思うんだ」
『なるほど。その間、我は狩りをすればよいのだな。問題ない、問題ない。ぐふぃふぃ』

「おまえ、笑い方が変だぞ」
 本当に大丈夫だろうか。

 バシリスクとの戦いで今のままの自分では勝てないことが分かった。
 勝てるようになりたいし、逃げる以外の手段があれば確保しておきたい。

 強くなるなら、父さんに聞くのが一番だ。

 といっても、シャラザードをソールの町に預けっぱなしで修行に明け暮れるのもどうかと思う。
 シャラザードの単独狩りができるのならば、少し真面目に考えてもいいかもしれない。

 シャラザードとそんな話をしているうちに、旧王都に着いた。
 ここは飛竜でしか侵入できないため、すぐに竜務員がやってくる。

「よろしくお願いします」
 シャラザードのことはよく分かっているので彼らに任せ、僕は研究所に足を向けた。

「町中の警戒は厳重だな」
 竜操者だけでなく、訓練された者たちの気配がする。
 侵入者対策だろうか。

 こちらを窺う気配に気づかない振りをして建物の中に入ると、見知った人が出迎えてくれた。

「レオンくん、いらっしゃい」
「お久しぶりです、ロザーナさん」

 出迎えてくれたのは、ここで古代語の研究をしているロザーナさんだ。
『潮の民』との接触のあと、ロザーナさんは忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)の一員となって、ここで研究している。

「研究所の窓からシャラザードが見えたからもしかしたらと思ってね。私が言うのもなんだけど、こんな所にどうしたの?」

「女王陛下からの依頼で、古代語で書かれた書類の解読をお願いしに来たんです」
「へえ、どういうのかしら。『楽園』関連ならば、私が引き継いでいるから大丈夫よ」

「資料はこれなんですけど、お願いできますか」
 資料を渡すと、ロザーナさんはものすごい早さで読み進めていく。

「なるほどね。ざっと目を通した感じだと、日記……というより手記ね。書き手が経験してない事と言うのかしら。見聞きしたことが一緒に書かれているわね。訳すのはちょっと骨がおれそうよ」

「もうそういうことも分かるんですね」

「なんとなくね。正確なところは分からないけど、これを書いた人は『楽園』に行ったことはないみたい。だけど、中身を知っている。そして見聞きしたことを直接書き込んでいる匂いがするわね。『楽園』からの帰還者と直接会って聞き取り調査をしているのかしら。でもそれにしては年代が合わないわね」

「年代ですか?」

「古代語は使う時代によって、語彙が少しずつ変化しているのよ。簡略化するために新しい言葉を生み出したりね。けどこれは古代語の中では比較的古い部類に入りそう。ちょっと書かれている内容と時代が合わないわね」

 よく分からないが、その辺の所も含めてロザーナさんが訳してくれるそうだ。

「それと資料の残り半分なんですけど。これも古代語を使っているんですけど、肝心な部分が符丁で書かれているらしいんです。できたらで構わないらしいけど、訳してほしいって言っていました」

「古代語が暗号みたいなものなのに、それに符丁まで使われているの? できるかどうか分からないけど、一緒に見ておくわ」

「頼みます。それで回天がもうすぐ終わりますけど、こっちはどんな感じですか?」

「月がゆっくりと北上するから、この辺はどちらかというと危険地帯から外れるのよね。でもどうなるか分からないから、一時的に移動する準備をしているわ」

 ここはヒューラーの北にあるとはいえ、方角的には西よりだ。
 大転移で月魔獣の大量降下があれば、その範囲に入ってしまう。

「僕に手伝えることがあれば言ってください」

「ありがとうね。今のところは大丈夫かしら。……それより、ここの竜操者の人たちはいま周辺の偵察に力を入れているのだけど、魔国は酷い状況になっているようよ。聞いている?」

「首都に支配種の月魔獣がいるとは聞いたけど。それのことですか?」
 ウルスの町でも、それは確認済みだ。

「魔国王不在のせいで、魔国の北の民がみな竜国側に逃げてきているのよ。町の中で小さな衝突が起きているみたい。それと魔国にいる月魔獣は、本当に制限がなくなったみたいで、いま首都周辺は月魔獣で溢れているわ」

 すでに首都周辺には近寄れないらしい。

「王都ではそんな話は流れてなかったですね」

「情報を統制しているのかしら。ここにいると、逆に他の町の話がほとんど入ってこないのよね。支配種が動かないと考えているのかもしれないけど、竜国の防衛がどうなっているのか、心配だわ」

 そろそろ大転移の大量降下が始まる。
 その準備が出来ているのか、ロザーナさんは心配していた。

 僕はどう答えればいいのか分からなかったので「そうですね」とだけ言った。
 本当に防衛はどうなっているのだろう。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ