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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 シャラザードの口の中からようやく出られた。
 というか、出してもらった。

「唾液でべとべとだよ。なんで、口の中に入れたんだ? 僕は掴んでくれとお願いしたはずなんだけど」

『主は月晶石を集めておったではないか。我が代わりに集めておいてやったのだ』
「月晶石?」

 シャラザードの両手に月晶石がたっぷり握られていた。

「そういうわけか。両手が塞がっていたな仕方な……ん?」
『どうした、主よ』

「なんでおまえが月晶石を持っているんだ?」
『もちろん、月魔獣を狩ったからに決まっておろう』

「いや、いや、いや。どこにいたんだよ、そんなに大量の月魔獣が。それに月晶石の大きさからいって、大型種ばっかじゃな……お・ま・え・ま・さ・か!」

『なんだ?』
「言え! どこで狩った? まさか、魔国領に侵入したんじゃないだろうな」

『我は人が引いた国境などよく分からんからの。ぐふふ』

 シャラザードそっぽを向く。
「ぐふふって、おまえ何してんだよ! 姿を見られてないだろうな。つか、計画的だろ!」

『さあて』
「おまえ~~!」

 他国領で竜が暴れたら、小競り合いじゃ済まなくなる。

 竜国は領土拡大政策を採ってないから、勝手に侵略すると国政にも反していることになる。

「というか、普通に謹慎案件じゃないか!」

 バレてないよな? うん、きっとバレてないはず。
 月魔獣が大量にいる場所に人なんかいないと思う。

 いないよな。いないといいな。
 でもちょっとだけ覚悟しておこう。

『主よ、何を悩んでおるんだ。我が相談にのってもよいぞ』
「おまえのせいだよ!」



 王都に着いた。
 ターヴェリのこともあるので、シャラザードはいまだ操竜場にしか帰れない。
 学院はそれほど離れていないので、僕は歩いて戻る。

「さて報告書を書くか」
 シルルお姉さんからの依頼だったので、報告書を書いて渡せば任務終了だ。
 と言っても寮内では書きにくいので、義兄さんの部屋を借りる。

 ちょうど書き上がったころにお姉さんが来た。
 僕のこと、見張ってないだろうな。

「レオンくん、お疲れ様。昨日、シャラザードが操竜場に舞い降りたって聞いたから、そろそろかなと思って来てみたの」

「ちょうど報告書が書き上がったんですけど、成果はいまひとつですね。報告書も西の都の現状についてが主になります」
 潜入した瞬間に居場所がバレるって、どうすりゃいいんだか。

「もともとそれが指令だったわけだし、いいんじゃないかしら。他の〈影〉なら潜入すらできないもの」

 あの陣容だと見つかったら、逃げられないだろう。
 二人目は出さない方がいいと思う。

「これが報告書です。それと、向こうで手に入れた書類。持ち出せたのはこれだけですね。内容は古代語で書かれていたものが半分。何かの符丁で書かれているのが半分でした。帰りがけにシャラザードの背中で読みましたけど、僕にはさっぱりでした」

「そう。そのまま女王陛下にお渡しして判断を仰ぐわ。ありがとうね、レオンくん」
「いいえ、どういたしまして」

 お姉さんは上機嫌で去っていった。

「西の都はどうだったんだ?」
 義兄さんか聞いてきた。報告書は僕ひとりの時に書いたので、義兄さんは中身を知らない。

「バシリスクとチェスターと戦ったよ。戦った? 逃げてきた感じかな」
「おまえっ。よくバシリスクから逃げられたな」

 そう言うものの義兄さんは、あまり驚いていない。

 闇に溶ける僕ならば平気だと思っているのだろう。
 光を発する魔道使いがいなければ、あれほど苦労することはなかったと思う。

 光の魔道使いとバシリスクが組んだ場合、僕の優位性がなくなってしまう。
 早めに光の魔道使いを処理したいな。僕はもう行きたくないけど。

「もう二度と潜入したくないくらいには厳しい所だったよ」
「そうか。おまえが無理なら、おれの方も心当たりがなくなるな」

「もともと魔国城には潜入禁止令が出ていたよね。今回、魔国王があそこにいたから、城が移動したようなものだったんじゃないかな」

「一国の城は容易に入り込める場所じゃないからな。みすみす優秀な者を失うことが分かっていて潜入させるはずがない。魔国城はその最たる場所だ」

 今回の潜入だって、相当難易度が高いことは承知の上で、指令が来たらしい。
 緊急性が高いのと、占領したばかりの都市ならばまだ生きて情報を持ち帰れる可能性があったからだと。

「報告書にも書いたけど、あれじゃ死にに行くようなものだと思う」
 魔国王のまわりは、洒落にならない魔道使いが多い。

「なるほどな。さすがに魔国は侮れんな」

 義兄さんとそんな会話をしてから三日目の夜。
 寮の庭に気配が現れた。

 お姉さんが来たようだ。だけど、なぜ?
〈影〉として働いたあとはある程度の休暇が与えられる。それは暗黙の了解となっていたはず。

「どうしたの?」
「きゃっ!」
 お姉さんの後ろに現れたら、驚かれた。

「慣れているかと思ったけど」
「慣れていても、いきなりは怖いわね。寮にいると思っていたら真後ろに立っていただなんて。ちょっと寿命が縮んだかも」

 お姉さんは胸をなで下ろしていた。
「それでまた指令?」
「いいえ、今回は違うの。女王陛下がお呼びよ」

「あれ? また?」

 報告書だけで済ませたのかいけなかったのだろうか。
 だが指令を持ってきたのはお姉さんだし、問題ないはずだけど。

「陛下が呼んでいるんだけど、今日来てもらえるかしら」
「僕はいいけど……何の用事だろう」

 僕はもうすぐ学院を卒業するわけで、そうしたら王都からいなくなる。
 その前にできるだけ、指令をやらせてしまおうとか? さすがにそれはないか。

「分かった。すぐに行ってくるよ」
「お願いね」
 僕は闇に溶けた。

 かって知ったる地下の道だ。そして王城の庭は僕の遊び場。
 新設された罠をかいくぐって、僕は女王陛下の前に現れた。

「待っていたわ」

 お姉さんと違って、女王陛下は驚くことはなかった。
 近くにいる〈左手〉のみなさんの方が驚いている。

「お呼びと伺いまして、参上しました」
「いつも鮮やかね」

「……?」
 なんのことだろう。

「技術供与のおかげで、他国にこれまで流れていなかった機械式の罠が設置されていたと思うのだけど」
「どこかにありましたっけ?」

 最近、機械式の仕掛けがある場所ばかり通過するので、躱すのが当たり前になってきている気がする。

「まあいいわ。それでレオン」
「はっ」
「これを持って旧王都に行ってもらえるかしら」

 そう言って女王陛下は、僕が西の都から持ち出した資料を掲げて見せた。


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