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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 一夜明けた西の都。王宮から見た倉庫街は酷い惨状だった。

 日が昇る前、チェスターのもとには、最初の被害報告が届いた。
 倒壊した倉庫の数は実に二十三棟。想像以上である。

 倒壊した建物の中にいた兵はたまったものではなかっただろう。

「被害状況は、まだ算出できないみたい」
『瞬移』のララが申し訳なさそうに、チェスターへ報告した。

「算出できないとは?」
「月魔獣を排除するため、物資と装備のすべてをあそこに集結させていたから……」

 一両日中にも進軍する予定であったため、すべての物があの倉庫に集められていたという。
 これから崩れた残骸の中からそれらを掘り出さなければならない。

 瓦礫の下に使えるものがどれだけ残っているか未知数であり、いまは怪我をした兵の治療を優先しているため、それらの作業はまったく行われていないというのだ。

「すぐに動けるよう一カ所に集めていたのが徒となったか」
 まさか誰も倉庫自体が狙われるとは思わない。

「亡くなった兵もいるし、怪我で動けなくなった兵が多いみたいなの」
 むしろ怪我をしていない兵の方が珍しいくらいだという。

「物資の掘り起こしにどのくらいかかりそうだ?」
 それがなければ始まらない。重要なことだ。

「どんなに急いでも数日はかかるわね。そもそも戦力が半減したから、もとの作戦が使えるかどうなのかちょっと厳しそう」
 控えめに言うララだが、チェスターはその胸の内をほぼ正確に理解した。

 戦争に合わせた装備で月魔獣戦。ただでさえ勝算は魔国領側にいる兵頼みだったのだ。
 これでこちらにいる兵が半分に減ったならば、勝率は一気に下がる。

 もとの作戦など、決行できるわけがない。

「陛下にお伺いをたてるしかないだろうが……くっ。どうしてこんな!」
 不幸続きである。忍耐強いチェスターであったが、次から次へと難問がやってきて、泣きたいほどであった。

 いっそ全てを投げ出してしまいたい!
 そう口から出かかって、チェスターはゾッとした。

「それと倉庫街が使えなくなったから、彼らは泊まるところがないの。移動しなければならないのだけど。どこがいいかしら」

「空き地に分散して天幕を張るしかあるまい。機械式の仕掛けが稼働中の倉庫には手を出さないよう、もう一度伝えてくれ。さらに被害が増えても困る」
「そうね、分かったわ。じゃ、伝えてくるから」

 すぐにララは戻っていった。
 チェスターはそれを見送りつつ、その後ろ姿が疲れているなと感じた。

 そしてひとりになったチェスターは、誰にも見られない場所で頭をかかえた。

「拙い……拙いぞ、これは。魔国領に戻る作戦は間違いなく失敗する」
 戦力が半分になっただけでなく、物資もやられた。これでは士気もどん底だろう。

 かといって、食糧だって底をつく。
「くっ、返す返すも黒竜の竜操者め。噂通り、なんて奴だ!」

 潜入してきた黒衣の敵は、竜国の〈影〉だろう。あそこにいたのは、回収されるのを待っていたに違いない。そうチェスターは考えた。

 竜を使って〈影〉を送り込んできたのは珍しいとチェスターは考える。竜国の関与をほのめかしてきたのはどういった意味があるだろうか。

〈影〉はこちらの情報を探るため。竜はこちらの戦力を削るためだろうか。
「……いつでも襲えるという脅しか? 竜国の女狐め。こんなときに嫌な手を打ってくれたわ」

 魔国軍が西の都で孤立したところを狙われた。
 これが昼間なら、バシリスクが竜の一部でも石化できたであろうが、闇夜を狙ってやってきた。

 大軍を派遣せず月のない夜に一体だけといい、石化の対策はしっかりしているように見える。

「まずは陛下に被害状況の報告だな」

 兵の大部分が大なり小なり怪我をしている。
 それを受けて魔国王がどう判断するか。

 チェスターは重い足取りを引きずって、魔国王がいる宮殿に向かった。

               ○

「斥候が報告に戻ってきただと? まだ交代には早かったはずだが、何があったのだ?」

 宮殿に入る前、チェスターは守護兵からそんな報告を受けた。
 斥候は各方面に多数、そして複数放っている。

 数日に一度、交代要員を派遣して、前任者が報告に戻ってくる。
 ただし、何か問題があればすぐに帰還するように取り決めてあった。

 交代以外で斥候が戻ってきたのは初めてのことであった。
 兵に詳細を訪ねるが、首を横に振るばかり。

「いや、そうだな。話は直接陛下に聞くことにするよ」
 どうやら、余裕を欠いているようだとチェスターは思い直した。

 ここで内容が分かるわけがないのだ。
 チェスターは魔国王がいる部屋を目指す。

「おお、チェスターか。ちょうどよいところにきた」
 魔国王が手招きをする。なぜか機嫌がいい。

「昨夜の襲撃に関する報告に参りしました」
「うむ。いまな、我が国の境を見張っていた者が報告に来た」

「魔国領の国境ですか」
 何もなければ、すぐに兵を出して月魔獣戦を仕掛けにいく場所だ。

 斥候は月魔獣戦に備えて、遠くから監視していたはずだ。

「ここ数日、空から黒竜がやってきては月魔獣を狩っておったらしい。大型種を含めて残らずな」
「なっ!?」

「信じられんことに、事実だそうだ。月魔獣がいなくなったゆえに、報告に戻ったようだ。これにより西の都と我が領の間に敵は存在しなくなった。今すぐにでも戻ることができそうだ」

「そ、それはおめでとうございます」
 それはめでたいことだと思う反面、どういうことかとチェスターは頭を働かせた。

 昨晩〈影〉を回収に現れた黒竜は、当然竜国から〈影〉を連れてきたことになる。
 今回の報告で、〈影〉が活動している間、黒竜とその竜操者が何をしていたかが分かった。

「あそこで狩りをしていた理由はなんでしょうか」
「さて、どのような意図があるか分からんが、僥倖ぎょうこうには違いない」

 魔国王も分からないらしい。チェスターも理由を見つけられなかった。

「我々を早く追い出したかったのでしょうか」
 それをして、竜国になんの利益があるのか分からないが。

「どうであろう。ただ、ここにあった大転移の資料を含めて商国が集めた多くの資料は手に入った。首都にある資料と合わせれば、かなりのことが分かるのではないか」

「そうですね。とくに『楽園』の情報はありがたいです」
「商国が隠しているとは思ったが、その資料も見つかった。あとは解読するだけだ。多少の混乱もあったら、魔国の未来はまだ閉ざされてなさそうだ」

「はい」
 チェスターも同意した。商国に侵攻した理由のいくつかは失敗したり、失われたり、破壊されたりしたが、『楽園』の情報だけは手に入れることができた。

 魔国王とチェスターの間でほんわかとした空気が流れたとき、文官のひとりが駆け込んできた。

「大変でございます。『楽園』について書かれた資料が、昨夜奪われました」

「「な、なんだってぇー!?」」


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