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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 僕に気づかれずに屋上に現れた敵。
 実際に見ると分かる。隙きがない。しかも強敵の気配をまとっている。

 闇の中とはいえ、倒すには時間がかかりそうだ。

 すぐ下の階に敵が大勢いる以上、ここで暢気に戦うわけにはいかない。

 会話しても情報が得られなかったし、このまま逃げるか。
 さて、敵の目の前で闇に溶けるにはリスクが高い。

 いっそ屋上から飛び下りて……と思っていたら足下が急に心細くなった。床を踏みしめている気がしない。
 なんだこれは。身体を浮かす魔道? そう思ったら、あさっての方向へ落下・・させられた。

 敵の魔道の正体が分かった。
 重力を操る魔道だ。
 こんなのを使う者は限られている。

 かつて僕は、魔国十三階梯と戦った。
 そのあとで色々調べたが、彼らの情報の多くは秘匿されていた。

 分かるのは名前や大まかな能力のみ。それも合っているのか疑わしいものだった。
 ただし、いくつかは広く知られている魔道があった。

「この魔道、序列二位のチェスターか」
 重力を自在に操り、人や物を軽々と飛ばしてしまう。

 分かっていても対処が難しい魔道だ。
 噂では、遮蔽物の陰に隠れていても逃れられないという。

 どこか掴まるものがあれば……そう思ったが、さすがに慣れたものらしく、構造物がある方へは飛ばされなかった。

「くっ、ならばこれで」
 僕は手首の返しだけでナイフを投げた。

 つぶてにしようかと迷ったが、どちらをただ投げても無駄だろう。
 序列が上の連中は魔道なしでも強いと評判だ。

 だからこの場は投げナイフである。無論、それだけでは芸がない。
 投げたナイフに数瞬遅れて、同じナイフが飛んでいる。

 二本のナイフがピッタリ重なって見えて、遅れて届くナイフに気づかれないようになっている。

 狙う場所は首元と心臓。
 だが、好き勝手に僕の身体を飛ばしていたため、狙いが少しずれた。

 心臓と脇腹の位置に向かったようだ。
 案の定、一本は避けられた。だが、陰になったナイフがうまく脇腹に刺さった。

 敵が苦痛に顔をゆがめた。
 追撃を……と思ったら、今までより数倍の力で上に跳ね上げられた。

 どうやらチェスターは、重力を操るだけじゃなく、その強さも自在に変えられるらしい。
 ほとんど一瞬で空高く舞い上げられた。

 このまま屋上の床に落とすつもりだろう。
 これだけの力で叩きつけられれば、人の身体など原形を留めることは不可能だ。

「だけど、気配は読めなかったようだな。――シャラザードッ!!」

 僕が叫ぶと、黒い竜が滑空してやってきた。
 僕は、チェスターの魔道でやたらめったら飛ばされているときから、シャラザードの気配に気がついていた。

「シャラザード、僕が落ちないよう掴んでくれっ」
『あい分かった、主よ』

 打てば響く応えがあった。
 さすがシャラザード、頼りになる。

 ――ぱっくーん

 喰われた。

「シャラザード、おまえ、何やってんの?」
『もぐもぐぅ、もぐぐうぐぐ(主の、を持っておるのだ)』

 何言っているのか、分からない。

「もういい。とりあえず、逃げるぞ」
『もぐもぐっぐ(あい分かった)』

 本当に分かっているんだろうか。

 口の中でもシャラザードが向きを変えたのが分かる。
 分かってくれたのかな。

 そう思っていると、シャラザードの身体がグラリと傾いた。

「お、おい、シャラザード。どうした?」

『むがぁ、むがぁあ(目がぁ、目がぁあ)』
「なに? 何て言った?」

 口の中でもシャラザードが慌てているのが分かる。
 少しして、衝撃が立て続けにおこった。

 身体が揺れる。外の音が酷い。

 何があったんだ? 口の中だと音と衝撃だけしか分からない。
 けどこれ……もしかしたら墜落して何かを壊した?

 破砕音がまだ聞こえてくるだけど、外の様子はどうなっているんだ?
「シャラザード、おい、どうしたんだ?」

               ○

「なんだ!?」
 重力の向きを変えようとしたところで、急に魔道の手応えがなくなってしまった。
 不審に思ってチェスターは虚空を見上げた。

 真っ黒な空しか見えない。

「直前になにかあったな」
 床に叩きつけようとした瞬間、敵が叫んだのが聞こえた。敵の魔道か?

 空中でどうやって逃げたのか。
「いや、いる!」
 恐ろしいほどの存在感が空の高みにある。

 どうして今まで気づかなかったのかと思うほど、恐ろしげな気配だ。
 チェスターが畏怖にも似た感情を抱いたとき、屋上になだれ込んでくる人影があった。
「チェスターさまっ!」
 数人の男女が駆け込んできた。

「近衛兵と……マタミールか。フローリアはどうした?」
「フローリアさまは王の側です」

「そうか。フローリアがいれば、敵の位置が分かったのだが」
 人の意思を感じ取る魔道を使うフローリアは、ある程度離れたところでも、その存在を感じ取ることができた。

 触れれば考えていることが大凡分かるものの、距離があればそこに意思がある程度しか分からない。
 それでも隠れてやってくる侵入者がいれば、簡単に発見できるため、魔国王の側仕えとして重宝されていた。

「まさか、チェスターさまから逃げおおせたのですか?」
 マタミールが驚愕の声をあげる。

「上空に投げ上げたら、魔道が効かなくなった。まだ敵を掴んでいる感覚はあるが、魔道は働いていない」
 上空と言っても真っ暗闇である。目を凝らしてもまったく見えない。

「でしたら、私が照射しましょう」
「最大で頼む」

「分かりました。みなさん目を覆ってください。失明しますよ。さん……にい……いち」
 マタミールが強烈な光を一瞬だけ空に照射した。

 その直前、全員が目を瞑り、すぐに開く。
「あれはっ!」

 闇夜の空に巨大な竜の姿が浮かび上がった。しかも黒い竜である。
「黒竜だと……竜国の属性竜がなぜ」

 強烈な光に目をやられたのか、黒竜は体勢を崩し、斜めに傾いたまま落下していった。
 その先には西の都の倉庫街がある。

 黒竜の巨体は倉庫街へ一直線へ進む。
 それは破壊といえばいいのだろうか。それとも崩壊?

 黒竜の巨体が倉庫をいくつもなぎ倒し、その姿勢で長い距離を飛んだあと、いずことも知れぬ方角へ飛び去ってしまった。

「逃げられたか」
 それを見送り、チェスターが残念そうにつぶやく。
 近くに寄ってきたマタミールの顔色がさえない。

「チェスターさま。あの竜が壊していった倉庫ですけど……」
「どうした?」

「あそこ、出兵前の我が軍がいたと思うのです」
「ッ!?」

 チェスターも思い出した。
 たしかにあの場所に兵を集めていた。
「綺麗に壊れていますね」
 マタミールの言葉にチェスターの顔が歪む。

「まさか敵はそれを狙って……?」

 黒竜の巨体によって、多数の倉庫がなぎ倒された。
 被害が多いのは、たいまつの灯りで照らされた辺りである。
 あそこに何かあると知って破壊しに来たとしてもおかしくはない。

「兵たちは無事でしょうか」
 マタミールの問いかけにチェスターは首を横に振った。
「あの中にいたのならば、無事では済まないはずだ」

 見るも無惨な様相を呈している倉庫街を見るに、彼らがとうてい無事でいるとは思えなかった。

「黒竜、いや黒竜使いめ。やってくれたな」
 彼は技国に侵攻したときも魔国軍の前に立ちはだかったという。

 まさに天敵。魔国を狙い撃ちしに来ているとしか思えない。
 チェスターの歯ぎしりに、となりにいたマタミールが小さく悲鳴を上げた。


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