挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

421/656

421

 一体いつからそこに? ほんの少し前までいなかった。
 僕が気配を見落としたのか? この闇の中で? それはない。

 階下にいる連中の気配はいまだ捉えている。ようやくこっちに向かってこようとしているところだ。

 各部屋を覗かず、まっすぐやってくる。
 これは僕の居場所を知る魔道使いの指示かな。

 やはり気配は正常に捉えられている。僕が闇の中で見逃すなんてありえない。
 とすると、考えられるのは……。

「下から?」

 僕が声を出すと、相手はゆっくりと頷いた。
 やはりそうか。ここは屋上だから四階分の高さ駆け上ってきたのか。

 さすがに建物の反対側の、それも地上の気配までは分からなかった。
 奴はそこから一気にきたようだ。

 ここまでは分かったが、謎がさらに増えてしまった。
 どうやって、一瞬でここまで上がってきたんだ?

 少しでも時間がかかれば、僕なら気づく。絶対に気づく。
 敵地で気を抜くようなことはしない。

 周囲に敵がいないからこそ、姿を現したのだ。
 それで裏をかかれたけれども。

「それでどうやってここまで?」

 体術だけで四階の高さへ一瞬で来ることはできない。敵は魔道使いのはずだ。
 ではどんな魔道なのか。少しでも情報が欲しい。

「もちろん。ここまで落ちて(・・・)来たんだよ」

 敵がそう言った直後、僕の身体がふわりと浮き上がった。

               ○

 チェスターは魔国十三階梯の序列二位である。

 彼は序列一位のバシリスクとともに魔国王を守護する立場であり、バシリスクは決して魔国王のそばを離れない。
 代わりにチェスターが迎撃に出る役目を負っている。

 そんなチェスターのもとに、魔国王がいる部屋まで侵入者に入り込まれたという報告が届いた。
 まさに青天の霹靂である。

 報告から部屋の中で石化が使われたことも分かった。
「中の様子は?」
「中へは入っておりません」

「よし。では人を集めて外を囲め」
「分かりました!」

 魔国王を守る魔道使いたちにとって、一般の兵の存在ほど邪魔なものはない。
 とくに王の近くまで侵入できるような相手では、半端な手伝いがある方が危険なのだ。

 ゆえに中から指示があるまで入らないよう厳命されている。
 指示を出したあとで、チェスターは考えた。

 万が一にもバシリスクがしくじるとは思えない。
 だが不測の事態がおきることも考えられる。

 敵が撤退した場合、バシリスクはそれを追うことはしない。
 魔国王のそばを離れた隙に別の敵が来るかもしれないからだ。

 追うのはチェスターの役目である。
 バシリスクはそう考えるだろう。

「ならば、俺は万一に備えよう。序列二位が伊達ではないことを見せてやるさ」

 もし敵が逃げるとすれば、屋上に出る可能性が高い。
 魔国王のもとまでたどり着けるような連中は、屋上から落ちたところで死なない者ばかりである。

 階段や通路で待ち構えるより、可能性が高い気がする。

 そう考えてチェスターは屋上へ向かった。
 向かったと言っても、彼の魔道『極転位きょくてんい』で上に落ちただけである。

 人が自然落下するのと同じように、チェスターは上に落下した。
 すぐ屋上にたどり着く。そこで佇む人影を見た。予想がドンピシャリで当たったのである。

 これは、目の前の存在がバシリスクから逃げおおせたことを意味する。
 強敵である。

「下から?」

 声からすると男。しかも若い。
 チェスターは余裕をもって頷いたが、内心では舌を巻いていた。

 すぐチェスターに気づいたことがおかしい。無音で地上から来たのだ。完全に背後を取ったにもかかわらず、すぐに気づかれた。

 そしてチェスターを見て下から来たと尋ねた。
 頭の回転が速いのか、洞察力が優れているのか、それとも他に仲間がいるのか。

 いくつかの可能性を考えたが、全身を黒衣で包んだ敵からは何の情報も得られなかった。

「それでどうやってここまで?」

 そう聞いて来ることは、自分がやってきた瞬間は見られていないことになる。
 かなりの洞察力を持っているようだ。もしくは索敵に絶対の自信があるか。

 ゆえにチェスターは出し惜しみをしないことにした。

『極転位』で敵の重力を好きな方角へ動かす。
 どんな人であろうとチェスターの前では赤子同然である。

 重力を支配されてしまえば、敵になす術がない。
 案の定、左や右、斜めなど小刻みに重力を変えてやるだけで、黒衣の敵は面白いように飛ばされる。

 それでも普段はパニックになり、何が何だか分からなくなる。
 自分がどんな体勢になっているのかすら判別できなくなるものだが、この敵は違った。

 たえず、重力が下の方向に足、反対方向に頭をもってこようとしている。
 しかも隙を見てこちらにナイフを投げて来たのだ。

 バシリスクには劣るものの、チェスターもまた、体術は得意である。
 鍛錬はそれなりに積んでいる。
 不自然な体勢で投げられたナイフなど、ものの数ではない。

「……くっ!」

 脇腹に浅く刺さった。
 ナイフだ。だが、いつ投げた? まったく見えなかった。

 チェスターはここではじめて焦った。
 魔国王の部屋までたどり着き、バシリスクから逃げた存在。

 侮っていい相手では決してなかったのだ。
「ならば終わりにしよう」

 重力を操ることは、ただ向きを変えるだけではない。
 重力の二倍、三倍……いや五倍だって出すことができる。

 ただし威力を増すほど魔道の消耗が激しくなるので、あまり使えない。

 チェスターは重力の三倍の力で敵を上空に飛ばした。
 ある程度の高さまで上がれば、今度は同じ力で地上に叩きつける。

 そのとき、もともとの重力が加わって、四倍の威力となる。
「これで終わりだ。はらわたをまき散らせ!」

 チェスターが重力を下向きに変えようとしたとき、敵が何かを叫んだ。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ