挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

42/660

042

 翌朝早く、まだ外が真っ暗な時間帯。

 僕はひどい頭痛で目を覚ました。
 うなされていたらしい。

 国家存亡の話を聞かされて、昨夜は寮に帰ってもなかなか寝付けなかった。

「……今日から授業だというのに、まいったな」

 昨日の出来事を思い出す。

 パンの仕込みをしていたら、ミラがお貴族様と揉めていた。
 出来上がったパンを届けることで済んだが、一歩間違えばいろいろと面倒なことになったかもしれない。

 入学式で狩られそうになって、幼なじみのリンダと会った。
 引っ越していった理由も理解できた。リンダのいまの境遇も。同情できるところもあるが、リンダも狩人だった。

 夜、女王陛下と謁見して敵と味方を処理したことを報告した。
 そのとき、魔国が滅ぶかもしれないという衝撃的な事実を聞かされた。
 竜国だって無事ではすまない。

 それが昨日一日の出来事だ。盛りだくさんな一日だった。
 うーん、朝からやる気がでない。初日だけど授業に行きたくない。

 パンを焼きたい。パンを焼きたい。一日中パンを焼きたい。
 無理だけど、パンを焼きたい。

 ……よし、気分を変えて、日課となった仕込みに出かけよう。
『ふわふわブロワール』。こころの故郷ふるさと

 僕はルームメイトを起こさないように着替えて外に出た。外はまだ暗い。
 そのまま闇に溶けて、パン屋を目指す。

 いまの僕には癒やしが必要だ。
 ゆえにパンを焼く。うん、動理にかなっている。



「どうした? 憂鬱な顔をしているな」

 一心不乱に仕込みをしていたら、ロブさんにそんなことを言われた。
 憂鬱……そんなに顔に出ているのだろうか。

 魔国が滅んで竜国が危ないかもしれないので、それが原因ですかねと言えたら、どんなに楽か。

「悩むことがあったんで、そのせいですかね」
「若いうちはいろいろ悩んでおけ。そのうちどうでもよくなる」

 国家存亡とか、そういう悩みなんだけど、どうでもよくなるかな。

「なるべく気にしないようにします」

「そうだな、それがいい。……そうえいば、今日から授業だろ。外を出歩くときは気をつけろよ」
「えっと、入学式で経験しましたけど、アレですか?」

「まあな。おれたちは昔っから知っているが、入学したての学院生は、王都が珍しいからな。なにかと町中を歩きたがる」
「地方から出てきたばかりだと、そうでしょうね」

「それに家族から支度金とかをもらっていたりすると、どうしても使ってみたくなる」
「買い物、楽しいですしね」

「それで制服のまま商業街にやってくるわけだ。入学式の騒動で気づいても良さそうなものなんだがな」
「あー」

 物珍しいのは自分たちの方なわけだ。

「私服でも、目立つところに竜紋があれば同じだけどな」
 結局はバレて囲まれるらしい。

 最初のうちはそれでもいいが、一度でも顔を覚えられると、それなりにやっかいなので、最初から一般人の振りをした方がいいとロブさんはアドバイスしてくれた。

「分かりました。毎日ここに通っているけど、疑われたこともないですよ」
「そうだな。ウチの従業員でもペラペラしゃべるような奴はいないし、大丈夫だとは思うが……竜紋は左手だったよな。手袋はいいのを買っておいた方がいいぞ」

 意外なことを言われた。
 手袋か。

「支給されたやつが……そっか、学院のものを使うわけにも行かないですね」

 実家から持ってきた野暮ったいのでも僕は構わないのだが、薄いなめし革の上等なのを買ってもいいかもしれない。

「そうですね。今日から購買の品揃えが増えるので、良さそうなのを選んでおきます」
「そのほうがいい」

 昨日までは長期休み用になっていたために、寮の一階にある購買も、一部分しか開けてなかった。

 本格稼働は今日からである。
 どんなものが売られているのか、少しばかり楽しみだったりする。

 パンの仕込みを終えたので、僕は帰ることにした。
 ミラはまだ寝ている。早起きは続かないようだ。

 朝は弱いのだとか。
 パン屋なのに朝が弱いとか、大丈夫か?

 寮に戻ると、セイン先輩が起きていた。
「早いな。どこへ行っていたのだ?」

「知り合いのパン屋を手伝っていました」
「パン屋の手伝い……なぜだ?」
 日頃動じないセイン先輩が驚いている。

「僕の実家がパン屋なんですけど、父がそこで修行していたことがあるんです。だからですかね」
「竜操者にパン焼きの技術は必要ないだろ」

「それはそうですが、長年の習慣は抜けませんよ。別に竜操者だからって、趣味を持っちゃいけないわけではないでしょ?」
「……そうだな」

「学院の生活に影響を及ぼさない程度に留めます」
「そのほうがいいだろう。さて、私も稽古をしてくるか」
 セインさんは剣を取り出した。なるほど、早く起きたのはそのためか。

 竜操者は直接戦わない。
 戦おうとしても、竜の背からでは武器が届かない。

 弓を使う竜操者もいるが、月魔獣にダメージを与えられないので、あまり意味はない。
 竜操者は自分の武芸を磨くよりも、竜の操作を上達させることを第一義とすべきと言われている。
 若いうちは竜操術の優劣が勝敗を分けるとも。

 つまり、セインさんの剣もまた、僕と同じ趣味というわけだ。

 セインさんが出ていったので、僕は着替えを済ませる。
 朝食と昼食は、ロブさんが焼いたパンを持たせてくれたのでそれでいい。

「そうだ、手袋を買うか」

 竜操者専用のものではなく、一般の人が使うようなものだ。
 それで竜紋を隠せば、町に出ても問題ないだろう。

 僕は購買に足を運んだ。

 購買は寮の一階にある。かなり色んなものが売られていた。
 食料品や保存食、日用品。学業に使うものや、竜操者しかつかわないものまである。

「本当に昨日までは購買の一角しか開けてなかったんだな」

 僕は衣類の奥にある革製品の売り場に向かった。

「なめした革だと、これがもっとも薄いかな」

 職人用の高級な手袋をひとつ取った。
 僕が普段使い用にしているのは皮が厚く、ゴワっとしている。
 ここは少々お高くても、いいものを選びたい。

「これをくださ……い?」

 店員に手袋を渡して僕は固まった。

「はい、ありがとうございます」
 にっこりと微笑んだのは、僕の義兄あにだった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ