挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

419/655

419

 闇に溶けたまま室内に入った途端、強烈な光が瞬いた。
 姿を見られないよう物陰に隠れたが、すんでのところで命拾いした。

 僕がいた辺りが石化している。その原因はすぐに分かった。
「バシリスクがいる!?」

 ここはマズイ。非常に危険だ。
 かつて父さんと修行中に交わした言葉が思い起こされる。

 ――いいか、魔国のバシリスクとは絶対に戦うなよ。近くにいると分かったら逃げろ。全力でな

「無理だよ、父さん」
 逃げられるものなら、逃げる。だがこの状況。
 撤退はかなり難しい。

 僕がいるのはソファの影だ。
 ここは縦長の部屋で、会議室か何かだろう。奥に人が固まっている。

 バシリスクがいるならば、この部屋には魔国王がいる。
「つまり、王を守る精鋭が他にもいる可能性があるわけか」

 幸い、バシリスクの石化能力のとばっちりを受けたくないのか、だれも僕が隠れている場所に接近してこない。
 ただし、状況は詰んでいる。

 いま僕がおかれた状態を整理してみよう。
 侵入者と叫んだ女性の声があった。

 僕が宮殿に侵入したときに発見されたのも、彼女の魔道が関係しているのだろう。
 これは要注意だ。闇に溶けた状態で接近しても気づかれるのだから、ここは逃げの一手しかない。

 そして僕を闇から引きずり出した魔道使いがいる。
 強烈な光を照射したヤツだ。

 室内はロウソクの灯りしかない。闇に溶けて移動するにはもってこいの暗さだが、この光を照射する魔道があるせいで、それができなくなっている。

「闇に溶けて移動した場合、探知魔道で見つかって、光の魔道で闇から引きずり出されるわけか。最悪じゃんか」

 姿を現した僕は、その場でバシリスクによって石化されてしまう。
 ヤバイ。これは本格的に詰んでいる。

 なぜこんな事態になっているか。それは部屋の構造に問題があるようだ。
 魔国王がなぜこの部屋にいたのか。それは扉が一つしかないからだろう。
 縦に長い部屋の奥ならば、敵に襲撃される危険性を減らすことができる。

 たしかに守るには良い条件だ。ただしそれは逃亡を捨てることを意味する。
 僕が唯一の出入り口付近にいるために、魔国王は逃げられずにいる。

 僕としてはぜひともバシリスクを連れて逃げてほしいのだけど、物理的にそれが不可能になっているのだ。

「さてどうしよう」
 困った。本気で困った。
 こんなときは、父さんからの教訓を思い出してみよう。

 ――もしバシリスクと戦わねばならなくなったら、今から言うことをよく覚えておけ。

 そう言って、父さんは知っている限りのことを僕に教えてくれた。

「たとえば、石化の距離。一般には二十メートルほどが限界だと言われているが、百メートルくらい先まで届くと覚えておけ。魔道は成長する。昔の知識が後まで有効と思うなよ」

 父さんの言いたいことは分かる。そしてこの部屋の隅から隅まで石化が届くことからも、逃げ場がないことが理解できる。

「隠れるときは、身体全部を隠せ。頭の上部や足の先でも見えていたら、そこから石化すると考えろ」

 足の甲くらいまで見えていれば、ひざ下くらいまでは石化できるらしい。戸板を両手で持って防ごうとした敵に、両手の指から手首まるまる石化させたのを見たことがあったらしい。
 バシリスクと会ったら、身体の一部分だけでも見せてはマズイようだ。

「簡単に後ろを取れると思うなよ。あれの体術は一級品だ。俺でも敵わないからな」

 化物のようにつよい父さんでも敵わない体術ってなんだろう。少なくとも僕の技が通用するレベルじゃないことは分かる。

「まともに戦っても勝機はない。俺が見た中で唯一いい勝負ができたのは、『水流ウォータージェット』という魔道使いだった」

 色付きの水を四方八方から噴出させて、石化能力を無効化したらしい。片っ端から水滴を石化させたところで意味はなく、かといって水滴を見通して敵を石化できるわけではない。

『水流』はその魔道をもって勝利を確信したらしいが、バシリスクの剣術によってあっけなく首を刈られたという。

「簡単に負けてんじゃん!」

 そう思うが、石化能力を一時的にでも無効化できたのは大きな快挙だという。
 これによってバシリスクの能力が少しだけ明らかになって、液体は石化できるが、気体はできないことが分かった。

 雨や霧、湯気などは石化できるが、ガスなどはできない。これが毒ガスなどになると、毒成分だけ石化できるようだが、洞窟の中に溜まる人を窒息させるガスや、火山地帯から吹き出るガスなどは無理だそうだ。

「それが分かっても、なんの慰めにもならないけどね」

 こうして考えると、いまある僕の手でバシリスクを何とかする手段は皆無だと思う。
『闇刀』のような遠隔の攻撃も、回避されてしまうだろう。父さんにも効かない攻撃はやるだけ無駄だ。

 ほかにある材料としては、魔国王の存在だろうか。
 バシリスクがなぜここにいるのか。それは魔国王を守るためである。

 父さんが逃げろと言ったのは、ただ勝てないからだけではない。

「バシリスクは魔国王の側を決して離れない。つまり、魔国王から離れればそれだけバシリスクの危険から遠ざかることができる」

 希望としてはそれだけだ。
 ……で、いまその退路が塞がれているのだけど。

 闇に溶けた僕を感知する魔道使いに、光を照射して僕を闇から引きずり出す魔道使い。
 なんて鬼門な連中ばかり魔国王の周りにいるんだろうか。

 まさか僕対策ってことはないよな……。さすがにそれはないか。
 どちらも守るに適した能力なので、魔国王に重宝がられているのだろう。

「唯一の救いは、あの光の魔道、連続が無理なことかな」

 先ほど強い照射があった。ほぼ一瞬だった。
 そしてかなり明るいなという状態が一定期間照射されたが、僕がソファの影から出てこないので、それもいまはない。

 つまり、闇から引きずり出す強烈な光は常時出していられないのだと思う。

「そのことを踏まえて脱出……もしくは一泡吹かせられないだろうか」

 僕はソファの影で考えを巡らせた。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ