挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

417/660

417

 フローリア様が侵入者を感知したとのことです。
 魔道使いたちの控え室に、護衛が駆け込んできた。

「ついに来たか。全員準備はいいな」
 十人を超える魔道使いたちが頷く。

 チェスターは机上に広げられた地図を凝視する。

「出現場所はどこだ?」

「またしても正面玄関です」

「うん? 前回と同じか。学習能力がないのか、自信があるのか。『風牢ふうろう』の感知結界をかいくぐったのだから、腕は悪くないはずだが」

 チェスターはしばし考えた。

「ララ、呪国人たちの半分を正面玄関に向かわせてくれ。前回と同じ敵ならば、視認性はすこぶる悪い。どこかに隠れているならほじくりだしてやれ」

「分かったわ」
 魔国十三階梯第十二位、『瞬移』のララは、ひとつ頷くと控室を出て行った。

「はやる気持ちもあるだろうが、他の者はこのまま待機だ。今回は長期戦になるかもしれない。気を緩めることなく頼むぞ」

 理想は呪国人と魔道使いたちで敵を囲ってしまうことだ。
 敵は何らかの方法で発見できない魔道を使っている。

 これまで有力な説は、地下を掘り進めてきたものだった。
 だがこの三日間、周辺の地面をいくら調べても、そのような痕跡は発見できなかった。

 次に出た案は、光の屈折を利用して姿を隠したのではないかというものだった。

 だが、『風牢』は人が動くときに出る風を感知する。
 いくら人の目から見えなくても、『風牢』の魔道はごまかせない。

 しかも『風牢』の感知結界は上空まで覆っている。
 そのため、どのようにして侵入してきたのかは、いまだ分かっていなかった。

「チェスター隊長。黥人げいにんを使う必要があるんですか?」
 魔道使いマバリアが問いかけてきた。

 黥人とは、身体の見える部分にまでいれずみを入れた呪国人のことで、彼らの使う特殊能力は希少であり貴重であることはだれでも知っている。

「陛下のお膝元に侵入者を迎え入れるわけだからな。万全を期したい」
「なるほど。分かりました」

 実際、黥人と呼ばれるだけ黥を入れた呪国人は少ない。
 体表に書き入れるスペースがなくなればもう、特殊能力は使用できなくなってしまう。

 呪国人の力は有限なのだ。

 かつて黥を入れる墨を作る墨師すみしは多数存在していた。
 今は数えるほどである。

 いまは呪国人が力を発揮しづらい環境になりつつある。

 呪国人は魔道使いのような力を振るうことができるが、それはすべて黥のおかげである。
 力を使える回数が有限であるものの、墨師や彫師ほりしさえいれば、呪国人はみな魔道使いとなれる。

「過去の大転移で滅びなければ、今ごろ呪国人は大陸の半分は手中に収めていただろうな」

 彫師が一日に彫れる黥の数はどのくらいか分からないが、かつて呪国は他国へ侵攻できるくらいには、戦闘力が高かった。

 国が滅び、民が散り散りとなり、墨師と彫師の数が激減したいま、呪国人が浮き上がる目はない。
 他国にいいように使われ、その能力を無駄遣いするしか道は残されていない。

「とにかく今は、発見に力を入れている。姿さえ見えれば私たちの出番だ。そうなれば存分に働いてもらうぞ。魔国の深淵を覗こうとした者に鉄槌を食らわせてやれ」

 程なくして、護衛が駆け込んでいた。
 敵と接触、交戦したという。

               ○

 やはり僕の侵入は気づかれている。
 天井を移動したのに、なぜだろうか。

「いや、原因を考えている場合じゃないな」

 撤退して再起を図りたいところだが、それは下策だ。
 すでに二度失敗している。

 これ以上時間をかけても警戒されるだけだ。
 ここは強引にいくしかない。

 密かに潜入して情報収集は諦めた。
 重要そうな資料をいくつか盗み出して撤退しよう。

「そうと決まれば……」

 重要なものを仕舞っておく場合、一番人が来ない場所が相応しい。
 たとえば最上階の一番奥とかだ。

 ここはまだ入口だから、まっすぐに奥を目指すと、敵戦力もみなそこに集まってしまう。

「撤退すると見せかけるかな」
 侵入時に見つかった者がよく使う『まぎれ手』だ。

 僕は適当に建物の中心部まで進み、そこで待つ。
 複数の足音が聞こえ、兵がやってくるのが分かった。

 闇に溶けた僕を見つけるのは難しい。
 今のうちに有利な場所に移動しておく。

「こっちだ!」

 なぜか知らないが、移動先までバレている。
 相当優秀な魔道使いがいる。

 僕はそこから更に移動し、暗闇の中に姿を現す。
 兵がやってきたのを見計らって、『闇刀やみがたな』で兵の首を掻き斬る。

 声を出す暇を与えず、二人まで倒した。

「なんだ?」
「音がしたぞ」

 甲冑が床と接触する音を聞きつけて後続が現れた。
 僕は出口へ向かって移動し、合間に敵を切り裂いていく。

 暗がりから突然刃が出てくるのだ。
 分かっていなければ避けることはできない。

 ひとり、またひとりと兵が倒れていく。

 建物の奥から点々と出口に向かって人の死体が転がる。
 これで僕は脱出したかもしれないと思わせられる。

「もちろん、魔道使いにはバレているだろうけどね」

 だがそれこそが『まぎれ手』の真骨頂だ。
 現場の兵は外へ逃げたと判断し、魔道使いはまだ中にいると判断する。

 現場と司令塔、どちらの意見に従えばいいのか分からなくなる。
 相反する二つの命令に戸惑っている間、僕は奥を目指して進むのだ。

「できれば強敵が出てきませんように……」

 見つかっている上で何を甘いことをと思うかもしれないが、全方位敵ばかりの宮殿で、大立ち回りはしたくない。

「絶対にしたくない」
 僕は目立たず、指令をやり遂げたいのだ。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ