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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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「侵入者です」

 会議の途中、今まで一言も発することなく魔国王のそばで控えていた女性が、突如として立ち上がった。

 灰色のローブを身にまとった魔道使いだ。
 彼女の名はフローリア。魔国最高の結界師である。

 十代の頃より結界の技を磨きつづけ幾十年。
 今では他に並ぶ者のいない魔道使いとして成長した。

「だれか!」
 会議のメンバーが声を荒らげると、すぐに護衛が入室してきた。

 視線がフローリアに集まる。

「正面玄関に侵入者です。数は一人。通路を突き当たりまで向かってから左に曲がりました」
「!? ただちに向かいます!」

 宮殿に近づく者がいた場合、複数の監視の目にさらされる。
 どんな手練れであろうとも、どこかで見つかるはずだ。

 護衛の男はそう信じて疑っていなかった。
 まさか宮殿内部に侵入されてから気づくとは!

 慌てて部屋を出て行く護衛を見送り、会議のメンバーの間に重苦しい沈黙が流れる。

「たった一人の侵入者か?」
 魔国王がゆっくりと尋ねる。

「はい。他に気配はありません」
「ここまでたどり着けそうかね」

「初めてのようで、動きに迷いがあります」
「……そうか」
 それっきり魔国王は黙ってしまった。

「では賊のことは、近づいてきたときにでもまた。……それではおのおの方、会議を続けてよろしいかな」
 参加したメンバーは頷く。

「話が中断してしまったので、ここまでの確認からいきましょう」
 口を開いたのは、魔国王を政治的に補佐するルードス。国内では副宰相の地位にいる者だ。

「これからの行動ですが、西の都を放棄して、国内に戻るという案は変わりません。幸い、食糧はなくなりつつあるとはいえ、飢える前に行動を起こせそうです」
 全員が頷く。

「問題は、兵種のかたよりりですが、今ある装備と戦力でなんとかするしかありません。月魔獣の大型種は、一般の兵では手が出ませんので、魔道使いたちが総出で作戦を練っております」

 ルードスが提案するのはあくまで政治的な側面だけであり、軍事的な部分に関しては魔国十三階梯第二位のチェスターに任せてある。

 チェスターが否といえば、ルードスとて強行するつもりはない。
 別の政治的選択をするだけである。

「失礼します! 侵入者、発見できませんでした。また『風牢ふうろう』殿から、侵入者の気配無しと受けております。

 現場に向かった護衛が戻ってきた。
 だがその奇妙な報告に、みなフローリアに視線を送る。侵入者がいるのではなかったのかと。

 魔国王の周辺を警護する者たちは優秀である。
 何かに秀でていると言っていい。

 それは剣技であったり、体術であったり、勘であったりする。
 彼らが向かって、何も見つけられなかったという。

 さらに、宮殿の外には『風牢』と呼ばれる魔道使いが風の魔道で感知結界を張っている。
 どんなに死角からこようと、上空からこようと、『風牢』の目をごまかすことはできない。

「地下かもしれんな」
 会議に参加したメンバーのひとりがそう言った。

「あり得る」
「敵は土魔道使いか」

「フローリア、いまはどうなっておる?」
 魔国王が問いかけた。

「自分を探していることに気づいたようです。範囲外へ出て行きました」

「そうか……引き続き頼む」
 魔国王に言われ、フローリアは頷く。

「聞いたとおりだ。警戒を厳重にし、侵入者へ備えよ」
「はっ!」

「しかし、ここまで探りにきたとは……どこの者ですかな」
 ここは侵入者にとって敵地のど真ん中。

 何重もの監視がある場所である。
 侵入に長けた者でも躊躇するであろうここに単独でやってくるのだから、腕は確か。
 しかも度胸もある。

「よほど自信があるとみえますな」
 誰かが言った。会議のメンバーも頷いている。

 情報を得て持ち帰る自信があるのだ。
 隠密が得意なだけではない可能性がある。

 それでもやることは変わらない。

「……続けます。調査の結果、ここと我が国の間にはびこる月魔獣の数はおよそ八十から百五十。多くが大型種です。この数が不正確なのは遠くまで見通せないからです」

 八十から百五十という数に、会議のメンバーはうめく。
 とてもではないが、いまの戦力で太刀打ちできる数ではない。

「我々の動向を本国にいるご子息も案じていることでしょう。いまどこにいるか分かりませんが、すでに軍を率いて待機していることも考えられます」

「あれは慎重な男だ。むやみに暴発することもあるまい」

「はい。戦端は開かれてないものと推測しております。ただし、我が軍が戦っているのが分かれば、必ずや助けに来てくれることでしょう」

 それが唯一の勝機。
 戦力も物資もある魔国側からの援軍があれば、月魔獣地帯を抜けることができる。

「兵の士気を保つため、食糧消費に制限はつけておりません。月魔獣の活動限界を迎えるより早く、我々の食糧が尽きてしまいます」

「かくなるうえは、一戦あるのみか」
「その通りにございます」

 商国の物資がアテにできなくなったいま、ここに持ち込んだもので勝負するしかない。
 死兵として突撃させ、魔道使いたちが限界まで力を出し切る。

 その上で魔国側からの援護があれば、あの月魔獣地帯を抜けられる。
 それがルードスの立てた生きのこり策であった。

「ではもう少し具体的な策を……」

「侵入者です。前と同一人物だと思われます。数は一人。先ほどの反対側、南の通用門から侵入してきました」
 フローリアが叫んだ。

 兵による監視を強化したばかりである。今回も『風牢』の魔道には引っかかっていない。
 やはり地下からの侵入か。

 会議のメンバーはそんなことを思った。


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