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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 暗い町中で、不自然に明るい一角がある。
 道路脇に設置された多くの火が、空をあかね色に塗り直している。

「見張りは……いるな」

 間違いない。
 兵たちがここに集まっている。

 僕が拠点を作ったのが町の東側とすれば、ここは西側。
 ここもまた東と同じような造り。西の倉庫街だ。

 東側と違うのは、決まった距離ごとに歩哨が配置されていることだろうか。
 闇に溶けたまま、ざっと周囲を巡る。

 歩哨が何を守っているのか。
 建物の中に兵がいると考えれば、それなりの数がここに集まっていることになる。

 ひょっとすると、ほとんどの兵がここに集結しているのかもしれない。

 歩哨の位置を確認しつつ、見つからないように一周した。
 やはりというか、魔道結界は敷かれていない。

 魔道結界がないのは、兵の出入りでも反応するからだろう。
 この分ならば、機械式の仕掛けも設置されてないと思う。

「簡単に潜入できそうだな」

 闇に溶けたまま、暗がりを移動する。
 歩哨の横をするりするりと抜けていく。

 よほど注意して見ない限り、影の濃さの違いは分からない。
 勘の鋭い人でも違和感を抱くことは少ないはずだ。

「……ふう」

 歩哨に見つからずに中へ入ったが、問題はここからだ。
 怖いのは、巧妙に隠された機械式の仕掛けと、よく訓練された犬だ。

 ここの倉庫街だが、ざっと見た感じ、東側と大差ない。
 町の七割は倉庫が建っている。
 商人たちが何の目的でこの町を利用してきたのかよく分かる。

「この建物……扉が開け放たれて、中に人の気配があるな」
 倉庫のひとつを覗いてみる。

 兵たちが寝ていた。
 天井が高いせいか、中でテントを張っているのもいる。

「雑魚寝か。ざっと見渡して、建物の中に六、七十人くらいかな」

 あとで倉庫の数を数えてみよう。
 ここにいる兵の数が概算で出せる。

 開け放たれた扉がある倉庫には、どれも同数くらいの兵が寝ていた。
 扉が開いたままなのは、用足しやちょっと外へというときに、開け閉めをしないで済ますためだろう。

 ゆっくりと西の倉庫街を見て回ると、扉が閉まった倉庫から明かりが漏れているのが見えた。
 見張りの交代要員がいるのだろうか。

 闇に溶けたまま向かってみると、どうやらそこは兵の本部、もしくは上官の詰め所らしかった。
 広い倉庫を贅沢につかい、大きなテーブルと立派な椅子が運び込まれている。

「起きているのは……五人か」
 寝ているのが十五人で、他に十人ほどが起きているか寝ているのか分からない感じで佇んでいる。

 彼らの間に会話はない。
 しばらく様子を窺っていたが、変化がなかったので他を見て回ることにした。

「まあ、初日だしな。多くは期待しない方がいいかな」
 じっくりと時間をかけて建物をひとつずつ見回ったが、これといった収穫はなかった。

 唯一分かったのは、ここには魔道使いや、将校の階級にある者はいないことだった。
 いても下士官程度だ。

 これは別の場所に重要人物たちが集まっていることを意味する。
 それだけ理解して、脱出する。
 行きとは違う道を通り、僕は拠点に戻った。

 寝床に辿りつくころには、空が白みはじめていた。

 なんにせよ、初日の探索ではとくに成果は得られなかった。
 明日に期待しよう。



 日中まで仮眠をとり、ぼそぼそと起き出した。
 僕のいる倉庫はいまだ誰も入ってこない。

 しばらく耳をすませていたが、近くを通る人の足音もほとんど聞こえてこない。

「これはあれかな。仕掛けのある倉庫の探索は、もうやってないな」
 それらしい音が聞こえないので、兵たちは別のことをしているのだろう。

 そのまま倉庫内で息を潜めて、夕方近くになってから、僕は行動を開始した。

 僕がいるこの倉庫の中は、光が入ってこないため薄暗い。
 闇に溶けたまま外へ出る。

 外はいまだ夕刻になったばかり。すぐに闇から身体が出てしまう。
 周辺に人の姿はないので、それでも問題ない。

「さて、昨夜の場所へ行ってみるか」

 日中、兵たちが何をしているのか気になる。

 建物の陰に隠れながら注意して進む。
 死角が多く、通りに人が少ないので、こんな時間でも見つからずに動けるのが救いだ。

 兵の宿舎に使われた倉庫街が近くなってきたところで人の声がする。
「……うん? こっちか」

 昨晩の場所とは少し違う。
 何をやっているのか興味があるが、このまま進むと見つかる可能性が高い。

「さて……」

 気配を消している今、建物の陰から出ない限り見つかることはないだろう。
 このまま夜を待ってもいいが、兵が何をやっているのか知りたい。

 暗くなれば、彼らは作業を止めてしまうだろう。
「……よし。屋根からいくか」

 よほど高みを見るのが好きな人以外は、気づかれない自信がある。
 壁をつたい、屋根に上る。

 ここからは慎重に念入りに気配を消して進む。
 すると……。

「戦争……の準備?」

 兵たちは、武器の手入れや装備の確認といった分かりやすいものから、運搬する荷の整理や数量の確認などをしている。
 他にも小分けした物資を積み込んでいる。

 これらはみな、どこかへ遠征に出かけるときにやる作業だ。
 拠点防衛、つまり西の都に籠もって戦う場合、これらの準備は必要ない。

「どこへ行くつもりだ?」

 よく戦争は金がかかると言われるが、このように兵が移動して戦う場合、消耗する物資だけでなく、万一のときに必要となるかもしれない物資まで含めて準備するからこそ、金がかかると言える。

 準備の念入りさから、ある程度の長期戦を視野に入れているように思える。
 といって、どこへ攻め込むのだ?
 ここから出撃する場合、向かう方向は三カ所。

 一番可能性が高いのが、東進して東の都を押さえること。成功すれば商国は消滅する。
 東の都を守るのは傭兵団のみなので、勝機はある。

 ただし、東の都も対策をしているだろうから、占領に成功しても得るものがあるのかどうなのか。

 もしくは南下して、兎の氏族を狙う可能性もある。
 その場合、ディオン氏族長が万全の体制で待ち構えているため、激戦は必至。

 魔国軍も斥候を出しているだろうから、それは分かっていると思うが、あえて狙っていくとも考えられる。

 そうなったら、偶然を装ってシャラザードで介入してもいい。
 すでに兎の氏族では身内扱いなので、問題ないだろう。

 最後は西へ戻る道だ。
 技国と魔国の国境付近に出没した大型の月魔獣はほぼ排除したが、それより北、つまり魔国と商国の国境付近は手つかずで残っている。

 どこかの町を攻めるのではなく、月魔獣を排除しに動くとも考えられる。

 ちなみに北はアラル山脈があるため、軍を向かわせることができない。
 あの山脈はそうそう簡単に越えられない。軍を出すだけ無駄だ。

「……さて、魔国軍の狙いはどこだろう。ここにいるのは末端の兵だけだし、やっぱり将校がいる場所に潜入するしかないのかな」

 出撃準備をしていることから、残された時間はそれほどなさそうである。

 よし今夜は、より位の高い者たちのいる場所に忍び込んで、情報を得よう。



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