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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 シャラザードへの聞き取りを終えて、僕は学院に顔を出した。
 アンネラの方はどうだろうか。ちょっと心配だ。

 寮の一階でアンネラが出てくるのを待つ。
 僕の前に現れたアンネラの表情は重く、疲れの色が見えた。

「やあ、アンネラ。そっちはどうだった?」
「だいたい終わったと思います」

「ならば話のすり合わせをして、王宮に報告できる部分を一緒にまとめよう」
「はい。レオン先輩の方はどんな感じでした?」

「僕の方もだいたいと言った感じ。聞き出すのに少し苦労したかな。それと部分的にしか分からないこともあったね。それはシャラザードも知らないことみたいだけど」

「やっぱりそうですか。ターヴェリさんも同じ感じです。とくに最後の方はわたしもよく理解できませんでした」

 ここで話せる内容ではないので、場所を移動して、寮の裏手にある林へ向かった。
 人が来ないので、内密な話をするのに都合がいい。

「まずはシャラザードとターヴェリの因縁についてかな」
「そうですね」

 僕はシャラザードから昔の話を聞いている。
 月魔獣、シャラザードの言うゾックとの戦いの話だ。

 シャラザードがいたころはもう、ゾックとの戦いは劣勢になっていて、多くの国が滅んでいた。

 崩壊を少しでも伸ばそうと、シャラザードは配下の竜を引き連れてゾックと戦い続けていた。
 だが、劣勢を挽回することはできなかったという。

 できるのは延命措置のみ。
 だけどそれは意味のある延命だった。

「死者の門については聞いた?」
「いえ……あっ、魂の門のことですか?」

「そうだと思う。死した魂が通る門のことだね。僕が聞いた話だと、魂をこっちに送る計画があったとか」

「罪人を送ったとわたしは聞きましたけど」
「それで合っている。最初は罪人の魂で実験したんだから」

 かつてシャラザードが生きていた世界では、こことは比べものにならないくらい、魂の研究が発達していた。
 魔道の大本は、魂を扱うところから来ているのだという。

 人の強い思いを現実世界に具現させる今の魔道使いとは、少し趣が違うように思う。

「永久凍土に封じられる魂の救済。同時に新しい世界での活動……」
 アンネラもまた、ターヴェリから聞いたようだ。

 僕も初めてシャラザードから聞いたときは驚いた。

 人は死ぬと、魂だけが抜け出して死者の門をくぐる。
 それは以前から言われていた事らしい。

 北方諸国と東方諸国の間にその名前がついた門が実在したというから驚きだ。
 死者の門をくぐった魂は永久凍土で魂が浄化される。

 だが、まれに浄化されずに……というか、別のところに迷い込んでしまう魂があったらしい。
 うっすらと前世の記憶を残している人が出始めたのだ。

 彼らが言うには、どこか違う場所に降り立ち、穏やかな生を終えて戻ってきたと。
 魔道によって無意識下の記憶をのぞき見て、それが嘘ではないと判断された。

 彼らの魂は永久凍土ではなく、どこに向かったのか?
 それは長年の謎だった。

 ゾックの襲来とその支配地域の拡大によって、その世界の住民たちは居場所を次々と失っていった。

 魂が迷い込んでしまう者もまた、増えていった。

 そこはゾックのいない世界で、理想郷とか楽園と呼ばれ、どこにあるのか、どうすれば到達できるのか、しきりに研究されるようになった。

 魂に魔道的な印をつけて、それがどこへ向かったのかを探せばよい。
 そう考えたが、いくら魂に印をつけたとはいえ、人はいつ死ぬか分からない。

 また、運良く死んだとしてもその魂が永久凍土に行かず、目的の場所へうまく迷い込むとも限らない。

 研究には長い年月が必要と思われた。
 だがゾックは待ってくれない。

 そこで重大な罪を犯した罪人の魂に印をつけて処刑したのが始まりらしい。

 何十、何百という魂に印をつけて跡を追った。
 そうして分かったのは、永久凍土に向かわずに迷い込んだ先は、なんと頭上に輝く双子ふたご星だったのだ。

 これにより研究は一気に進み、どうすれば魂を意図的に迷い込ませられるか、その研究がはじめられた。

「魂の門って、この世界にもあるのですよね」
「そうみたいだね。僕がシャラザードから聞いた話だと、それこそが竜の聖門なんじゃないかって思う」

「あれが魂の門……」

 魂が迷い込む先が分かったとはいえ、課題は残っていた。
 どうやって魂を永久凍土へ進まないようにするかだ。

 ただしこの研究はすぐに暗礁に乗り上げた。
 どうやったところで、魂の進路を指定することができないからだ。

 そこで別の研究が始められた。
 それが永久凍土にある魂の救済である。

 魂に印をつけることができるならば、条件付けもできる。
 永久凍土に向かった魂を条件付けでなんとかできないか。

 この魂の救済には、複数の研究が行われていた。
 ひとつは魂の保護。

 永久凍土で魂が浄化せず、ずっと保っていられるようにすること。
 ただしこれは人の魂では強度が足りなかった。

 印をつけた魂は、永久凍土に入るとかなり早い段階で浄化されてしまう。
 浄化してしまえは魂は霧散し、消え去り、何も残らない。

 魂の強度を考えると、実用可能なのは竜の魂以外あり得なかった。
 こうして一斉に竜の魂を保護する計画がはじまった。

 では人の魂はどうすればいいのか?
 その研究が最終段階にはいったとき、ゾックの大侵攻がはじまった。

 すでに残っているのは、世界のほんの一部のみ。

 シャラザードはゾックに抗い、戦った。

「その過程でターヴェリさんは亡くなったんですよね」
「そう。勝手に向かい、勝手に死んだターヴェリをシャラザードは許してないんだと思う」

 シャラザードの怒りはそこだった。
 先に永久凍土に向かったターヴェリにシャラザードは酷く腹を立てている。

「結局、人の魂は救済されたのでしょうか」

「さあ。シャラザードもそこは知らないみたい。シャラザードもまた遅延作戦のため、残った勢力を率いて決戦に向かったからね。けど、こうして僕らがいるってことは、ゾックの侵攻を遅らせることができて、魂の救済が完成したんじゃないかな」

 それは僕の一方的な願望だけれども。
 そのときはもう、見届けるはずのシャラザードはいない。

 だけど、僕らがここで人の社会を築き、シャラザードが竜の聖門からやってきたんだから、成功したんだと思っている。

「それならば、シャラザードさんとターヴェリさんが争う必要なんてないように思えますけど」

「もとから喧嘩ばかりしていたみたいだしね。お互い我の強い竜だし、引かないよね」
「な、なるほど」

「それに、シャラザードはともに戦うはずのターヴェリが先に逝ったのを許せないようだけど、それは自分自身が許せないのかもしれない。ターヴェリは、先に逝ってしまってシャラザードに後を託さねばならなくなった負い目を感じて、余計に強く出ているのかもしれない。こんなこと言うと、双方とも否定するかもしれないけどね」

 結局、属性竜ってやつらは、唯我独尊なのだ。
 ただ大転移が間近に迫ったいま、互いにいがみ合っている場合じゃない。
 それは理解できていると思う。

 つまり時間が解決する。
 それまで別行動でもいいんじゃなかろうか。

「それか、まわりに被害が出ない場所で思いっきりやらせてみる?」
「そ、それは……」

 僕の提案に、アンネラはどん引きした。

 いい案だと思ったんだけどな。


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