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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 陰月の路の軌道は、竜国の中央からやや北よりに走っている。

 大転移によってこのまま北上した場合、大きな被害はあるだろう。
 だが、事前に分かっているならば対処できると思う。

 七大都市のひとつ、クロウセルトを中心とした北方に暮らす住民たちを移住させる必要があるが、それだけである。

 魔国の場合は、事情が違う。
 陰月の路が国の南側に走っている。
 このまま北上すれば、魔国の首都が壊滅する。

 それだけではない。
 魔国の南部と西部は岩山が多く、耕作に適さない地である。
 魔国の国民を養っているのは、北部にある穀倉地帯なのだ。

 もし穀倉地帯が潰えたら、魔国内への食糧供給が完全に絶たれてしまう。

「首都がなくなり、飢えが魔国中を満たしますね」

「そうなのよね。四年後にそうなることが分かっている場合、どうなるかしら」

 魔国が摂るべき手段。
 急いで南部か西部の開発をする……うん、無理だ。

 痩せた土地を開墾したところで、たかが知れている。
 大転移対策として荒れ地の開梱をするはずがない。

 交易によって食料を得る。
 これも難しい。一時的な災害ならばまだしも、この先何百年も食料を輸入に頼るわけにはいかない。

 ということは答えはひとつしかない。

「……土地を奪い取る、ですか?」

「そうなるわよね」
 のほほんと女王陛下は仰った。

 奪い取ると言っても、商国には財はあれど、耕作地は少ない。

 そもそも商国は、山脈のふもとにある国だ。
 面積は四つの国の中で一番小さい。

 では一番南にある技国か。
 技国は確かに裕福だ。
 陰月の路からはずれ、月魔獣の脅威にさらされていない。

 だが、考えてほしい。
 魔国はこれから大混乱に見舞われるのだ。
 大転移がおこれば、大量の月魔獣がやってくる。

 国内が混乱するのは目に見えている。
 技国を占領したとして、四年後の混乱で奪い返されることも十分考えられる。

 そもそも技国は、氏族国家しぞくこっかだ。
 征服は簡単にいかないだろう。首都を落とせばお終いとはならない。

 すべての氏族を屈服させる?
 時間も準備も足りないだろう。

 だとしたら、どこを狙う?
 同じ大転移で混乱を起こす国。
 つまり竜国だ。

 もともと仲が悪いので、心が傷まない。
 そう考えるかもしれない。

 両国とも同時期に大混乱がおこるのだから、条件は五分と五分。
 だったら、賭けに出る可能性はあると考えるのではなかろうか。

「理解したみたいね」
「魔国が我が国に食指を伸ばす理由があるということですね」

「そうなのよ。ただでさえ竜操者は月魔獣と戦うために陰月の路に貼り付けなければならないのに、魔国と争うなんて、面倒よね」

 女王陛下は国家存亡をかけた戦争を、『面倒』のひと言で片付けた。
 竜国存続の危機かもしれないのに。

「昔、呪国じゅこくがございましたが、あれが滅んだのはたしか……」

 魔国の南に呪国という名の国があった。
 呪国の位置は、商国と技国の西にあたる。

「滅んだのはさきの大転移のときね。技国の都市がひとつ独立して、商業圏をつくったのよね、あのとき。呪国が独立した都市を狙って動きだしたところで大転移が起こったみたい。あの時はどの国も大転移を予知できなかったわ」

 僕も少しだけ知っている。
 大転移が起こる前、月魔獣の降下が増えるらしいのだ。

 月魔獣の出現が問題になっていたため、呪国は打開策として、技国から独立した商業圏を襲った。

 その途中、運悪く大転移がおこった。

 大量に出現した月魔獣に、呪国はなすすべがなかった。
 慌てて自国に向かった呪国兵。
 だが、たどり着いた頃には、首都は跡形もなくなっていたという。

 呪国は滅び、その土地を魔国と技国、そして新しく商国を名乗った三つの国によって分割統治された。

 呪国の国民は散り散りとなり、四つの国に吸収されていった。

 そんな大転移がもうすぐやってくる。
 これは大変なことだ。

「女王陛下は、戦争になるとお考えですか?」
「なると思うわ。少なくとも、それ以外に魔国が生きる道は残ってないもの」

 僕もそう思う。
 大転移は月の軌道が変わるだけだが、記録では数年かけて、徐々に移動していくとある。
 その間、絶え間なく鋼殻の落下――つまり月魔獣が現れ続けるのだ。

 月の軌跡すべてが、月魔獣の降下地点となる。
 そこに町があれば滅びる。首都とて例外ではない。
 牧草地帯や穀倉地帯も同じである。

 どのくらい月が移動するか分からないが、前回の移動距離からすると、馬車で三、四日分はゆうにあるだろう。
 魔国はその中心部に壊滅的な被害を受けることが確定してしまった。

「情報を知られてしまったので、魔国からの干渉が増えると思うの。だからお願いね」
「はい……すべては女王陛下のために」

 こうして僕は、ソールの町と同じく、王都でも〈右手〉をすることになった。
 こうなったからには、否はない。ヘタすると国が滅ぶわ、これ。

「レオンが王都に来てくれてちょうど良かったわ」

 朗らかに笑う女王陛下に、僕は敵わないなと思った。
 少なくとも、この人は国家存続の危機でも、落ち着いていられる胆力の持ち主らしい。

「誠心誠意尽くさせていただきます」
「つなぎを送るから、がんばってね」

 僕は深く頭を下げた。


 つなぎ?

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