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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 この日、僕の驚きをどう表せばいいだろうか。

 竜迎えの儀でシャラザードと因縁のありそうな竜が現れた。
 騎乗しているのはアンネラ。

 シャラザードは激昂して叫んでいるので、仲の良い竜とは思えない。
 シャラザードが意思疎通しているのは不思議だ。
 今までそんなことはなかった。

 僕はあらためて竜を見つめた。
 全身が赤いので赤竜だ。つまりシャラザードと同じ属性竜の可能性が高い。

 大きさもシャラザードと変わらないので、ほぼ間違いないと思う。
 そしてシャラザードの恫喝に一歩も引かない。胆力も本物だ。

「シャラザード、止めろ!」

 襲いかかろうとしたので、慌てて制止したが、僕の声は聞こえていないようだ。

「ターヴェリさん? どうしちゃったの?」

 アンネラの悲鳴が聞こえてくる。
 どうやら向こうも同じ状態らしい。

 シャラザードが叫ぶと、相手もグルルとうなり返すが、僕には理解できない。
 シャラザードの一方的な話だけだが、互いに旧知の仲であることが分かる。

 なぜこうも仲が悪いのか謎だ。

『よし分かった。ならば白黒付けるまでだ』

「赤と黒だろ、おまえたち」
 白黒はつかないと思う。

 二体の竜が空中でぶつかり合い、地上から悲鳴が上がる。
 というか、観客が逃げ出している。

 当たり前だ。去年シャラザードの咆哮をまだ覚えている観客も多い。
 たとえ経験していなくても、噂で聞いたことがある人がほとんどだろう。

 そして今年。
 そのシャラザードと、新しくやってきた同程度の竜が戦い始めたのだ。
 会場に残っているのは命が惜しくない者か、すくんで動けない者たちだ。

「止めろ、シャラザード。止めるんだ!」
 僕の言葉がむなしく響く。




「どういう理由でこうなったのか、しっかりと説明しなさい」
 僕とアンネラはいま、怒られている。

 属性竜どうしの喧嘩は、周囲に大きな被害をもたらした。
 会場の一部が崩れ、竜迎えの儀は中止となった。

 僕がシャラザードを引き離し、アンネラがターヴェリをなんとか宥めた。
 互いに姿が見えない場所まで離して安心したところで、王族から呼び出しを受けたのだ。

 僕らを呼び出したのはサーラーヌ王女ではなく、その兄のジルベルト王子だった。
 ジルベルト王子の噂は、僕も何度となく聞いたことがある。

 いわく、真面目過ぎて融通が利かない。
 正直で実直に政務をこなすが、イレギュラーな事態に弱い。

 話が理論整然としていて堅苦しい。
 本人はとても頭が良く、周囲も自分と同じだと思っている。

 規律を重んじ、はみ出したことを嫌う。
 母親ではなく、父親に似た。

 褒めているんだか、そうでないんだか分からない評価だ。
 まとめると、僕からしたら非常にとっつきにくい人物と言える。

「まだ私は答えを聞いてないのだが」
 黙っていると、同じ質問を繰り返してくる。この辺は性格がよく表われていると思う。

 とにかく、冷静に質問を繰り返す王子に、僕とアンネラは目を見交わし、どう答えればいいのか、頭を働かせる。

 シャラザードたちが争った理由。
 そんなもの、僕らだって聞きたいくらいなのだ。

 それを正直に述べても、この場は好転しない。

「相性……でしょうか」
 シャラザードとターヴェリの確執は知らない。

 そのため、言えることは限りなく少なかった。

「相性とは?」
「えっと……最初から反りが合わないのかと愚考致します」
「もう少し真面目に答えたらどうかね」

 結局、お説教と質問が交互に続き、埒があかなくなると、尋問まがいの追求に変わった。

 何をどう言われても分からないものは分からない。
 最終的には、王子がさじを投げる形で終了した。

「沙汰は追って知らせる」
 そう言い残し、王子は去って行った。あまりいい結果とは言えない。
 被害の規模を考えたら、穏便な方だろうか。

「あー、疲れた」
 アンネラが伸びをする。この娘、意外と大物かもしれない。

 時刻は夕方を通り越して夜になっていた。
 どれだけの時間怒られていたのやら。

「あの……レオン先輩」
「ん?」

「今回の件、まことに申し訳ありませんでした」
 アンネラが深々と頭を下げる。

「いや、竜を得たばかりのアンネラが御せるものじゃないから、アレは」
 ターヴェリがシャラザードと同じ性格ならば、一年経っても無理だろう。

「ですが、あれ。わたしが原因ですよね」
「シャラザードも悪いしね。どっちがということはないと思う」

 双方が空中で暴れて、手綱をつけていなかったアンネラが空中に投げ出されて終わった。
 もちろん地面に激突するまえに、ターヴェリがしっかりとつかまえた。

 その際、観客席が壊れた。
 それで竜迎えの儀は中止。

「これでまた噂が立つんだろうなぁ」
 ちょっと遠い目をしたくなってくる。

「わたしの商会でターヴェリを使いたいんですけど、怖がられるでしょうか」
「悪評は甘んじて受けるしかないかな。……けどアンネラの場合、当初の予定は狂ったんじゃないかな?」

「えっ、どういうことですか?」

「おそらくだけど、ターヴェリもシャラザードと同じ属性竜だから、食事の頻度は変わらないと思う。その場合、アンネラの商会だけで年間の餌代を賄うのは不可能じゃないかな」

「あーっ、そうか。考えていませんでした」
 小型竜でもギリギリ。事によったら足が出てしまう可能性があった。

 竜の飼育費だけでなく、竜操者としてアンネラ自身の維持費もかかるのだ。
 大きな商会でなければ、中型竜すら囲えない。ましては大型竜と同じくらい食べる属性竜をアンネラの商会で賄うことは不可能と言える。

「ど、どうすればいいんでしょうか」
「王城から何か言ってくると思うけど、パトロンの追加か変更は覚悟した方がいいだろうね」

 目に見えてアンネラが落ち込んだ。
 その気持ちは分かる。僕だって、思い通りの人生なんて歩めていないのだ。

「その話の前にこっちの件で城から呼び出しがあるだろうね」
 僕は振り返り、半壊した会場を見渡した。

 ターヴェリの尾が軽く触れたくらいだが、観客席の一部が見事に崩壊していた。

「そうですね。べ、弁償かしら……」
 アンネラは深いため息を吐いた。


本作品の閑話『嵐と炎の不協和音』の連載を開始しました。
お月様にいた頃のターヴェリのお話です。

それが完結後、『シャラザード物語(仮)』へと続きます。
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