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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 竜の聖門に向かう道すがら、「これで自分も守れるようになりますか」そうレゴンは問いかけてきた。

 何がとは言わなかった。
 誰をとも聞かなかった。

 ただレゴンは、「守れるようになれるか」とだけ。

 それに対する答えを僕は持ち合わせていない。

 昔、父さんが言っていた言葉が思い起こされる。

 ――守ることは壊すよりずっと大変で、とてつもなく強い力が必要だと

 これがレゴンの問いに対する答えだろうか。
 少し違うと思う。

 レゴンは王都近郊の出身だ。
 昔から、安全で守られた場所に住んでいる。

 彼が問う「守るもの」とはそれを脅かす存在。月魔獣のことだろう。
 だから僕は、こう答えるしかない。

「守れるようになれるのかどうか。僕には分からない。……けれど、守ろうとすれば、目に見える範囲だけなら、可能なんじゃないかな」

 月魔獣の脅威は大転移を迎えるにあたって、最大限に高まっている。
 いま明確に勝利を予見しうる者は……いない。

 だからレゴンの問いの答えは、誰にもできない。

「分かりました。自分も……全力を尽くしてみます」
 それが心優しいレゴンの返答だった。

 その後は互いに無言で進み、渓谷の入口に到着した。

「ここからは一本道だから迷うことはないからね」
「はい。ありがとうございます」

「竜の聖門に着いたら竜導神官がいるから、竜を得たら自分でさっきの会場まで戻ってきてね」
 竜を操縦して戻って来られた姿を観客に見せるのだ。

「レオン先輩、ここまでありがとうございました」
「がんばって」

「はいっ」
 僕は「じゃ」とだけ言ってその場を去った。

 竜操者は、竜を得てからの方が何倍も大変だ。
 レゴンもそのことをすぐに知るだろう。

 だから今だけは、希望をたくさんもってほしい。
 誰でも何でも守れるような竜がやってくることを夢見てほしい。

 僕がシャラザードと舞い上がると、胸を張って渓谷を歩いて行くレゴンの姿が見えた。



 会場に戻ると、十体の竜が整列していた。
「中型竜は……まだ一体か」

 小型竜の中にポツンと大きい竜が並んでいる。
「帰還する途中で見かけたクリスは小型の走竜だったな。レゴンは何を得るだろうか」

 僕ら二回生は会場の隅で待機だ。
 竜操者がやってこなかった場合、竜の制御に失敗したか、途中で道を見失った可能性がある。

 そのときは担当した者が探しに行かねばならない。
「そういう事態はままあるとは聞いたけど、大丈夫だよな」

 少しだけ心配していたが、レゴンは小型の地竜を得て会場に戻ってきてくれた。

「あとは終わりまでゆったりできるな」
 探しに行く必要もなくなった。
 これでシャラザードの背でまったり過ごせるかと言えばそうでもない。

 なぜか僕は注目されているのだ。
 観客の入りは多く、かなりの人が僕の方を見ている。

 ここは他の竜操者と同じく、しっかりとしていなければならない。
 という顔をしつつ、頭の中は魔国への潜入について考えていた。

 竜迎えの儀は粛々と進み、先ほどアンネラも出て行った。
 竜は半分以上戻って来た感じだろうか。
 儀式が終われば、昨年できなかった楽団の演奏が始まるはずである。

「昨年はシャラザードのせいで迷惑をかけたよな」
 勝手に竜を従えさせて、式典の後半がグダグダになってしまった。

 もうあんなことは二度とご免だ。

 僕がぼーっと頭を空っぽにしていると、シャラザードがピクリと動いた。
 珍しい。

「……ん? どうした?」

 普段なにかと暴君的な行動をするシャラザードだが、やり過ぎると月魔獣狩りに行かせてもらえないことを理解しているため、こういうときは微動だにしていない。

『……来る』
 低い声でそれだけ言った。

「来るって? もしかして月魔獣か?」
 陰月の路が動いているのは知っていたが、この辺にも月魔獣が出没するのか?

 式典の途中だが、大型種ならば僕が出た方がいい。

「シャラザード、来るってどんな感じだ? 詳しく教えてくれ」
『来る。間違いない……ヤツがまっすぐこっちに向かってくる』

「マジで?」
 ということは飛行種か?

『もう見えるぞ』
 シャラザードが唸りを上げた。隣にいた竜操者も、近くの観客たちもシャラザードの変化に気づいた。

 僕もシャラザードが見ている方角に目をこらす。
 すると、小さな点が見えてきた。何かが飛んでいる。

 かなりの速度だ。
 グングンと近づいている。

『ぬおおおおっ、こうしてはいられん』
 シャラザードが飛び上がった。

 何事かと、会場の視線がすべてシャラザードに集まる。
 同時に観客たちは、シャラザードが何を気にしているのか理解した。

「シャラザード、あれはっ!」
『やはりか。ここで会ったが百年目だ!』

 シャラザードは空中で縦に一回転し、速度を乗せて飛来してくる竜に襲いかかった。

 やって来たのは赤い竜。
 大きさはシャラザードと変わらないくらい。

 背中には……アンネラ!?

『やはりババァかぁ!』
 シャラザードが吠えた。

『ほう、懐かしい気配と思ったら、坊やかい。ケツの青いガキがなにをイキんでいるかと思えば、アタシが怖くて仕方ないんだねえ』

『んだと、この腐れババァがぁ! 今からその老体を貪り喰ってやろうか!』

「お、おい、シャラザード! な、何を言っているんだ!?」
「タ、ターヴェリさん? どうしちゃったの?」

 僕が驚きの声を上げると同時に、アンネラの悲鳴じみた声も聞こえた。

『主よ、待っておれ。今からちょっとあのババアを亡き者にしてくるのでな!』
『ほう、ずいぶんと大きく出たね。ケツに卵の殻をつけたひよっこが』

『出番はもうないのが分からんのか。さすが耄碌もうろくしたババアは違うな』

『随分と強気だこと。アタシの顔にションベン引っ掛けた幼竜の頃を忘れたと見えるね。若いのに物忘れが激しいのは頭の病気かい?』

『んだとコラァ! また引っ掛けてやるから顔を出しやがれ!』
『とんだ性癖を持って育っちまったね。そいじゃチョイと矯正してやるかね』

『上等だ、コラァ。かかってこいやぁ!』
「お、おい。シャラザード。マジでなんなんだ?」

 シャラザードが吠えると、赤い竜もまた吠えた。

 耳をつんざく轟音にたまらず会場を見ると、そこは阿鼻叫喚の坩堝るつぼと化していた。

 ……あ、これ駄目なやつだ。
 僕の呼びかけは、シャラザードに届いてなかった。



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