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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 一月七日。
 竜迎えの儀、当日。

 早朝から一回生たちが慌ただしく動いている。
 今日は彼らが本番。段取りの最終確認だ。

 僕ら二回生は、彼らを竜の聖門まで連れて行くのが役目となる。
 複数の竜紋持ちが竜の聖門に近づくと良くないので、送っていくのは渓谷の入り口まで。

「おはようございます。レオン先輩」
 僕の姿を見つけてアンネラがやってきた。

「ひさしぶり。そしておはよう、アンネラ。よく眠れたかな」

「はい……いえ、楽しみにしすぎて、ちょっとだけ寝不足です」
 アンネラは兎のように赤い目をしていた。

 楽しみなのは分かる。アンネラの場合、竜を得るのは商会にとってかなりのプラスとなる。

「今日は長丁場だからね。体力は残しておいた方がいいよ」
「そうなんですか?」

「去年は式典が長くてね。竜迎えの儀が始まるまでに飽きちゃったかな」
「そんなにですか」

「王都に住んでいる人なんかは、それが分かっているから、だいぶ後になってから見に来るよね」
「なるほど」

 なにしろ、外出好きの王女殿下がこの式典だけは嫌がるくらいだ。
 お偉いさんの挨拶がだらだらと続くので、途中で嫌になるらしい。

 今日も参列するのは王子殿下ではなかろうか。

「アンネラは僕と同じで、軍属にはならないんだよね」
「そうです。自分の商会で賄っていこうと思います」

 アンネラには小さな商会だと、餌代含めて維持が大変だと話したことがあったが、結局頑張るつもりのようだ。
 商会のメンバーも応援してくれているらしい。

 そういう意味でも、団結力のある商会だと思う。
 もしかすると、アンネラも商会も大きく化けるかもしれない。

 そんな気にさせてくれる。

「じゃ、僕はそろそろ行くね。また会場で」
「はい」

 アンネラは満面の笑みで手を振ってくれた。

「……さて僕も戻るか」

 開始前に僕が来たのは、一回生と同じく最終確認だったりする。
 通常は授業のときに習っているらしいが、僕は参加していない。

 去年は団体行動をして、流されるままに参加した。
 シャラザードを得てからは、何が何だか分からないうちに終わってしまったので、去年の記憶はアテにならない。

 どこで順番を待って、どのルートを辿ればいいのか。
 そして一回生を下ろしたあとはどこに戻ればいいか、それを確認したのだ。

 しばらくは式典が続くため、二回生は操竜場で待機となる。
 時間が来れば個々に呼ばれるので、慌てないようにしたい。

「朝から見学かい?」
 操竜場にいくと、アークが話しかけてきた。

「どうしてもね。授業に出ていなかったから、勝手が分からなくてさ」

 間違えて恥をかくくらいならば、事前に見ておけばいい。
 そう考えての行動だ。

「クリスは楽しみにしすぎて、熱を出さないといいけど。昨日はちゃんと寝られたのかな」
「お母さんみたいな心配をするのな」

「ああ、たしかに母親の気分だよ。この竜迎えの儀は、子どもの発表会を見守る感じ?」
「アークが子持ちになったとは知らなかった」

 冗談ではなく、アークはやきもきしているらしい。
 一回生は昨日のうちに会場入りしているので、今日は顔を合わせていない。

「キミはレゴンだね。彼は落ちついているから安心できるかな」
「どうだろ。僕は外出してばかりで、あまりシャラザードに乗せてないんだよな」

 この一年間、寮のベッドで寝たのは数えるほどだった。

「そういえばそうだったね。さすがは属性竜か。でも、そのおかげで竜国が月魔獣の脅威を感じずにいられたなら、良かったんだろうね」

「そう言ってもらえると助かるよ。レゴンにとってはいい先輩ではなかったと思うし」
 もう少しやりようがあったかもしれないが、とにかく僕に用事が多すぎた。

「今頃は式典の最中かな」
 ここからでは会場の熱気も伝わってこない。

「長い話を延々と聞かされるわけか。……しかし、竜迎えの儀は毎年どうしてああなのかな」
 さっと始めて、さっと終わらせればいいのに。

「外部に対する権威付けじゃないかな。一生に一度の晴れ舞台だし、思い出に残るように考えたのかもしれないね」

「でも簡単に終わらせた方がいいだろ」
「それはキミだけの考えかもよ。見学にくる両親や親類、近所の人まで呼ぶ場合もあるっていうじゃないか。少しでも長く見ていたいというのも人情じゃないかな」

 わざわざ遠くから何日もかけてやってくるのだ。
 そのくらい見返りがあってもいいということらしい。
 なるほど、考えたこともなかった。

「……おっ、呼びに来た。そろそろか」
「竜迎えの儀、本番が始まるね」

「ひとりずつ竜に乗って会場の近くに移動するらしい」
 しばらくアークと談笑していると、順番が来たと言って、アークも出ていってしまった。

「今度は僕か」
 僕も名前を呼ばれたので、シャラザードの所へ行く。

 シャラザードも退屈そうにしていた。
『主よ、このまま月魔獣を……』
「行かないからね!」

 ここですっぽかしたら、えらいことだ。
 さすがにフォローできない。

 会場近くまでいくと、まだ竜を得て戻ってきた竜操者は皆無らしい。
 順番が回ってくるのが早かったようだ。

「おっ、アークが出て行った」

 クリスを乗せて、走竜が街道をひた走っている。
 この日のために、竜が使う街道はすべて通行止めになっている。

 兵たちが要所に立ち、安全を確認してくれている。

「おっ、レゴンが呼ばれたな。じゃ僕もいくか」
 僕がシャラザードに乗って会場に入っていくと、一際大きな歓声が鳴り響いた。

 いや、一部悲鳴にも聞こえる。
 悲鳴じゃない……よな?

「レオン先輩、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」

 レゴンのパトロンは王都で手広くやっている商人。
 古くからの知り合いで、実家の宿屋とも付き合いがあるらしい。

 レゴンを乗せて出発……といきたいところだが、シャラザードの飛行は早いので、先に出発した竜を追い越してしまうことがある。

 少しもったい付けるようにして時間を稼いだあと、僕たちは出発する。

「よしシャラザード、ゆっくりな」
『あい分かった!』

 シャラザードは僕とレゴンを乗せて、空高く飛翔した。


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